主調整室の業務
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/05 07:11 UTC 版)
かつて主調整室の業務は全て人手によって行われていた。すなわちマスターディレクター、マスタースイッチャー(放送進行表(運行表)に従って、映像、音声を切り換える操作員)など、現在、スタジオで行われるいわゆる生放送とほぼ同じ人員体制が3ないしは4クルー作られ、その放送中、交代でひとときも絶えることなく手動にてスイッチングが行われていた。 全ての操作が完全に人手によって行われていたことや、放送設備が脆弱であったことから、その放送は午前6時頃から午後1時頃まで行われた後、いったん休止して、その間に番組素材の準備(ほとんどが生放送であったので、スタジオや副調整室の準備が主であった。)や、送信機の調整がなされ、午後4時頃に再開、日付が変わる前後にその日の放送を終了し、翌日の放送の準備が再び徹夜でなされるといったものであった。 なお当時、その利便性から主調整室が送信設備に隣接して置かれることも多く、特にテレビの場合、スタッフは「山登り」をして主調整室のある送信所に通っていた。現在も開局当時のテレビジョン送信所を使っている放送局の送信所には、当時のスタッフのための設備が遺されているところが多い。また、見学コースなどが遺されているところもある。 なお、当時の数少ない収録番組素材はフィルム、CM素材はフィルムやスライドフィルム、あるいはテロップカードであり、これらを順番に送出するために主調整室とは別に、フィルムを直接テレビで放送するための「テレシネ」を中心機材とした「テレシネ室」が設けられ、こちらもその放送中、スタッフが交代で送出作業に携わっていた。現在の主調整室業務はこのテレシネ室業務及び送信監視・操作業務を統合したものであり、概ね、最も大変なスイッチングの業務について自動化されたものとなっている。従って放送設備の飛躍的な進歩により大幅に省力化はされているが、業務の流れそのものについては、放送開始当時からあまり変わってはおらず、番組自動制御装置に大きな障害が発生した場合などには、直ちに手動運行体制がとられる。以下に主な業務をあげる。 送出、送信監視(監視) いわゆる「監視」を担当する監視員のことを「TD」と呼ぶことがあるが、これは「テクニカルディレクター」のことで、その放送中、その放送内容が放送進行表(運行表)に従っているか、映像、音声のいわゆる「品質」が、送出、送信ともに所定のものであるかを常時、監視する。なおここでいう「送出」とは、自動番組制御装置からSTLに放送内容を送り出すことであり、「送信」とは、送信所から放送内容を放送電波として視聴者に送り出すことを示す。 自動運行に技術的障害が発生した場合、TDはマスタースイッチャーとして手動送出を担当する。なお現代においては、自動番組制御装置により、常時はマスターディレクター(「MD」などと呼ぶ)は主調整室に不在であるが、緊急事態などで、放送内容に変更が生じる場合、民放であれば、番組編成担当者とCM編成担当者が主調整室に駆けつけてMDとなり、TDにスイッチングの指示を出し、放送運行の全指揮をとる。 通常の監視業務は通常、2名1チーム、3交代制などが組まれ、1時間から4時間間隔でTDを交代しながら行われる。現代においては機器の信頼性向上により、モニター設備を主調整室外に移し、TDも常時は不在とするところもある。また現代において、送信所設備の操作端末なども主調整室に置かれ、送信業務の一部(送信所にある送信機の操作など)が主調整室の担務となっているが、これについては原則として当番の無線技術士が担当する(ただし現代においては、例外規定により無資格の当番スタッフが担当することもある)。 放送進行(運行)データ管理 民放であれば、放送進行表(運行表)の原本は営放システムにあり、これを電子データとして、自動番組制御装置にセットする。また、放送済みデータを営業放送システムに返す作業もある。今日、作業そのものは自動化されており、正常に行われたかどうかの確認が人手によってなされている。非常時には手動で行われる。 放送機器管理(保守修繕作業) 個々の再生装置などの管理は放送中にも行うことが可能であるが、放送本線に関する部分については、放送終了から放送開始までの間に行われる。現代においては放送本線を含めて完全2重化されたシステムや、保守中も2重化を継続できるように放送本線を3重化したシステムもあり、この場合には放送本線に関する部分についても、放送中に行われることがある。 放送素材セット VTRなどの放送素材を、順次、機器にセットし放送に備える。かつてのテレシネ室業務に相当する。民放ではいわゆる番組とCMの両方があり、営業放送システムから別途出力される番組素材表、CM素材表に従い、人手によってそれぞれセットされる。現代においては数日分の放送素材をまとめて機器にセットできるようになったことから、「番組バンク室業務」、「CMバンク室」業務として、一度は主調整室業務と統合されたテレシネ室業務が、名前を変えて再び主調整室業務から分離されるようにもなってきている。
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