捕虫のメカニズム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/03 06:39 UTC 版)
タヌキモ属の捕虫嚢が作動する仕組みは単純で、ハエトリグサやムジナモ、モウセンゴケなどの他の食虫植物とは違い、植物に獲物が触れた刺激を感知する機構があるわけではない。メカニズムとしては、絶えず能動輸送によって捕虫嚢外へ水を排出するという機構がはたらいているだけである。捕虫嚢の扉にある毛状の構造は、「感覚毛」 などと言及されることもあるが、ハエトリグサやムジナモにみられる構造のように刺激を感知して反応を起こす器官としての役割はない。 捕虫嚢の内容液は外液との浸透圧に差はないと考えられており、捕虫の際に嚢内に吸水した液体については、外液と内液の浸透圧の差によって排出されているのではなく、嚢壁細胞を通じて液体を移動し、嚢外に排出すると考えられている。 水が排出されると捕虫嚢は内向きにたわみ、内部が減圧状態になる。たわんだ嚢壁はばねのようにエネルギーを蓄積する。そして最終的に、捕虫嚢の内液と嚢壁の細胞との浸透圧の差によって排水が停止し、捕虫嚢が「セット」された状態になる。捕虫嚢の扉は、入口の下部にある柔軟な部分によって押さえられる。毛状の構造は感覚器官ではないが、何かに触れられた際の振動などで、ぴったりと閉じられていた扉に隙間を生じさせ、そこから水が流入するため、実質的には平衡を破る引き金の役割を果たすことになる。 水が流入し、入口が開くと毛状構造に触れた動物プランクトンなどが水と共に吸引される。捕虫嚢の両側の緊張は即座に緩み、楕円形になる。捕虫嚢内が水で満たされると入口はすぐに閉じられる。この一連の過程が完了するまでの時間は、1000分の10秒から1000分の15秒である。獲物が捕虫嚢内にいても内部の水は排出され続け、次の捕獲準備までにはわずか15-30分しかかからない。 ふつう捕虫嚢に捕らえられる生物は、水生の甲殻類、ダニ、線形動物、輪形動物、原生動物などとされている。取り込まれた獲物は、通常数時間以内に消化酵素によって溶かされる。例えばゾウリムシは、捕虫嚢に取り込まれて75分ほどで消化される。消化酵素には、プロテアーゼ、酸性フォスファターゼ、エステラーゼなどが含まれている。しかし一部の原生動物は高い消化耐性をもち、数日間捕虫嚢内で生存することもある。 また捕虫嚢内には、内液に存在する栄養分を利用するバクテリア、放線菌、藻類などが多く生息しており、微生物群集を形成している。その微生物群集の構成比は、捕虫嚢が形成されてから経過した時間によって変化している。このことから、タヌキモ属植物と捕虫嚢内の微生物群集が一種の共生関係にある可能性が示唆されている。
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