人工林の問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/07 20:09 UTC 版)
世界の人工林は以下のような問題を抱えており、日本の農林水産省等が奨励した人工林も多くの問題を抱えている。 緑の砂漠 「緑の砂漠」とは、樹木はあるものの、下層植生が乏しい状態である。人工林は過密に植えたものを適宜間引いていくことで、良質の木材を得るという手順をたどる。まず樹木が幼いうちは下草を刈るなどして、太陽光や養分をめぐる下層植生との競争を人為的に避ける方針がとられる。下層植生は刈り取られてしまい、樹木は過密な状態のまま成長する。やがて樹木が大きくなり下層植生に対して優位に立つと、今度は樹木間で間引きを行わなければならないのであるが、これを怠ったまま放置しておくと密に広がった樹冠によって太陽光が遮られ、下層植生は枯れ果てて土がむき出しになった状態になってしまう(一応、時間が経てば再生はする)。因みに木材として育てる為には枝打ちをして余分な枝は切り落とさねばならず、枝打ち作業を行う為にも地面が露出していた方が便利という理由でも下草刈りが行われる。このため土がむき出しの状態になる期間が人為的に増えてしまっている。これが緑の砂漠と呼ばれる状態で、遠目には緑に覆われているものの、実態は生物多様性という面で非常に乏しい森林となってしまっている。また、下層植生がないことで雨滴による土壌侵食を受けやすく、土砂災害や水源地の保水力低下や水質悪化の原因となってしまうことがある。 なお、天然林の場合は種子が芽生えた時から激しい競争に晒され、樹木が幼いうちから密度が急激に減る。陽光が地表近くまで届くため下層植生もよく育ち、この問題は起こりにくい。 生態系の破壊 単一の樹種で構成されることが多く、天然林に比べると多様性という面では乏しいものがある。下層植生があるうちはまだ良いものの、前述の「緑の砂漠」状態になってしまうと単純化が一気に進んでしまう。木の実や草、小動物といった餌が不足した野生動物が、人里に下りてきてしまう一因とも言われている。 健康被害 手入れのなされていない人工林から発生する大量の花粉が花粉症の原因として問題になることがある。 これらの原因はいずれも手入れ不足だが、そうなる原因として日本では以下のようなことが挙げられている。 民有林では地籍調査が進んでいないことから、所有者間の境界が不明瞭であり、森林所有者の管理意識が低下しがちである。 木材価格の暴落により売っても利益が出るどころか、手間賃を差し引くと赤字である。 地形が急峻で機械化が容易ではないし、機械を入れるお金もない。 林家の高齢化と後継者問題。 天然更新にかかわる問題 近年の人工林は天然更新と称して皆伐後に広葉樹林とすることを狙い、植林をせず放置されることが多くなってきている。これは近隣に広葉樹林があり、条件のよい場所でとられる方法で、人工林にかかわる諸問題を解決する手段ともなっているが、豪雪地帯や風害地など条件の悪い場所ではササ類などが繁茂し森林が順調に回復しないケースもみられる。 2006年時点で、日本の人工林の8割が未整備状態であるとされており、公益的機能の低下に伴う土砂災害や森林の荒廃の危険性は年々高まってきている。廃村や限界集落周辺の森林、大規模河川や都市を流れる河川の上流に位置する森林などは、整備の重要性が特に高いとされている。
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