天体重力推進とは? わかりやすく解説

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スイングバイ

(天体重力推進 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/09/28 16:15 UTC 版)

スイングバイ(日: かすめ飛行〈かすめひこう〉[1]: swing-by)とは、天体の運動と万有引力(以下重力とする)を利用し、宇宙機の運動ベクトルを変更する技術。天体重力推進(てんたいじゅうりょくすいしん、英: gravity assist[1]とも呼ばれる。

天体の「固有運動」の後ろ側あるいは前側の近傍を通過(フライバイ)することにより、天体と宇宙機の相互のあいだで、重力によって運動量と運動エネルギーがやりとりされ、それぞれの運動ベクトルが通過前と通過後で変化する[注 1]

スラスタ(ロケットエンジン)によるロケットエンジンの推進剤の噴射による加減速と違い、推進剤の消費が無い。そのことから、内惑星や外惑星、さらには太陽系外へといった、地球軌道外の目的軌道へ宇宙探査機などを送り出すためによく使われる。スイングバイを初めて使用した探査機は水星探査機マリナー10号であり、1974年2月5日に金星を用いたスイングバイによって太陽を約半年(水星の公転周期の約2倍)で周回する軌道に乗り、水星へと向かった。

軌道傾斜角を大きく変えるために有効な手段のひとつでもある。アメリカ航空宇宙局欧州宇宙機関による太陽極軌道観測機「ユリシーズ」で、太陽の両極を観測するために使われた。ユリシーズはいったん木星に行き、1回のスイングバイで黄道面からほぼ直角に方向を変えて太陽の南極側へと向かった。日本の例では、「のぞみ」を当初の予定から外れた軌道から火星へ到達させるため、当初の予定には無かった、2度の地球スイングバイにより軌道傾斜角の大きな軌道を半周させたことがある。「はやぶさ2」でも、地球スイングバイにより、増速度と同時に軌道傾斜角の変更もおこなっている。

解説

中央が惑星、薄青が重力場、黒が宇宙機で点線が惑星に対する軌道、実線が惑星に対する速度を表す。進入時と離脱時で速度は変わらない。
緑は惑星の公転速度、赤は宇宙機の、惑星に対する速度と天体の公転速度の合成速度を示す。公転する天体の後ろ側から進入すると、離脱時には増速している。
加速スイングバイの動画。グラフは太陽を基準とした宇宙機の速さの時間による変化を示す。最終的には進入時よりも増速しているのがわかる。
公転する天体の前方から進入すると、離脱時には減速している。
減速スイングバイの動画。進入時よりも減速しているのがわかる。減速した分の運動エネルギーは惑星の公転運動に渡されているが、宇宙機と比べ惑星は巨大なので変化はほとんど見られない。

惑星の重力

太陽系の惑星で宇宙機がスイングバイをする場合を考える。まずは惑星と宇宙機のみで考えよう。

宇宙機が目標とする惑星に近づくと、惑星の重力により引き寄せられ徐々に加速する。惑星近辺を通りすぎる際に速度が最大になり、宇宙機の軌道は「く」の字型に折れ曲がったものになる。その後、惑星から遠ざかる時には、惑星の重力が引き戻す力として働くために宇宙機は減速する。

このように、宇宙機が惑星に接近し離れていく過程で、宇宙機の速度は時間とともに変化するが、もし、惑星が運動していないならば、宇宙機が惑星の重力圏に進入する時の増速と離脱する時の減速とは相殺することになる。すなわち、スイングバイによって、運動方向は変わるが、速さは変わらない結果となる。

惑星の重力と公転運動

しかし、実際には、惑星は静止しているわけではなく、太陽の周りを公転しているので、その運動の影響を考慮する必要がある。すなわち、惑星と宇宙機を二体系として扱い、重心運動と相対運動に分けて考える必要がある。このとき、太陽系に対する静止系で表現した宇宙機の運動は、惑星の重力の影響を受けて、軌道が変わるだけでなく、その速さも変化することになる。

加速スイングバイ

宇宙機が惑星の公転方向の後方を通る場合、惑星近辺を通りすぎた後に、宇宙機が惑星から離れていく際の方向は、惑星の公転と同じ方向になる。このときの速度は、惑星に接近する時の速度に公転速度のぶんが足された速度になる。つまり、惑星に対する宇宙機の速度は、上述のようにスイングバイの前後で変わっていないが、宇宙機の軌道が変わったため、太陽に対する宇宙機の速度は速くなるのである。

なお、厳密にいえば、宇宙機の軌道が惑星から遠い場合などは、宇宙機が惑星から離れていく際の方向が惑星の公転と同じ方向にならないこともある。その場合も増速する量は少なくなるが、増速することに変わりはない。

減速スイングバイ

逆に、惑星の公転方向の前方を通る場合、宇宙機は惑星の公転と逆の方向へと向きを変え、公転速度の分が減った速度になる。

エネルギーのやりとり

スイングバイにより宇宙機が加速されると、そのぶん惑星の公転速度が減ることになる。速度が落ちることで惑星は太陽に若干近づき、軌道半径が小さくなるために再び速度は増えて落ち着く。結局、加速スイングバイでは、惑星の位置エネルギーが減り、宇宙機の運動エネルギーと惑星の運動エネルギーがそのぶん増えるのである。

逆に、スイングバイによって宇宙機が減速する場合は、惑星は、若干太陽から遠ざかり、公転速度が遅くなる。そして、宇宙機の運動エネルギーと惑星の運動エネルギーが減ったぶん、惑星の位置エネルギーが増える。

しかし、惑星と宇宙機の質量の比は非常に大きいため、惑星への影響は無視できるほど極めて小さい。例えば、木星ボイジャー 1 号や 2 号との質量比は 2.6×1024(2.6 兆×1 兆)対 1 程度で、地球と少々重めのノートパソコン(2.3 kg 程度)を比較するのに等しい。スイングバイによりボイジャーが 15 km/s から 30 km/s に加速したとすると、それにより、木星の公転半径は約 1.4×10-12 m 小さくなり、公転速度は約 1.2×10-20 m/s 速くなることになる。

なお、サイエンスフィクションにおいては、質量比を無視できないほどの物体(非常に多数の小惑星など)をスイングバイさせることによって、惑星の軌道や自転軸などをずらすといったアイディアが用いられている作品がある。

エネルギーのやりとりの詳細

質量 m1 の主星の周りを、公転半径 r2in の真円の公転軌道を公転速度 v2in で公転している質量 m2 の惑星に対して、質量 m3 の宇宙機が速度 v3in で進入して、スイングバイを行うとする。そして、スイングバイ後の惑星の惑星の公転半径は r2out 、公転速度は v2out 、宇宙機の速度は v3out となるとする。なお、

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