状態密度
状態密度
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/09 00:50 UTC 版)
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固体物理学および物性物理学において、系の状態密度(じょうたいみつど、英: density of states, DOS)とは、微小なエネルギー区間内に存在する、系の占有しうる状態数を各エネルギーごとに記述する物理量である。気相中の原子や分子のような孤立系とは異なり、密度分布はスペクトル密度のような離散分布ではなく連続分布となる。あるエネルギー準位において DOS が高いことは、そこに占有しうる状態が多いことを意味する。DOS がゼロとなることは、系がそのエネルギー準位を占有しえないことを意味する。一般的に DOS とは、空間的および時間的に平均されたものを言う。局所的な変動は局所状態密度 (local density of states, LDOS) と呼ばれ区別される。
概要
量子系において、波もしくは波動的粒子は系によって定まる波長と伝播方向をもつモードもしくは状態を占める。特定の状態のみが許容されることも多く、系によっては物質の原子間距離と原子核電荷により特定の波長の電子のみが存在を許容される場合もある。また、物質の結晶構造により波が一方向にのみ伝播を許容され、別の方向への伝播が抑制されるような系もある。したがって、特定の波長においては多くの状態が許容され、別のエネルギー準位には全く許容される状態が存在しないということがありうる。量子系により、電子や光子、フォノンの状態密度をエネルギーもしくは波数ベクトル k の関数として計算することができる。DOS を表わす記号としては、g, ρ, D, n, N などが用いられる。エネルギーの関数としての DOS と波数ベクトルの関数としての DOS の間の変換は、系ごとに決まる E と k との間の分散関係が分かっていれば行うことができる。
たとえば、半導体中の電子の状態密度は伝導帯端においては低く、電子の占有できる状態は少ない。電子のエネルギーが増えるにつれて状態密度も増加し、占有できる状態が増える。しかし、バンドギャップ中には電子の占有できる状態は存在しないため、伝導帯端の電子は別のモードへと遷移するために少くとも Eg だけのエネルギーを失う必要がある。
一般的に、系の位相幾何学的性質が状態密度の主な性質を決定する。中性子星中のニュートロニウムや金属中の自由電子ガス(縮退物質とフェルミ気体の例)のような最も良く知られた系では、3次元ユークリッド空間の位相構造を持つ。より知られていない系としては、グラファイト層中の二次元電子ガスや MOSFET 型素子中の量子ホール効果系は二次元ユークリッド空間の位相構造を持つ。さらに知られていないものとしては、カーボンナノチューブや量子ワイヤ、朝永・ラッティンジャー液体などは1次元位相幾何を持つ。1D および 2D 位相幾何を持つ系は、ナノテクノロジーと物質科学の進展につれてよりよく知られるようになると考えられる。
定義
系が状態 i をとるときの系のエネルギーが
DOS 計算の行える系は多種多様である。凝縮系において重要な性質は系の微視的構造のもつ対称性である。 流体、ガラス、アモルファス固体は回転対称性のある分散関係を持つ。球対称な系では、たとえば関数の積分などは一次元となる。なぜなら、計算が分散関係の動径パラメータにのみ依存するからである。
例えば単結晶からなる系などの非等方な系においては、状態密度がある結晶学的方位と別の方位とでは異るので、角度に依存する計算および計測が必要となる。非等方な問題は計算が難しくなり、また非等方な状態密度は可視化するのも難しくなる。そのため、ある特定の点のみを計算したり、射影状態密度 (projected density of states, PDOS) を計算したりといった手法がよく用いられる。

粉末試料や多結晶試料に対する測定には、系の分散関係の定義域(一つのブリュアンゾーンとすることが多い)全体にわたる積分が必要となる。系の対称性が高い場合、系の分散関係を表わす関数の形は分散関係の定義域全体にわたって何度も繰り返し表われる。このような場合、DOS の計算は還元ゾーンのみについての計算に帰着し、相当に省力化できる[1]。面心立方格子のブリュアンゾーンは点群 Oh の、完全八面体対称性をもつ48重対称性を持つ。よって、ブリュアンゾーン全体にわたる積分をその48分の1の部分領域にわたる積分に帰着することができる。結晶構造の周期表に示される通り、面心立方格子をとる元素はダイヤモンド、シリコン、白金など多く、これらのブリュアンゾーンおよび分散関係は48重対称性を持つ。

良く知られている結晶構造として、体心立方格子と六方最密充填格子の二つが挙げられる。体心立方格子は点群 Th の24重黄鉄鉱型対称性を持つ。六方最密充填格子は点群 D3h の12重プリズム二面体対称性を持つ。点群の対称性の特性の網羅的リストについては、点群指標表を参照のこと。
