仮想心皿方式
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/01 10:19 UTC 版)
枕梁機構を持つ台車では、中心ピンと心皿の作用により台車を回転させている。しかし、台車左右に配置されるボルスタアンカーを直角クランクピンで連結すると、回転中心となる箇所に心皿や中心ピンを設けることなく、台車を所定の位置で回転させることができる。このような心皿を用いない台車の回転機構を仮想心皿方式と呼ぶ。 図3-2に直角クランクピンとボルスタアンカーによる仮想心皿方式台車の回転機構を示す。ボルスタアンカー(牽引力伝達棒)の一端は車体に固定され、もう片方は台車枠に取り付けられたクランクピンと結ばれている。左右のクランクピンはロッドにより連結されており、相互のクランクピンの作用により、台車はあたかも心皿を中心に回転するような動きができる。 この形式の台車では、枕ばねの配置はダイレクトマウント方式に近い構造となるが、回転を許容する枕梁(ボルスタ)のない一種のボルスタレス構造であることから、枕ばねは台車の旋回による変形に耐える構造が求められる。また、ボルスタを有しないことから、牽引力伝達棒をボルスタアンカーとは呼ばず、単に引張棒または押棒と呼ぶ場合がある。 この形式における力の伝達を以下に示す。枕梁や心皿を持たないため、伝達機構は比較的単純である。 車体重量(上下方向荷重) 車体 - 枕ばね - 台車枠 - 軸ばね 牽引力(前後方向荷重) 車体 - ボルスタアンカー(引張装置) - 台車枠 - 軸箱支持装置 一般に仮想心皿方式が用いられるケースとして、以下の2点が挙げられる。 駆動機構の位置的な干渉により枕梁の配置に制限を受ける台車 軸重補償を必要とする台車 前者はおもに気動車で1台車2軸駆動を行う場合に採用される。気動車ではエンジンやトルクコンバータを車体に装備し、台車へは推進軸により駆動力を伝える。このとき、エンジン寄りの1軸のみを駆動する場合は問題とならないが、1台車の2軸両方を駆動する場合は、輪軸間にも推進軸あるいは平歯車による動力伝達装置が必要となり、それらが枕梁と干渉し台車の部材配置が困難となる場合がある。このような場合には、心皿や枕梁を持たない仮想心皿方式が有利となる。 もうひとつは、特に列車の引き出し時等での軸重補償を必要とする車両用の台車である。これは、列車の引き出し時において、電動機が始動して車輪が回転を始めると、その反力により台車が進行方向に対して後方に傾こうとする回転モーメントが発生して、前方の車輪の軸重が小さくなり、後方の車輪の軸重が大きくなる。車輪とレールの粘着は軸重に比例するため、前方の車輪では空転と呼ばれる空周りが発生する恐れがあり、空転が発生すると牽引力がほぼ0となり、列車を引き出すことができなくなる。また、軸重は走行路線の勾配の影響により、他の輪軸に移動する性質もあり、適切な軸重は空転を防止するために必要である。大きな引張力を必要とする機関車では、軸重の移動による影響が大きく、その対策として、旧型電気機関車では、重量がある頑丈な大型の3軸台車とし、台車同士を連結棒で連結する方式を採用しており、EF60形以降の電気機関車では、1台車につき1つの電動機を搭載して、片側の車軸で発生した反力をもう片側の車軸で相殺する1台車1モーター方式をEF30形とEF80形に採用している。牽引力の反力による台車の回転モーメントは、牽引力の伝達点がレール面に近ければ小さくなり、レール面では0となるため、仮想心皿方式では、車体下部の台枠と台車枠を繋ぐボルスタアンカーや引張棒をレール面に極力近い位置に配置して、牽引力の伝達点の高さをレール面に近づけることで軸重の移動を防止することができるとともに、さらなる牽引力の向上を図っている。 写真3-4に仮想心皿方式による機関車の台車事例を示す。これはジャックマン方式と呼ばれるもので、ボルスタアンカーに相当する引張棒が、車体下部の台枠(写真右側)と枕ばね直下の間を軸箱の下を通って低い位置で結んでいる。枕ばねの直下にはクランクピンが設けられており台車を回転させる機構を有するとともに、台車における牽引力の伝達点を下げることで、台車の回転モーメントと軸重の移動を抑制している。
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