対称性と状態密度
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/12/09 20:03 UTC 版)
DOS 計算の行える系は多種多様である。凝縮系において重要な性質は系の微視的構造のもつ対称性である。 流体、ガラス、アモルファス固体は回転対称性のある分散関係を持つ。球対称な系では、たとえば関数の積分などは一次元となる。なぜなら、計算が分散関係の動径パラメータにのみ依存するからである。 例えば単結晶からなる系などの非等方な系においては、状態密度がある結晶学的方位と別の方位とでは異るので、角度に依存する計算および計測が必要となる。非等方な問題は計算が難しくなり、また非等方な状態密度は可視化するのも難しくなる。そのため、ある特定の点のみを計算したり、射影状態密度 (projected density of states, PDOS) を計算したりといった手法がよく用いられる。 粉末試料や多結晶試料に対する測定には、系の分散関係の定義域(一つのブリュアンゾーンとすることが多い)全体にわたる積分が必要となる。系の対称性が高い場合、系の分散関係を表わす関数の形は分散関係の定義域全体にわたって何度も繰り返し表われる。このような場合、DOS の計算は還元ゾーンのみについての計算に帰着し、相当に省力化できる。面心立方格子のブリュアンゾーンは点群 Oh の、完全八面体対称性(英語版)をもつ48重対称性を持つ。よって、ブリュアンゾーン全体にわたる積分をその48分の1の部分領域にわたる積分に帰着することができる。結晶構造の周期表(英語版)に示される通り、面心立方格子をとる元素はダイヤモンド、シリコン、白金など多く、これらのブリュアンゾーンおよび分散関係は48重対称性を持つ。 良く知られている結晶構造として、体心立方格子と六方最密充填格子の二つが挙げられる。体心立方格子は点群 Th の24重黄鉄鉱型対称性(英語版)を持つ。六方最密充填格子は点群 D3h の12重プリズム二面体対称性(英語版)を持つ。点群の対称性の特性の網羅的リストについては、点群指標表(英語版)を参照のこと。 一般に、対称性が高く位相的次元の低い系ほど DOS の計算は容易である。回転対称性のある分散関係の状態密度は解析的に計算可能であることが多い。鋼やシリコンなど、実用上の興味の対象となる物質は高い対称性を持っていることが多いので、このことは幸運である。
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