帰還区画
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/26 03:45 UTC 版)
船内の機器の多くは、点検用のドアを開ければ手が届くところに配置されていた。マーキュリーと違いジェミニは回路に真空管を一切使用せず、すべて半導体素子を用いていた。またそのモジュール (区画) は、非常に修理しやすくなるよう設計されていた。 脱出装置には、マーキュリーのような固体燃料ロケットで射出する塔型の緊急脱出用ロケットは使用せず、代わりに航空機などで採用されている射出座席を用いていた。塔型の装置は重く構造が複雑であり、またタイタンIIの自然発火性の推進剤は接触すればただちに燃焼してしまうため、NASAの技術者は塔は不必要であると推測した。 アトラスやサターンのような極低温の燃料を使用するロケットに比較すると、タイタンIIは爆発した際の爆風の影響は小さく、故障したロケットから飛行士を退避させるには射出座席で十分だった。射出座席が使用できない高高度では宇宙船そのものを切り離し、飛行士は船内にとどまったまま脱出することになっていた。 射出座席使用の主な支持者は、NASAのスペース・タスク・グループ技術部長のシャンベルリンだった。彼はマーキュリーの脱出塔をずっと好まず、重量を削減できるもっと簡素な代替策を用いることを望んでいた。シャンベルリンはアトラスやタイタンIIミサイルの発射が失敗した際のさまざまな映像を検証し、機体の爆発で発生する火球のおおよその大きさを計測した。その結果、タイタンIIの爆発で生じる火球は十分に小さいため、宇宙船からの脱出は射出座席だけで十分であると判断した。 一方でマーキュリーの脱出装置の設計者だったマキシム・ファジェット (Maxime Faget) は、この装置には決して乗り気ではなかった。射出座席は飛行士に深刻な損傷を負わせる可能性がある上に、ロケットが音速を超えると脱出不可能になってしまうため、座席を使用できる時間は発射後40秒以内に限られていた。彼はまた、ロケットが上昇している最中に機外に放出されると、飛行士が排気ガスの中に巻き込まれてしまうことを懸念し、「最もよいのは、脱出装置を使うような事態に陥らせないようにすることだ」と述べた。 ジェミニは飛行操縦の管理と制御を容易にするためのコンピューターを搭載した、初の有人宇宙船だった。またマーキュリーにはなかった、通常の航空機で使用されているようなフライトレーダーや姿勢指示器も採用していた。 当初ジェミニはハンググライダーのようなロガロ翼を使い、海面ではなく地上に着陸することを目指していた。この場合飛行士は、航空機のように頭部を上にした姿勢で着座して機体を操縦することになった。これを可能にするために、ロガロ翼は機体の先端部ではなく、バランスを取るために後部の熱保護板の近くに取りつけられた。また機体と翼を結ぶワイヤーは二つの座席のハッチの間に設けられ、金属の板で覆われていた。これらの案は最終的には却下され、マーキュリーと同様にパラシュートで海に着水することになった。機体はパラシュートから水平に近い角度でつり下げられるため、着水の際は底部の円錐の縁の部分から水面を切るようにして入水した。これによって衝撃が緩和されたため、マーキュリーで使用されたようなエアバッグは不要になった。
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