作品の評価・反響
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/11 13:25 UTC 版)
出版前から『週刊朝日』で19ページの特集が組まれ、新聞に記事が出るなどマスコミで大きく取り上げられ、センセーショナルな話題となった。 一方、戦後の日本において、戦争のイメージがなく、若く清新な「新生日本」にふさわしいともてはやされた皇太子の実像が、学友たちの権力争いの道具となり宮内庁職員らの窮屈な支配に諦めを抱く存在として描かれたことで、その人気は結婚によるミッチー・ブームが起こるまで陰りを見せた。背景には逆コースと呼ばれた民主化に逆行する風潮への批判があり、日本社会党の茜ケ久保重光と江田三郎は国会でこの小説を取り上げ、枠に嵌められる皇太子の状況への同情と落胆を語り、宮内庁への批判を展開した。 また出版当時は「『暴力教室』学習院版」とも評されたが、これは藤島の先輩にあたる三島由紀夫が、学習院における生徒から先生へのいじめのひどさを表現した言葉で、本作で描かれたような先生いじめは「昔から」だったとしている。学習院の校友会誌『輔仁会』で彼の作品を読んでいた三島は、本作をその頃に比べ「うますぎて心配」といい、皇太子が『レベッカ』のように、他のすべての人物に影響を与え行動の動機を与えながらも小説の背後に「淋しい肩を見せて立って」いる小説としての興趣を評価しつつ、皇太子の置かれる精神的みじめさと、物質的に恵まれない学生のみじめさは「お合い子」だといい、友情と称して皇太子をモデルにしたことについては疑問を投げかけた。 渡部直己は『不敬文学論序説』で、城山三郎『大義の末』とともに、主人公の皇太子に対する意識が山口昌男・網野善彦的王権論にいう「幼帝」への保護意識に根差し、「淡彩ながら明らかにホモ・エロティックな描写視線」があると指摘した。また皇太子との距離の「近さ」が象徴天皇制への批判になっているが、その接近ぶりの不躾さは「恋闕作家」ならではの虚偽や粉飾とともに皇族の初夜や潔斎で全裸にされる姿まで描いてしまう小山いと子の鈍感さと褒め殺しには及ばないとした。
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