批判と行動経済学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/22 21:12 UTC 版)
投資家(ウォーレン・バフェットのような)と研究者は効率的市場仮説について実証と理論の両方から論争を続けてきた。行動経済学者はこのような金融市場の不完全性の原因を認知バイアスの組み合わせに求める。認知バイアスとは、推論および情報処理における、過信、過剰反応、代表制バイアス、情報バイアスやそのほか予想される多様なヒューマンエラーである。これらはダニエル・カーネマン、エイモス・トベルスキー、リチャード・セイラーやポール・スロビック(英語版)のような心理学者によって研究されてきた。推論におけるこれらのエラーにより、ほとんどの投資家は割安株ではなく割高な成長株を買い、その結果、正しく吟味した投資家が、顧みられなかった割安株の掘り出し物や成長株の暴落で利益を得ることになる。投資家は春にはリスクのある投資を、秋には安全な投資を好む傾向がある、と述べられている。 実証的な根拠は様々なもので混沌としているが、一般にストロング型の効率性を支持していない。1995年のドレマンとベリーの論文によると、低いP/Eの株式はより大きな利益をあげている。レイ・ボール(英語版)はこのような高い収益は高いベータに起因すると主張し、これはアノマリーが現代ポートフォリオ理論によく則っていることを説明しているとして効率的市場論者に受け入れられたが、ドレマンは更に前の論文においてボールの主張に反駁している。 ある年数にわたって低い利益をあげた株式を「敗者」とみなしたとする。すると「勝者」は同程度の期間にわたって高い利益をあげた株式ということになる。ヴェルナー・デボン(英語版)とリチャード・セイラーの研究によれば米国株式市場において、「敗者」のリターンは「勝者」のリターンを上回ることが確認された(リターン・リバーサル効果)。しかし、このデボンとセイラーの研究結果は効率的な市場という価値観に基づいた資産価格モデルであるファーマ=フレンチの3ファクターモデルで説明できることが実証されている。また後の研究ではベータが平均利益の差を説明しないということが示されている。(敗者が勝者になってしまうという)長い地平線上での利益の逆転傾向は、効率的市場仮説の更にもう一つの反証となっている。収益の逆転を正当化するためには、敗者は勝者よりも遥かに高いベータを持っていなければならない。この研究は、ベータの差が効率的市場仮説を救うという期待が、実はそうではないということを示している。 最も重要な効率的市場仮説アノマリーとしてモメンタム効果がある。ナラシムハン・ジャガーディッシュとシェリダン・ティットマン(英語版)によって確認されたモメンタム効果についての金融経済学の膨大な文献がある。彼らは米国株式市場において過去3~12ヵ月にわたって比較的高(低)い利益を生み出している株式は、次の3~12ヵ月も利益が高(低)くなることを統計的に実証した。特にこのジャガーディッシュとティットマンにより発見されたモメンタム戦略の優位性はファーマ=フレンチの3ファクターモデルで説明できないことから、効率的市場仮説に対しての重大なチャレンジと見なされた。モメンタム戦略は、利益の高いものを買って利益の低いものを売り、リスクを調整して平均的に正の利益を得ようとするものである。単純に株利益に基づいているため、モメンタム効果はウィーク型効率性を否定する強い根拠で、ほとんどの国の株利益、企業利益や公的な株価市場示数において観測されている。しかも、ファーマはモメンタムは一等のアノマリーだと受け入れている。
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