拡散との関係
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/25 07:35 UTC 版)
何故、リッチフローを定義する発展方程式が、一種の非線形拡散方程式であるかということを理解するためには、詳細に 2次元多様体の特別な場合を考えると、2次元多様体上の任意の計量テンソルは、指数函数的等温度座標 (exponential isothermal coordinate chart) では、次のような形として記述できる。 d s 2 = exp ( 2 p ( x , y ) ) ( d x 2 + d y 2 ) . {\displaystyle ds^{2}=\exp(2\,p(x,y))(dx^{2}+dy^{2}).} (これらの座標は、距離ではなく角度を正しく表現することから、共形的な座標系をもたらす。) リーマン多様体のリッチテンソルやラプラス・ベルトラミ作用素を計算する最も容易な方法は、次式のエリー・カルタン (Élie Cartan) の微分形式の方法を使うことである。 σ 1 = exp ( p ) d x , σ 2 = exp ( p ) d y {\displaystyle \sigma ^{1}=\exp(p)\,dx,\;\;\sigma ^{2}=\exp(p)\,dy} すると、計量テンソルは σ 1 ⊗ σ 1 + σ 2 ⊗ σ 2 = exp ( 2 p ) ( d x ⊗ d x + d y ⊗ d y ) {\displaystyle \sigma ^{1}\otimes \sigma ^{1}+\sigma ^{2}\otimes \sigma ^{2}=\exp(2p)\,\left(dx\otimes dx+dy\otimes dy\right)} となる。 次に、与えられた任意の滑らかな函数 h(x, y) に対し、外微分 d h = h x d x + h y d y = exp ( − p ) h x σ 1 + exp ( − p ) h y σ 2 {\displaystyle dh=h_{x}dx+h_{y}dy=\exp(-p)h_{x}\,\sigma ^{1}+\exp(-p)h_{y}\,\sigma ^{2}} を計算し、ホッジ双対 ⋆ d h = − exp ( − p ) h y σ 1 + exp ( − p ) h x σ 2 = − h y d x + h x d y . {\displaystyle \star dh=-\exp(-p)h_{y}\,\sigma ^{1}+\exp(-p)h_{x}\,\sigma ^{2}=-h_{y}\,dx+h_{x}\,dy.} を得て、もう一つの外微分 d ⋆ d h = − h y y d y ∧ d x + h x x d x ∧ d y = ( h x x + h y y ) d x ∧ d y {\displaystyle d\star dh=-h_{yy}\,dy\wedge dx+h_{xx}\,dx\wedge dy=\left(h_{xx}+h_{yy}\right)\,dx\wedge dy} を得る。(ここに、外積の反可換な性質を使う。)つまり、 d ⋆ d h = exp ( − 2 p ) ( h x x + h y y ) σ 1 ∧ σ 2 {\displaystyle d\star dh=\exp(-2p)\,\left(h_{xx}+h_{yy}\right)\,\sigma ^{1}\wedge \sigma ^{2}} となる。もう一つのホッジ双対は、 Δ h = ⋆ d ⋆ d h = exp ( − 2 p ) ( h x x + h y y ) {\displaystyle \Delta h=\star d\star dh=\exp(-2p)\,\left(h_{xx}+h_{yy}\right)} をもたらし、これらはラプラス・ベルトラミ作用素の求めていた形 Δ = exp ( − 2 p ( x , y ) ) ( D x 2 + D y 2 ) {\displaystyle \Delta =\exp(-2\,p(x,y))\left(D_{x}^{2}+D_{y}^{2}\right)} を与える。曲率テンソルを計算するには、考えている双対標構の双対ベクトル場の外微分を取る。 d σ 1 = p y exp ( p ) d y ∧ d x = − ( p y d x ) ∧ σ 2 = − ω 1 2 ∧ σ 2 {\displaystyle d\sigma ^{1}=p_{y}\exp(p)dy\wedge dx=-\left(p_{y}dx\right)\wedge \sigma ^{2}=-{\omega ^{1}}_{2}\wedge \sigma ^{2}} d σ 2 = p x exp ( p ) d x ∧ d y = − ( p x d y ) ∧ σ 1 = − ω 2 1 ∧ σ 1 . {\displaystyle d\sigma ^{2}=p_{x}\exp(p)dx\wedge dy=-\left(p_{x}dy\right)\wedge \sigma ^{1}=-{\omega ^{2}}_{1}\wedge \sigma ^{1}.