母と娘
『有明けの別れ』巻1 左大将は妻との間に姫君をもうけるが、妻の連れ子(=継娘)をも犯し、男児を産ませる〔*継娘は左大将に犯された後、左大将の息子とも関係を持ち、女児を産む。彼女は、男装の右大将の名目上の妻となって、「対の上」と呼ばれる〕。
『とはずがたり』(後深草院二条)巻1・巻3 後深草院は少年時に、大納言典侍(だいなごんのすけ)から新枕を習い、以後、彼女を人知れず慕っていた。しかし彼女は久我雅忠に嫁し、やがて娘二条を産んだ。後深草院は二条の成長を待ち、院が29歳、二条が14歳の、文永8年(1271)正月に、強引に関係を結んだ。
『北方行』(中島敦) 折毛伝吉は中国へ渡り、大学に籍だけ置いて遊び暮らしている。彼は、白夫人(日本人女性が中国人白雄文と結婚して白夫人となった。夫は死去し、現在は未亡人)と、その娘麗美の双方と、性関係を持っていた。伝吉は、白夫人の肉の衰えを見て、麗美のみずみずしい肉体を思い描く。そして、いつか読んだ『祝詞(「六月の晦の大祓(みなづきのつごもりのおほはらへ)」)』の中の、「母と子と犯せる罪」「子と母と犯せる罪」という言葉を思い出し、「自分は、どちらに当たるのかな」と考えた〔*中島敦の遺稿で、未完の長編小説〕。
*「母と子と犯せる罪」は、女と関係を持った後に、その娘とも関係を持つ罪。「子と母と犯せる罪」は、女と関係を持った後に、その母親とも関係を持つ罪。
『ロリータ』(ナボコフ) 30代後半のハンバート・ハンバートは、12歳の少女ロリータを手に入れるために、彼女の母親シャーロットと結婚する。シャーロットはそのことを知った直後に、手紙を3通書き、それを投函すべく家から走り出、自動車にはねられて死ぬ。
*母が、娘の恋人を誘惑して関係を持つ→〔宴席〕3bの『卒業』(ニコルズ)。
『盲目物語』(谷崎潤一郎) 浅井長政公の死後、その奥方(=お市の方)に、羽柴秀吉が思いを寄せる。その思いは叶わなかったが、後に秀吉は、奥方の姫君お茶々どのを我がものとして(=淀君)、親から子にわたる2代の恋を遂げた。盲目の法師である「わたくし(弥市)」は、奥方に10余年間お仕えして幸せだったが(*→〔手ざわり〕2)、落城で奥方御自害の折、お茶々どのが若い頃の奥方そっくりであることを知って(*→〔背中〕2b)、「この後は、お茶々どのにお仕え申したい」と思う。しかしお茶々どのは「わたくし」を疎み、願いは叶わなかった。
『うたかたの記』(森鴎外) 狂王ルードヴィヒ2世は夜会の折に、画工スタインバハの妻マリイを追い、自分のものにしようとするが、スタインバハに押し止められる。数年後、マリイの娘(母と同名のマリイ)が湖で舟遊びをするのをルードヴィヒ2世は見かけ、「マリイ」と叫んで湖水に踏み入り、溺死する〔*娘も失神して舟から落ち、水死する〕→〔蛍〕4。
『まつら長者』(説経)6段目 大和国の故松浦長者の娘さよ姫は、亡父の法要の費用工面のため、身売りして奥州へ下る。母は娘と別れた悲しみで、盲目の物狂いとなって袖乞いをする。後、奥州から無事に戻ったさよ姫は、母を捜して再会する〔*『さよひめ』(御伽草子)に類話〕→〔開眼〕6。
『ウィンダミア卿夫人の扇』(ワイルド) アーリン夫人は20年前、ゆりかごの中の娘マーガレットを置き去りにして、愛人のもとへ奔(はし)った。マーガレットは「母は死んだ」と聞かされ、成長して富豪ウィンダミア卿の妻になる。アーリン夫人はウィンダミア卿に近づいて金を得ようとするが、その時、マーガレットが不倫疑惑で窮地にあることを知る。アーリン夫人はマーガレットを救い(*→〔扇〕3)、自分がマーガレットの母親であることを教えないまま、去って行く。
★6.母を呼ぶ娘。
『和漢三才図会』巻第78・大日本国「伯耆(ははき・はうき)」 昔、手摩乳(てなつち)・足摩乳(あしなつち)の女(むすめ)稲田姫が、八岐大蛇(やまたのをろち)に追われて山中へ逃げ入った時、母(手摩乳)がやや遅れた。稲田姫が振り返って、「母来ませ、母来ませ」と言ったので、その地を「母来国」と号し、後に「伯耆」の字を用いた。
*母親が娘の幸福を願って、娘を家から追い出す→〔愛想づかし〕5の『ステラ・ダラス』(ヴィダー)。固有名詞の分類
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