原子価結合法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/18 04:25 UTC 版)
量子化学において原子価結合法(げんしかけつごうほう、英: valence bond theory、略称: VB法)とは、化学結合を各原子の原子価軌道に属する電子の相互作用によって説明する手法である。
歴史
1916年、G. N. ルイスは、化学結合が2つの共有された結合性電子の相互作用によって形成されると提唱し、ルイス構造として分子を描写した。
1927年、量子力学的考察に基づいて水素分子 H2 の結合特性の計算を初めて可能にしたハイトラー–ロンドン理論が立てられた。具体的には、ヴァルター・ハイトラーが、共有結合を作るためにどのように2つの水素原子波動関数を合わせるかを示すために、シュレーディンガーの波動方程式(1926年)をどのように使うかを決定した。ハイトラーは同僚のフリッツ・ロンドンを呼び出し、彼らは一晩中理論の詳細を練り上げた[1]。しかし、この水素分子の量子力学的計算には、実際には複雑な積分を計算しなければならないが、著名な The Theory of Rate Process(1941年、邦題『絶対反応速度論』)で、ヘンリー・アイリングは、この課題に初めて成功したのは杉浦義勝であると述べている。そのため、ハイトラー–ロンドン–杉浦法、またはHLS法と呼ぶこともできる。
後に、ライナス・ポーリングは共鳴(1928年)と軌道混成(1930年)というVB法における2つの重要な概念を生み出すためにハイトラー–ロンドン理論とルイスの対結合の考えを使った。また、ジョン・スレーターとライナス・ポーリングによって多原子系に拡張された。そのため、ハイトラー–ロンドン–スレーター–ポーリング法、略してHLSP法と呼ばれることもある。
著名な Valence(1952年、邦題『化学結合論』)の著者であるチャールズ・クールソンによれば、この時代が「現代原子価結合理論」の幕開けとなった。それ以前の古い原子価結合理論は本質的に、波動力学以前の用語で書かれた原子価の電子論であった。
共鳴理論は1950年代にソビエトの化学者らによって不完全であるとして批判された[2]。
理論
原子価結合理論によれば、共有結合は1つの不対電子を含んでいるそれぞれの原子の半分占有された原子価軌道の重なり合いによって2つの原子間で形成される。原子価結合構造はルイス構造と似ているが、単一のルイス構造では書くことができない場合は複数の原子価結合構造が使われる。これらの各VB構造は特定のルイス構造を表わす。原子価結合構造の組み合わせが共鳴理論の要点である。原子価結合理論は、関与する原子の重なり合った原子軌道が化学結合を形成すると考える。この重なり合いのため、電子が結合領域に存在する可能性が最も高くなる。原子価結合理論は結合を弱く連結した軌道として見る。原子価結合理論は、基底状態分子において典型的にはより簡単に利用できる。内殻軌道および電子は結合の形成の間には基本的に変化しない。


原子軌道の重なり合いにはいくつかの種類がある。σ結合は、2つの共有電子が属する軌道が頭を突き合わせて重なり合う時に起こる。π結合は、2つの軌道が互いに平行に重なり合う時に起こる 。例えば、2つのs-軌道電子間の結合は、2つの球が常に同軸であるため、σ結合である。結合次数の観点からは、単結合は1つのσ結合を持ち、二重結合は1つのσ結合と1つのπ結合から成り、三重結合は1つのσ結合と2つのπ結合を含む。しかしながら、結合のための原子軌道にはs軌道とp軌道を重ね合わせた軌道を用いることもできる。結合のために適切な特徴を持つ原子軌道を得るための手法は混成と呼ばれる。
水素分子の例
単純な近似
まず「水素原子Haの1s軌道にαスピン(上向き)の電子1」が属していて(
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