定着した誤植
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/31 08:01 UTC 版)
誤植が正規の表現に替わって定着する場合もある。 1968年『月刊漫画ガロ』(青林堂)に掲載されたつげ義春の漫画『ねじ式』では、主人公の少年が海である種のクラゲに腕を噛まれ、血管が露出するシーンがある。原稿では「××クラゲ」という伏字表現になっていたが、編集者も写植屋も「メメクラゲ」と誤読したためにそのまま「メメクラゲ」と印刷された。原稿を読んだ青林堂の編集者高野慎三は、この奇怪な作品に「メメクラゲ」という名称の生物はごく自然と思い込み、特に確認することなく写植へと回し、翌日打ち上がった写植もメメクラゲとなっていた。このとき同僚の一人も「メメクラゲとは実に異様ですね」と言い、高野も「さすがつげさんだね」と応じたという。後日、つげは高野に対し「メメクラゲのほうが作品に合っているような気がするね」と言ったという。 ゴキブリは、かつては「御器齧り(ゴキカブリ)」などと呼ばれていた。しかし、1884年(明治17年)に岩川友太郎が書いた日本初の生物学用語集『生物學語彙』では、最初の記述には「ゴキカブリ」とルビが振られていたものの、2か所目には「ゴキブリ」と書かれ、1文字抜けていた。この本は初版しか発行されず、間違いを訂正することができなかった。その後1889年(明治22年)に作られた『中等教育動物学教科書』にも「ゴキブリ」と記述されてしまい、この間違いは、以降の教科書や図鑑にも引き継がれ、全ての文献に「ゴキブリ」と書かれ、和名として定着した。なお『東京朝日新聞』では、1927年(昭和2年)の記事を最後に「ゴキカブリ」の表記は使われなくなっている。 長野県歌「信濃の国」の5番で、仁科五郎盛信が仁科五郎信盛と歌われているが、歌詞を訂正しないまま長野県の歌としてそのまま歌い継がれている。ただし、仁科盛信は晩年に「信盛」と改名していた可能性が指摘されている。 寺田寅彦の俳句「粟一粒秋三界を蔵しけり」は、岩波書店の寺田寅彦全集で「栗一粒秋三界を蔵しけり」(アワ→クリ)と誤植されたが、こちらの誤植バージョンが有名で、「栗の句」の代表作として知られている。 小説家の四方田犬彦は、もともと「四方田丈彦」との筆名を用いるつもりだったが、出版社に「四方田 犬彦」と誤植され、そのまま筆名にした。 バック・トゥ・ザ・フューチャーにおいてデロリアンが必要とした電力「1.21Jigowatt(ジゴワット)」は共同脚本家のボブ・ゲイルのミスによって生まれた架空の単位であり、本来「1.21Gigawatt(ギガワット)」とするべきであったものである。1980年代当時はともかく2020年代ではデータ容量をはじめとして「ギガ」と言う言葉が一般に使われているが、BTTFの話題においては未だ定着している。
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