外国語訳からの重訳
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/22 09:45 UTC 版)
ここで取り上げるのは、翻訳に際して外国語訳も参照したという意味ではなく、外国語訳聖書自体を重訳した日本語訳聖書である。 古代ラテン語訳のヴルガータからの訳には、上述のようにカトリックの訳がいくつかあった。また、古代ギリシャ語による旧約聖書の翻訳七十人訳聖書のうち、モーセ五書については秦剛平訳が存在している(河出書房新社、2002年 - 2003年)。 しかし、そうした古代訳以外に現代英語・フランス語訳などからの重訳も複数存在している。まず、1950年代前半には元首相の片山哲が『ショートバイブル新約篇』『ショートバイブル旧約篇』(巌松堂書店、1953年・1954年)を刊行している。これらは英語の抜粋版からの重訳ではあるが、一応聖書の翻訳に挙げられている。特徴的な点として、推測される執筆順に配列されている点が挙げられる。すなわち、新約聖書は福音書ではなく、より古いと考えられるテサロニケ前・後書から始まっている。また、抄訳という性質上、新約のユダ書や旧約のマラキ書など、一部文書は完全に割愛されている。 新約聖書の完訳ならば、詳訳聖書刊行会による『詳訳聖書』(いのちのことば社、1962年)がある。これは英語のAmplified New Testament の日本語訳である。原書は27種の英訳聖書などを比較して訳の候補を示したものであり、日本語訳でも様々な訳の候補が注記されている。 いのちのことば社からは『リビングバイブル』の日本語版も刊行されている。この聖書の原書(英語)はアメリカ標準訳聖書 (ASV) を元に平易な英語へと意訳されたもので、1971年に刊行されたあと、1974年にはアメリカにおける年間聖書売り上げの46 %を占めるに至ったという。日本語版でも原書の方針を踏襲しつつ、福音主義に基づく平易な訳文を提供している。出版前に様々な年齢や学歴の約500人から意見を聴取するなど、分かりやすい訳文を提供するための努力が重ねられたという。新約は1975年に刊行され、旧約も含めたものは1978年に刊行された。その後も改訂版が刊行されている。 また、地元にあって合一である立場に立つ教会の日本福音書房は『回復訳聖書』の日本語版を刊行している。エホバの証人も独自翻訳である『新世界訳聖書』(1983年)を出版している。 前述のように聖書関連書を多く出していた講談社からは、『図説大聖書』(全7巻、1981年)が刊行されている。これはアシェット社の La Bible にもとづき、日本のカトリック、プロテスタント双方から20人以上の訳者が関わったもので、高橋虔は「事実上の共同訳」と位置づけている。 英語の改訂標準訳聖書をさらに改訂した新改訂標準訳聖書 (NRSV) は男女差別に配慮して訳語が選択された英語訳聖書であるが、その翻案であるヴィクター・ローランド・ゴールドらのThe New Testament and Psalms:An Inclusive Versionを和訳したのが『新約聖書・詩編 英語・日本語―聖書から差別表現をなくす試行版』(DHC、1999年)である。 なお、前述のように英和「対照」版もいくつかの聖書で刊行されているが、それらは「対訳」ではない。ギリシャ語底本との対訳版としては、岩隈直訳注『希和対訳脚注つき新約聖書』(山本書店、全13巻19冊、1973年 - 1990年)が存在している。これは、タスカー (R. V. G. Tasker) 校訂によるギリシャ語テクストに基づいており、他の多くの日本語訳聖書で底本とされているネストレ・アーラントとは系統が異なる。岩隈の没後、山本書店編集部によって四福音書の訳のみを1冊にまとめた『福音書』(1998年)が刊行された。
※この「外国語訳からの重訳」の解説は、「日本語訳聖書」の解説の一部です。
「外国語訳からの重訳」を含む「日本語訳聖書」の記事については、「日本語訳聖書」の概要を参照ください。
- 外国語訳からの重訳のページへのリンク