京都滞在
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/05 05:35 UTC 版)
『古都』は全9章からなり、「春の花」「尼寺と格子」「きものの町」は春、「北山杉」「祇園祭」は夏、「秋の色」「松のみどり」「秋深い姉妹」は秋、「冬の花」は冬、といったように京都の四季を背景に物語が進行する。小説に描かれたのは、1961年(昭和36年)の春から冬にかけての京都であり、実際の年中行事や出来事が盛り込まれている。 川端はこの物語を執筆するために、京都市左京区下鴨泉川町25番地の武市龍雄の邸宅を借りていた。作品冒頭にはすみれの花が描かれているが、川端が「京言葉」を取材するために訪れた下京区油小路佛光寺下ルの町家の秦家(漢方薬を製造販売した老舗の薬種商)の庭には、作中にも登場するキリシタン灯籠があり、川端が蹲の石の間に咲いていたすみれの花に興味をひかれていたという。モデルとなった家の庭は他に、京都市中京区車屋町三条下仁王門突抜307-1の漢方薬店(無二膏販売)雨森敬太郎薬房もあるという。 川端は『古都』の連載にあたり、「『古都』とは、もちろん、京都です。ここしばらく私は日本の〈ふるさと〉をたづねるやうな小説を書いてみたいと思つてゐます」と語っている。主人公・千重子が平安神宮で桜を見る場面では、谷崎潤一郎の『細雪』からの、「まことに、ここの花をおいて、京洛の春を代表するものはないと言ってよい」という一節がオマージュとして引用され、北山杉の村の場面では、同じ鎌倉文士で懇意だった大仏次郎の随筆『京都の誘惑』の一節が引かれ、花や樹木の自然の瑞々しさを綴る描写が多い。 連載中、文化勲章受賞を受けて記者会見した時に、京都を舞台にした動機を川端は以下のように語っていた。 古い都の中でも次第になくなってゆくもの、それを書いておきたいのです。京都はよく来ますが、名所旧蹟を外からなでていくだけ。内部の生活は何も知らなかったようなものです — 川端康成「文化勲章の記者会見にて」 なお、川端は洛中に現存する唯一の蔵元佐々木酒造の日本酒に「この酒の風味こそ京都の味」と、作品名『古都』を揮毫した。川端は京大名誉教授桑原武夫に、「古都という酒を知っているか」と尋ね、知らないと答えた桑原にこれを飲ませようと、寒い夜にも関わらず徒歩30分かけて買いに行ったと言われている。
※この「京都滞在」の解説は、「古都 (小説)」の解説の一部です。
「京都滞在」を含む「古都 (小説)」の記事については、「古都 (小説)」の概要を参照ください。
- 京都滞在のページへのリンク