} これらの表現から、独立な唯一の接続 1-形式 (connection one-form) ω 1 2 = p y d x − p x d y {\displaystyle {\omega ^{1}}_{2}=p_{y}dx-p_{x}dy} を導くことができる。もう一つの外微分は、 d ω 1 2 = p y y d y ∧ d x − p x x d x ∧ d y = − ( p x x + p y y ) d x ∧ d y . {\displaystyle d{\omega ^{1}}_{2}=p_{yy}dy\wedge dx-p_{xx}dx\wedge dy=-\left(p_{xx}+p_{yy}\right)\,dx\wedge dy.} である。これは曲率 2-形式 (curvature two-form) Ω 1 2 = − exp ( − 2 p ) ( p x x + p y y ) σ 1 ∧ σ 2 = − Δ p σ 1 ∧ σ 2 {\displaystyle {\Omega ^{1}}_{2}=-\exp(-2p)\left(p_{xx}+p_{yy}\right)\,\sigma ^{1}\wedge \sigma ^{2}=-\Delta p\,\sigma ^{1}\wedge \sigma ^{2}} を与える。このことから、 Ω 1 2 = R 1 212 σ 1 ∧ σ 2 . {\displaystyle {\Omega ^{1}}_{2}={R^{1}}_{212}\,\sigma ^{1}\wedge \sigma ^{2}.} を使い、リーマンテンソルの線型独立な成分を導出できる。すなわち、 R 1 212 = − Δ p {\displaystyle {R^{1}}_{212}=-\Delta p} であり、この式よりリッチテンソルの 0 でない成分は、 R 22 = R 11 = − Δ p . {\displaystyle R_{22}=R_{11}=-\Delta p.} であることが分かる。このことから、双対座標の基底 (coordinate cobasis) に関しての各成分を見つけることができ、 R x x = R y y = − ( p x x + p y y ) {\displaystyle R_{xx}=R_{yy}=-\left(p_{xx}+p_{yy}\right)} を得ることができる。 しかし、計量テンソルも対角的であり、 g x x = g y y = exp ( 2 p ) {\displaystyle g_{xx}=g_{yy}=\exp(2p)} とでき、少し要素を計算すると、エレガントなリッチフローの表現 ∂ p ∂ t = Δ p {\displaystyle {\frac {\partial p}{\partial t}}=\Delta p} を得ることができる。この式は明らかに、よく知られている拡散方程式の類似であり、熱方程式 ∂ u ∂ t = Δ u {\displaystyle {\frac {\partial u}{\partial t}}=\Delta u} である。ここに、 Δ = D x 2 + D y 2 {\displaystyle \Delta ={D_{x}}^{2}+{D_{y}}^{2}} は通常のユークリッド平面上のラプラシアンである。読者は、熱方程式はもちろん線型偏微分方程式であるが、リッチフローを定義している偏微分方程式の中では非線型性ではなかったのか?ということに気づくかも知れない。 この疑問への答えは、計量を定義することに使った函数 p にラプラス・ベルトラミ作用素が依存しているので、非線型性となるが答えとなる。しかし、p(x, y) = 0 とすることにより、平坦なユークリッド平面が与えられることに注意する。p の大きさが充分に小さいとき、これを平坦な平面の幾何学からの小さな偏りと定義することができ、指数を計算するとき一次の項のみ分かっていれば、リッチフローはほぼ平坦な 2次元リーマン多様体上の 2次元の熱方程式となる。この計算は、まさに(熱方程式に従い)熱い部分の異常な熱分布は、時間の経過とともにより他と等しくなる傾向を持つので、(リッチフローに従っても)無限の平坦なプレート上で「無限遠点」へ熱を運びさることができるのと同じ方法で、ほぼ平坦なリーマン多様体は熱を平準化する傾向を持っている。一方、熱いプレートは有限の大きさであるので、熱を運び去ることを止める境界を持たない。よって、温度を「等質化する」ことが期待できるが、温度を 0 とすることは期待できない。同様に、リッチフローを歪んだ球体へ適用すると、時間の経過とともに幾何学を平らにする傾向を持つが、平坦なユークリッド幾何学へ変えてしまうようなことはない。
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