文法と簡略化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/31 23:28 UTC 版)
「インド・ヨーロッパ語族」の記事における「文法と簡略化」の解説
分化が始まった時点でのインド・ヨーロッパ祖語(印欧祖語)は、多様な語形変化を持つ言語だったと想定されている。しかし時代が下り、言語の分化が大きくなると、各言語は概して複雑な語形変化を単純化させていった。 数 印欧祖語には文法的な数には単数と複数の他、対になっているものを表す「双数」(両数、対数とも呼ばれる)があったと考えられているが、のちの時代にはほとんどの言語で消滅した。現在でも双数を使うのはスロベニア語、ソルブ語、スコットランド・ゲール語、ウェールズ語、ブルトン語などごくわずかに過ぎない。 性 印欧祖語にあったと考えられる男性、女性、中性という3つの文法的な性の区別は、現代でも多くの言語に残るが、一部では変化している。例えば、ロマンス語派の大半やヒンディー語では男性と女性のみになり、北ゲルマン語派の大半やオランダ語では男性と女性が合流した「通性」と中性の二つの性が残っている。英語、ペルシア語、アルメニア語ではほぼ消滅した。 格 印欧祖語は、名詞・形容詞等の文法的な格として主格、対格、属格、与格、具格、奪格、処格、呼格の8つを区別していたと考えられている。紀元前のインド・ヨーロッパ諸語にはこれらを残す言語がいくつかあったが、後世には特に名詞・形容詞については概ね、区別される格の種類を減らしている。スラヴ諸語ではチェコ語やポーランド語の7格、ロシア語の6格など豊富な格変化を残す言語があり、ルーマニア語は5格、ドイツ語、アイスランド語では4つの格が残っているが、ヒンディー語などは2つの格を持つのみである。その他の言語では名詞・形容詞の格変化を失った言語が多い。多くのロマンス諸語は名詞・形容詞の格の区別を失っている。英語の名詞は主格と所有格(属格が意味限定的に変化したもの)を残すのみである。名詞や形容詞の格を退化させた言語も代名詞に関しては格を区別するものが多いが、ペルシア語のように代名詞についても格変化をほぼ失った言語もある。 印欧祖語は、主語・目的語・動詞の語順が優勢なSOV型言語だったと考えられており、古い時代のインド・ヨーロッパ諸語、例えばヒッタイト語、インド・イラン語派の古典諸言語、ラテン語ではその特徴が見られる。但し、後にSOV型以外の語順の言語も現れ、SOV型は印欧語に典型的な語順とまでは言えなくなっている。現代では言語により語順は様々だが、ヨーロッパでは主語・動詞・目的語の語順が優勢なSVO型言語が比較的多く、ドイツ語のように本質的にはSOV型でも一見SVO型のように見えるSOV-V2語順の言語もある。一方、中東やインドでは現在でもSOV型言語が多い。
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