炭水化物とインスリン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/07 21:46 UTC 版)
炭水化物が多い食事は高血糖を有意に惹き起こす。砂糖を含む飲み物も高血糖の明確な原因となる。 通常、炭水化物を摂取すると、体内でブドウ糖に合成され、高血糖状態になる。インスリンはブドウ糖の細胞への取り込みを促進し、脂肪細胞からの脂肪酸の放出を抑制・妨害し、それによって身体が脂肪ではなくブドウ糖を最優先でエネルギー源にするよう促進する。インスリンは肝臓でのケトン体の産生を抑制し、脂肪の沈着を促進し、主要な代謝燃料の循環濃度までも低下させる。一方、炭水化物をほとんど含まず、脂肪分が豊富な食事を摂ると、肝臓は脂肪を脂肪酸(Fatty Acids)とケトン体に分解する。ケトン体は脳に入り、ブドウ糖に代わるエネルギー源として消費される。血中のケトン体濃度の上昇は「ケトーシス」(Ketosis)と呼ばれ、この状態になると、癲癇の発作の頻度を低下させる。なお、この「ケトーシス」と、糖尿病患者の体内で起こる「糖尿病性ケトアシドーシス」(Diabetic Ketoacidosis)は全くの別物であり、両者は明確に区別される。 炭水化物は、脂肪やタンパク質に比べてインスリンの分泌にはるかに大きな影響を及ぼす。インスリンは食事における満腹感を減少させ、摂食行動にも影響を及ぼす。炭水化物の摂取を減らすと、インスリン抵抗性は緩和される。炭水化物を制限する食事は、インスリンの濃度が高い患者に有益である証拠が示された。 炭水化物が少なく、脂肪が多い食事は、空腹感と満腹感に大いに影響を与える。炭水化物が多く、脂肪が少ない食事(カロリー制限食)と比較すると、高脂肪食は体脂肪を減少させ、身体のエネルギー消費量の増加を促進する。 炭水化物を制限する食事は、体重を減らすという目的においても、低脂肪食よりも優れている証拠を示している。 また、炭水化物を制限する食事は、低脂肪食よりも大幅に体重を減らし、心血管疾患の危険因子も減少させる。 炭水化物の少ない食事は、血糖値とその制御の大幅な改善につながり、薬物の服用回数を減らせるだけでなく、服用の必要も無くなる可能性があり、この食事法は2型糖尿病の改善と回復にも効果的である証拠が示された。 ケトン食療法(The Ketogenic Diet)を含めて、炭水化物を制限する食事法は安全であり、長期に亘って健康を維持し、さまざまな病理学的状態を防止または逆転させる力がある。ケトン食を止めると(炭水化物の摂取を増やし、脂肪の摂取を減らすと)、片頭痛や癲癇発作が再発する。 「炭水化物は肥満およびそれに伴う疾患の主要な推進力であり、精製された炭水化物や糖分の過剰摂取を減らすべきである」と結論付け、炭水化物を「Carbotoxicity」(「炭水化物には毒性がある」)という造語で表現する研究者もいる。 食後の血糖値の上昇とインスリンの分泌を最も強力に促進するのは炭水化物である。タンパク質もインスリンの分泌を刺激するが、インスリンと拮抗する異化ホルモン、グルカゴン(Glucagon)の分泌も誘発する。一方、食べ物に含まれる脂肪分は、インスリンの分泌にほとんど影響を与えない。この生理学的な事実は、低糖質・高脂肪食が人体に有益であることを示す理論的根拠となる。 ハーバード大学の元医学部長ジョージ・F・ケイヒル・ジュニア(en:George F. Cahill Jr.)は、 「Carbohydrates is driving insulin is driving fat.」(「脂肪を操るインスリンを、炭水化物が操る」) との言葉を残している。 肥満、インスリン抵抗性、メタボリック症候群、2型糖尿病を患っている患者が、炭水化物の摂取を制限し、脂肪に置き換えて食べると、最大限の効果が得られる可能性がある。 体重を減らしたい人、心血管疾患の危険因子を減らしたい人にとって、炭水化物が少なく、脂肪(トランス脂肪酸を除く全ての脂肪。飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸)が多い食事はその選択肢となりうる。 1日を通して、インスリンの濃度が高い状態を避けることは、脂肪の蓄積を防ぐという意味でも大いに有効である。断食も有効な手段となりうる。
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