溺水のBLS
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/08 23:51 UTC 版)
ライフセーバー、ライフガードなどの熟練救助者を除き、深みで溺れている傷病者に対し、水中に踏み入っての救助は非常に難しいばかりでなく救助者と溺水者のどちらにとっても危険であり行ってはならない。救助者の安全が最優先されるべきである。JRC2010ガイドラインではこの点を以前より強く強調している。 救助者は最もすばやく実施できる方法で溺水傷病者を水から引き上げ、できるだけ早く蘇生を開始するべきである。溺水者に対して救助者が足の着かない水面で呼気を吹き込むことは有効かもしれないが、これはそのトレーニングを積んだ熟練救助者だけが行ってもよい方法である。訓練を受けていない者は、水深のある場所ではどんな蘇生処置も試みてはならない。 なおヨーロッパ蘇生協議会(ERC)のガイドライン2005には「傷病者を5分の救助時間内に陸へ運ぶことが可能ならば、移動中も救助呼吸を続行する。陸地まで5分以上かかると予想されるならば、さらに1分間の救助呼吸を行い、その後はさらなる人工呼吸はせずにできるだけ早く傷病者を陸地へ向けて運ぶ」とあるが、ヨーロッパだけであり、同時点のILCOR国際コンセンサス(CoSTR)、AHAガイドライン、JRCガイドライン2005、2010にはその記述はない。 救助者は反応のない溺水傷病者が水から引き上げられ次第CPRを行うが、その場合人工呼吸に重点をおく。 溺者は水を飲み込んでいることが多いが、それを吐かせようとすることは時間をロスするだけで無意味である。この水は急速に中心循環に吸収される。特に腹部突き上げ法(ハイムリック法)は、胃液の逆流とそれによる誤嚥を引き起こす。この方法では生命にかかわる他の損傷を引き起こしたこともある。総じてCPRの開始を遅らせ、困難にするだけである。気道から肺に達した水が海水か、淡水かで引き起こす障害は変わるが、しかし、吸入している水の量はそれほど多くないので、両者を特に区別しなくてもよいとされる。 かつては、海水を排出する体位として足または腰の部分を高くして頭を低くするトレンデレンブルグ体位が奨励されていたが、現在では推奨されていない。 溺者における頸椎損傷の発生率は約0.5%と低く、明らかな損傷や運動麻痺を認めない場合は全脊柱固定を実施する必要はない。 胃液等の嘔吐は救助呼吸を受けた傷病者の2/3、胸骨圧迫と人工呼吸を受けた者の86%に起こり、気道の維持を困難にする。もし嘔吐が起きたら、傷病者の口を側方に向け、あるいは体ごと横に向け、吐物を取り除く。 呼吸停止を過ぎ、心停止にまで至った溺者の予後は楽観できない。また、息を吹き返した場合でも、水を飲み、それが肺胞中に入ることで肺浮腫が生じ、24時間経たない内に「二次溺死」する可能性があるので、救助直後は一見異常がなくとも必ず医療機関に受診・入院させるべきである。 水没した時に吸引した水で反射的に喉頭痙攣が起こり、喉を塞ぐ場合がある。この場合は肺内への水の吸入は少なく、乾性溺水と呼ばれ溺水者の10~20%にみられる。 溺者は状況によっては低体温症を併発することがある。窒息状態のときの低体温症は酸素の消費を抑える働きもあり、水没時間の割に蘇生率があがることもあるが、救助後はこの低体温症への対策が重要になる。
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