原子価結合法の現在
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/27 03:04 UTC 版)
現代の原子価結合法は分子軌道法を補完する。分子軌道法は分子内の2つの特定の原子間に局在した電子対という原子価結合の考えに固執せず、分子全体にわたって広がりうる分子軌道群に電子が分配されると考える。分子軌道法が磁気特性やイオン化特性を直接的に分かりやすく予測することができるのに対して、原子価結合法は似た結果を与えるがより複雑なやり方が必要である。現代原子価結合法は芳香族的特性をπ軌道のスピン結合によるものと見なす。これは本質的にはケクレ構造の間の共鳴という古い考え方のままである。対照的に、分子軌道法は芳香族性をπ電子の非局在化として見る。原子価結合の取り扱いは比較的に小さい分子に制限される。これは主に原子価結合軌道間、 ならびに原子化結合構造間の直交性の欠如のためである(それに対して分子軌道は直交している)。一方で、原子価結合法は、化学反応の経過中に結合が切断ならびに形成される時に起こる電荷の再編について分子軌道法よりもはるかに正確な描写を与える。具体的には、原子価結合法は等核二原子分子の別々の原子への解離を正しく予測するのに対して、単純な分子軌道法は原子とイオンの混合物への解離を予測する(#水素分子の例を参照)。例えば、二水素についての分子軌道関数は共有原子価結合とイオン性原子価結合を等しく混合したものであるため、2つの水素原子を引き離していった時に、分子が2つの水素原子という状態と水素陽イオンおよび陰イオンという状態が等しく混合した状態へと解離すると不正確に予測してしまう。 現代原子価結合法は、原子軌道の重なりを数多くの基底関数へ拡大された原子価結合軌道の重なりで置き換える。これらの基底関数は1つの原子を中心とした時は古典的な原子価結合描写を与えるが、分子中の全原子を中心とすることもできる。得られたエネルギーはハートリー-フォック参照波動関数に基づいて電子相関が導入された計算から得られたエネルギーに負けない精度を有する。
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