向き付け可能曲面
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2015/07/15 16:13 UTC 版)
ユークリッド空間 R3 内の曲面 S は、二次元の図形(例えば、)が曲面上を動き回ってスタート地点へ戻った時に、鏡像()になるようにできない場合に、向き付け可能であるという。そうでない場合を向き付け不可能であるという。抽象的な曲面(つまり二次元多様体)が向き付け可能とは、連続的に動かすことで整合性をもって曲面上に時計回りの回転を定義できる場合をいう。いわば、曲面上のある向きのループを、(自己交叉することなく)反対向きのループへ連続変形できない場合、向き付け可能と言う。このことは、曲面がメビウスの帯に同相な部分集合を含まないかどうかという問いと同値であることが分かる。したがって曲面については、メビウスの帯は向き付け不可能さのすべての根源だと考えることができよう。 向き付け可能曲面において、「時計回り」(反時計回りと相反するもの)を整合性を持って選んだものを向きと言い、その曲面は向き付けられたと言う。ユークリッド空間内に埋め込まれた曲面に対し、全ての点で連続的に変化する曲面に対する法線 n の選択により、向きが特定される。法線ベクトルが全て存在するときは常に、2つの方法 n もしくは −n を選択できる。より一般には、向き付け可能曲面はちょうど2通りの向き付けが可能であり、向き付けられた曲面と向き付け可能な曲面の差異は、微妙で曖昧かもしれない。向き付け可能な曲面は、向きを入れることができる曲面を意味するのに対し、向き付けられた曲面は、向き付け可能な上に、2つの可能な向きのうちの一つが選択されたデータを持っている曲面のことを言う。 例 物理的な世界で出くわす曲面の大半は、向き付け可能である。例えば、球面や平面、トーラスは向き付け可能である。しかし、メビウスの帯や実射影平面(英語版)(real projective plane)やクラインの壺は向き付け不可能である。それらは3次元に可視化されるように、どれも面を一つしかもたない。実射影平面やクラインの壺は、R3 へ埋め込むことはできず、ただ、きれいに交叉させてはめ込める(英語版)(immersed)だけである。 埋め込まれた曲面は局所的には常に2つの面を持っていることに注意すると、面が一つの曲面を這い回っている近眼の蟻は、そこに「もう一つの面」があると考えるだろう。面が一つということの本質は、蟻が曲面上から飛び出したり縁を通ったりせずに、単純に曲面の上をどこまでも這っていくことで、「もう一つの面」へ到達できることである。 一般に、向き付け可能であるという性質は、2つの面を持っているという性質と同値ではないが、しかし、周囲の空間(上記の R3 のような)が向き付け可能である場合は、このことは同値となる。例えば、 をクラインの壺とすると、 三角分割による向き付け どのような曲面も三角分割――すなわち、多数の三角形への分割であって、どの辺もほかの高々一つの辺に貼り合わされているようなもの――を持っている。各々の三角形は、周の向きを選択し、各辺の向きをそれに準じるものとすることによって向き付けられる。貼り合わせて隣り合う二辺が反対方向を指すようになっていれば、この曲面の向きが決まる。曲面が向き付け可能なときは、そのような選択が可能であり、その場合にはちょうど2つの向きが存在する。 図形 が、鏡像に変わらないように、曲面のすべての点上に整合性を持って配置できたならば、このことは三角分割でできた三角形らに上記の意味での向きを誘導する。各三角形の向きは、内部にある「図形」の色を 赤-緑-青 の順で辿るようなものを選択すればよい。 この方法は、単体分割(三角分割の高次元への一般化)を持つ全ての n 次元多様体へ一般化できる。しかしながら、4 次元多様体には単体分割を持たないものも存在し、一般には、n > 4 に対しては同値でない三角分割を持つこともある。
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