八旗の編成
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/01 08:25 UTC 版)
八旗制による基本的な編成形体は、有事の際に兵士となる成年男子300人を供出しえる集団をニル(niru、「矢」の意)とし、5ニルをジャラン(jalan、1500人)とし、5ジャランをグサ(gūsa、25ニル、7500人)とするものである。各グサは、各固有の旗を持って識別され、グサのことを漢語では「旗」と呼ぶようになった。なお、満洲語で旗(大旗、または旗印)自体は「gūsa」ではなく「turun」(略して「tu」)、小旗は「kiru」である。 新たに「満洲」という民族名で呼ばれるようになった女真人は、みな8個のグサ(旗)のうちいずれかの旗に所属させられたので、八旗は軍事組織であると同時に社会組織・行政組織であった。 各ニルにはニルイ・ジャンギン(nirui janggin、佐領)、各ジャランにはジャラン・ジャンギン(jalani janggin、参領)、そして各グサにはグサイ・エジェン(gūsai ejen、都統)が司令官として任じられ、グサイ・エジェンの下には副司令官として2人のメイレン・ジャンギン(meiren janggin、副都統)が任命され統括された(それらは八旗官と呼ばれる)。各グサにはさらにその上に、清朝の皇族である愛新覚羅氏の旗王が置かれ、グサイ・ベイレ(gūsai beile)、省略してベイレ(beile、貝勒)と呼ばれた。皇帝自身は正黄旗・鑲黄旗・正白旗3旗の王で、八旗による社会組織は、皇帝の領する3旗(dergi ilan gūsa、上三旗)と諸王の領するその他の5旗(fejergi sunja gūsa、下五旗)による部族連合国家という側面もある。下五旗の各旗の旗王は1人ではなく複数人おり、その中では爵位を元に序列が存在し、最も爵位の高い旗王が旗全体を代表していた。各旗の内部は満洲・蒙古・漢軍グサと、奴僕で家政を担う下級旗人のボーイ(満州語: ᠪᠣᠣᠢ 転写:booi、漢語:包衣)に分かれる。各旗王には各隷下に満洲・蒙古・漢軍ニルとボーイニルが与えられた。編成上は満洲・蒙古・漢軍は同旗の同種グサが集まって八旗満洲・八旗蒙古・八旗漢軍を構成する。これに対しボーイは各旗王に直属し、上三旗の場合は皇帝の内務府、下五旗の場合は各旗王の王府を構成した。 八旗の構造は元々満洲人に存在した部族(氏族)における族長と構成員の主従関係である主(ベイレ)と大臣(アンバン)と民(ジュシェン)、家(ボー)における主僕の関係である主(エジェン)と奴僕(アハ)の関係をそのまま発展させたものである。八旗官はかつては家臣・領民を従えて割拠していた大小の領主(アンバンやベイレ)であり、それが八旗制の元に所領はニルという形に、領主という地位はジャンギン職という形に置き換えられて再編成されたものであり、領主の連合という側面も有していた。八旗は実際には満・蒙・漢人に限っていたわけではなく、ニルに編成されいずれかの旗に属するという基準さえ満たせばあらゆる帰順者が編入された。八旗満洲にもエヴェンキ、オロチョン、ダウール等の満洲人以外の北方民族(新満洲人)が編入された他、モンゴル人や朝鮮人(高麗佐領)のニルも存在し、ロシア人捕虜(俄羅斯佐領)や亡命ベトナム人、チュルク系ムスリム(現在のウイグル人。回子佐領)、チベット人(番子佐領)のニルも編成され八旗満洲や八旗漢軍に配属された。またヌルハチ時代に臣従したモンゴル人や漢人は八旗満洲に配属されたままの場合もあった。 ボーイは戦争捕虜や拉致、困窮による身売りにより満洲人の元に連れてこられ仕えた漢人、高麗・朝鮮人が元になっており、主人が狩猟、交易、戦争を担うのに対し、家政、農業、牧畜を担い、どちらが欠けても生活が成立しえない関係であったため、上下関係は身分の差は厳格であるが親密な物であった。 旗人の忠誠はあくまで直属の旗王に向けられるものであり、皇帝直属の上三旗以外の旗人の皇帝に対する忠誠は、主人である旗王が忠誠を誓っているという間接的なものである。そのため康熙帝時の後継者争いのように派閥争いの危険性を内包していた。また旗人が官僚として各地に配属された時も、密かにその土地で得た利益や情報を主人である旗王に上納することも多く行われている。 臣従したモンゴル諸勢力も八旗制を元にした盟旗制度の元に再編成され、その長とされたモンゴル王侯であるジャサクは爵位を与えられ、旗王と同格とされた。 清初期に部隊ごと投降した明の武将孔有徳・耿仲明・尚可喜の集団も、八旗と同形式の組織に再編された上で天祐兵・天助兵という独立した軍団として従属し、彼らは三順王と呼ばれ旗王と同格に扱われた。後に呉三桂が加わって孔有徳が戦死して脱藩し、三藩となったが、三藩の乱後はこれらの漢人軍団は解体され八旗漢軍に編入された。
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