井田メソッド
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/24 10:19 UTC 版)
井田進也は井田メソッドを駆使して「脱亜論」関連論説の起稿者の認定を行った。井田メソッドとは、無署名文において使用される語彙や言い回しの特徴を分析して起稿者の認定を行う方法である。起稿者の認定は、関与の多い方から5段階のA、B、C、D、Eで表す。井田は『歴史とテクスト――西鶴から諭吉まで』(光芒社、2001年)で「脱亜論」の認定を行い、「『脱亜論』の前段には福沢的でない『東洋に國するもの』、ごく稀な『力めて』『揚げて』、高橋の『了る』(福沢は稀)『横はる』が散見し、自筆草稿が発見されぬかぎり高橋が起稿した可能性を排除できないから、前回同様、福沢が高橋の原稿を真っ黒に塗抹したものとして、ほとんどAとしておこう。」と結論付け、時事新報記者で社説も執筆していた高橋義雄が起稿した可能性を排除できないとした。 さらに井田は「脱亜論」関連論説の起稿者の認定も行っている。「脱亜論」関連論説の認定結果の一覧表を引用する。「高橋」は前出の高橋義雄、「渡辺」は時事新報記者で社説も執筆していた渡辺治のことである。 「脱亜論」関連論説の起稿者認定結果論説名推定起稿者評価1「外交論」「一」〜「五」 自筆草稿あり / 4「脈既に上れり」 高橋 C 5「東洋の波蘭(ポーランド)」(第一日) 高橋 E (第二日) 高橋 C 6「支那風擯斥す可し」 福沢 A 7「輔車唇齒の古諺恃むに足らず」 渡辺 D 10「支那を滅ぼして欧州平なり」 高橋 C 11「軍費支弁の用意大早計ならず」 高橋 D 12「戦争となれば必勝の算あり」 渡辺・高橋 E 13「御親征の準備如何」 高橋 D 14「国交際の主義は脩身論に異なり」 福沢 A 15「脱亜論」 高橋? A なお、平山洋は井田の認定作業を受けて、次のように述べている。 論の運びの巧みさと語彙の平明さからいって真筆であると考えている。例えば「脱亜論」の中盤は『文明論之概略』第五章の要約になっているのであるが、そのまとめかたの手際のよさは作者ならではといえよう。また後半には朝鮮と中国における明治維新のような革命実現への期待が述べられているが、すでに見たように、同様の考えは一三年後に口述筆記された『福翁自伝』に示されている。 私自身、波多野承五郎・高橋義雄・渡辺治ら石河入社前から在籍していた社説記者が署名入りで書いた論説(したがって当然『全集』には収められていない)を読んでみて感じたことなのだが、これ程論旨が明快で巧妙にまとめられた文章を書く力量は当時の彼らにはなかったようだ。「脱亜論」は福沢が強い影響力を行使していた比較的早い時代の『時事新報』の社説の中では平凡な出来であったとしても、文章そのものの水準としてはやはり高いものがあったのである。 — 平山洋、平山(2004)、205頁。
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