原子価結合法の発展
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/27 03:04 UTC 版)
原子価結合法を第2周期以降の元素を含む分子に応用すると問題が生じる。例えばメタンの4本のC-H結合が等価であることを説明できない。なぜなら、電子が原子軌道に局在化しているならば、炭素の4つの価電子のうち1つの電子は2s軌道に、残り3つは2p軌道に属することになり等価でないからである。そこで分子を形成する際には2s軌道と2p軌道が混じり合って再分配され新しい4つの等価な軌道を生じると考える。この新しく生じた軌道が「混成軌道」と呼ばれるものである。メタンの場合s軌道1つとp軌道3つが混成軌道をつくるのでsp3混成軌道という。エチレンの炭素原子のように二重結合を持つ原子ではsp2混成軌道、アセチレンの炭素原子のように三重結合を持つ原子ではsp混成軌道を考える。 また、1,3-ブタジエンやベンゼンのような共役系を持つ分子についても問題があった。これらの分子ではπ電子の非局在化が安定化に寄与している。これは各原子に電子が局在化していると考える原子価結合法と本質的に矛盾している。これに対しては複数の極限構造間の共鳴という形で説明することになった。 原子価結合法の概念はそれまでの化学結合論の延長上にあるため当時の化学者に受け入れやすかった。しかし量子化学計算に応用するには複雑な理論となってしまった。そのため量子化学計算が盛んになってくると分子軌道法が主流となっていった。 また、酸素分子O2が実際には常磁性であるにもかかわらず、原子価結合理論では反磁性と予測されてしまう欠点などもよく知られている。この点で、分子軌道法はO2の基底状態が三重項状態、常磁性であることが自然に予測される。
※この「原子価結合法の発展」の解説は、「原子価結合法」の解説の一部です。
「原子価結合法の発展」を含む「原子価結合法」の記事については、「原子価結合法」の概要を参照ください。
- 原子価結合法の発展のページへのリンク