一般に、対称性が高く位相的次元の低い系ほど DOS の計算は容易である。回転対称性のある分散関係の状態密度は解析的に計算可能であることが多い。鋼やシリコンなど、実用上の興味の対象となる物質は高い対称性を持っていることが多いので、このことは幸運である。
波数空間の位相幾何
状態密度は対象の次元に依存する。次元の果たす役割は、DOS の単位 (Energy−1Volume−1) からも明らかである。系が二次元的になる極限において体積は面積となり、一次元的となる極限においては長さとなる。ここでいう体積とは波数空間上の、分散関係から導かれる等エネルギー面で囲われる領域の体積であることに注意が必要である。固体中の電子の分散関係はバンド構造を成している。三次元的波数空間の例を図1に示す。系の次元そのものが系内の粒子の運動量を規定することが見てとれる。
波数ベクトル状態密度(球)
DOS を計算するにはまずある k に対して波数空間上の領域 [k, k+dk] 内に含まれる状態数 N を数える必要がある。これは、ある k に対する n 次元波数空間全体の体積 Ωn, k を k で微分することで得られる。三次元、二次元、一次元波数空間の体積、面積、長さは次のように表わされる。
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図2:単原子鎖フォノンの分散関係 原子鎖の縦モードフォノンの分散関係は、図2に示すような 1 次元 k 空間上の運動エネルギーについての関数となり、数式で表わすと以下のようになる。
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Figure 3: Free-electron DOS in 3-dimensional k-space フェルミ気体中の自由電子などのように分散関係が放物線を描く (p = 2) 場合、n 次元系における状態密度
図4: ある半導体におけるフェルミ・ディラック分布(青色)、状態密度(橙色)、それらの積(緑色)。緑の線のふくらみのうち下の方は正孔のエネルギーであるから、確率分布関数としては 1 − f(x) を用いてある。 フェルミ・ディラック統計: 図4に示すフェルミ・ディラック分布は、熱平衡状態においてフェルミオンが特定の量子状態を占有する確率を与える。フェルミオンはパウリの排他律に従う粒子であり、例えば電子、陽子、中性子などが挙げられる。この分布関数は次のように書ける。
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状態密度
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/04/22 05:11 UTC 版)
系が状態 ω をとるときのエネルギーを E ( ω ) {\displaystyle {\mathcal {E}}(\omega )} として、部分集合 Ω(E) が Ω ( E ) = { ω ∈ Ω ; E − δ E < E ( ω ) ≤ E } {\displaystyle \Omega (E)=\{\omega \in \Omega ;E-\delta E<{\mathcal {E}}(\omega )\leq E\}} であるとき、ディラックのデルタ関数を用いれば指示関数は χ Ω ( E ) ( ω ) = ∫ E − δ E E δ ( E − E ( ω ) ) d E {\displaystyle \chi _{\Omega (E)}(\omega )=\int _{E-\delta E}^{E}\delta (E-{\mathcal {E}}(\omega ))\,dE} と表される。このとき、状態数は W ( E ) = ∫ E − δ E E D ( E ) d E D ( E ) = ∑ ω ∈ Ω δ ( E − E ( ω ) ) {\displaystyle {\begin{aligned}W(E)&=\int _{E-\delta E}^{E}D(E)\,dE\\[1ex]D(E)&=\sum _{\omega \in \Omega }\delta (E-{\mathcal {E}}(\omega ))\end{aligned}}} となる。ここで D(E) は状態密度と呼ばれる。エネルギーの幅 δE を無限大へと拡張したときの状態数 N(E) は N ( E ) = ∫ − ∞ E D ( E ) d E {\displaystyle N(E)=\int _{-\infty }^{E}D(E)\,dE} で定義される。N(E) は系のエネルギーがマクロにみて E 以下である状態の数である。 量子系においては状態が離散的であり、状態数も離散的な数となる。しかし、通常の統計力学においては非常に膨大な数の状態を扱い、状態数は連続的な関数であるとみなすことができる。
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