分子軌道法との比較
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/27 03:04 UTC 版)
原子価結合法では「電子はある1つの原子の原子軌道に局在化している」と考えるのに対して、分子軌道法では「電子は分子全体に非局在化した軌道に属する」と考える。 分子軌道法ではまず、原子軌道の線形結合によって結合性軌道(σ)と反結合性軌道(σ*)が作られ、次にエネルギーが低い結合性軌道にスピンが逆向き(αとβ)の2つの電子(1と2)を入れる(基底一重項状態)。 Ψ σ = ψ ( 1 ) α ( 1 ) ψ ( 2 ) β ( 2 ) {\displaystyle \Psi _{\sigma }=\psi (1)\alpha (1)\psi (2)\beta (2)} ψ ( 1 ) {\displaystyle \psi (1)} は「分子全体に広がる軌道(分子軌道)に電子1が属している状態」を表す。しかしこの関数は電子のラベルの交換に対して反対称になっていない。そこでラベルを交換した状態を予め含んだ関数を作る。 Ψ σ = ψ ( 1 ) α ( 1 ) ψ ( 2 ) β ( 2 ) − ψ ( 1 ) β ( 1 ) ψ ( 2 ) α ( 2 ) {\displaystyle \Psi _{\sigma }=\psi (1)\alpha (1)\psi (2)\beta (2)-\psi (1)\beta (1)\psi (2)\alpha (2)} (係数は省略) この式はラベルの交換に対して反対称性を満たしている(スレイター行列式を参照)。この式は軌道部分とスピン部分に分けて Ψ σ = ψ ( 1 ) ψ ( 2 ) { α ( 1 ) β ( 2 ) − β ( 1 ) α ( 2 ) } {\displaystyle \Psi _{\sigma }=\psi (1)\psi (2)\{\alpha (1)\beta (2)-\beta (1)\alpha (2)\}} と書くことができる。 原子価結合法と比較するために、分子軌道を原子軌道の線形結合 ψ ( 1 ) = c ϕ H a ( 1 ) + c ϕ H b ( 1 ) {\displaystyle \psi (1)=c\phi _{Ha}(1)+c\phi _{Hb}(1)} で表わして上の式(の軌道部分)に代入すると、 Ψ σ = c 1 ϕ H a ( 1 ) ϕ H b ( 2 ) + c 1 ϕ H a ( 2 ) ϕ H b ( 1 ) + c 1 ϕ H a ( 1 ) ϕ H a ( 2 ) + c 1 ϕ H b ( 1 ) ϕ H b ( 2 ) {\displaystyle \Psi _{\sigma }=c_{1}\phi _{Ha}(1)\phi _{Hb}(2)+c_{1}\phi _{Ha}(2)\phi _{Hb}(1)+c_{1}\phi _{Ha}(1)\phi _{Ha}(2)+c_{1}\phi _{Hb}(1)\phi _{Hb}(2)} となる。上式の前半2項は原子価結合法による描写と等価であり共有結合状態を表わしている。後半2項はどちらか一方の原子に2つの電子が偏ったイオン化状態と見なせる。したがってVB法とは異なり、MO法はH2分子の個々の原子への解離を正しく計算できない。
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分子軌道法との比較
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/20 16:35 UTC 版)
共鳴理論が扱っているメソメリズムや芳香族性のもう一つの量子化学的な解釈は、量子化学の分子軌道法を用いた解釈である。原子価結合法における共鳴の解釈は、価電子はそれぞれの原子に束縛されており、分子全体として共鳴構造の電子状態の量子力学的重ね合わせで電子の挙動を示している。適切な共鳴構造の共鳴を考慮に含まなければ現実の化合物の性質を導出することができない。複雑な化合物になるほど考慮に入れるべき共鳴構造の数が指数関数的に増加していってしまう。一方、分子軌道法の解釈では電子は特定の原子に束縛されるのではなく、分子全体に広がった分子軌道に存在し、非局在化していると解釈する。分子軌道法においてはわざわざ共鳴の概念を導入するまでもなく自然にメソメリズムや芳香族性が導出される。そのため現在においては、分子軌道法を用いた解釈が主流であり、共鳴の概念は非局在化電子の分子軌道の概念で置き換えられたといって過言ではない。 原子価結合法の主な代替手段である分子軌道法(MO法)において、共鳴の「対称適合線型結合」に相当するものが原子軌道の線型結合である。MO法において、分子軌道(MO)は全ての原子上の全ての原子軌道(AO)の和として近似される。AOと同じ数のMOが存在する。それぞれのAOiは個別のMOへのそのAOの寄与を示す「重み付け」係数ciを持つ。例えば、ベンゼンでは、MOモデルは6個の炭素原子上の2pzAOの組合せである6つのπ分子軌道を与える。ゆえに、それぞれのπ分子軌道はベンゼン分子全体にわたって非局在化しており、MOを「占有」している全ての電子は分子全体にわたって非局在化する。このMO解釈によって六角形の内部に丸を描くベンゼンの描写が着想された。ベンゼンを描写する時、VB法の局在化したσ「結合」の概念とMO法の「非局在化」したπ電子の概念は初歩の化学の講義において頻繁に組み合わせて教えられている。 VBモデルにおける共鳴構造は、ベンゼンといったπ系上の置換基の効果を予測するために特に有用である。これによってベンゼン上の電子求引性基と電子供与性基につての共鳴構造のモデルがもたらされる。MO法の実用性は、原子Ciへの「重み付け」係数ciの二乗から原子上のπ系からの電荷の定量的指標が得られる点である: 電荷qi ≈ ci2。係数を二乗する理由は、AOによって電子が記述されるとすろ、AOの二乗が電子密度を与えるためである。AOはAO2 =1となるように調節(正規化)され、qi ≈ (ciAOi)2 ≈ ci2となる。ベンゼンにおいて、それぞれの炭素原子上でqi = 1である。電子求引性基を持つと、オルト位およびパラ位の炭素原子上でqi < 1 となり、電子供与性基ではqi > 1となる。
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