中性子増倍率
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/01 04:24 UTC 版)
原子炉内の核分裂によって発生した高速中性子は、減速材によって減速されて熱中性子になり、他のウラン235原子核に吸収されて核分裂反応を起こさせる。核分裂反応で発生した高速中性子 n 1 {\displaystyle n_{1}} 個が熱中性子になり、次の核分裂反応を起こさせて n 2 {\displaystyle n_{2}} 個の高速中性子を発生させるとする。この時、 k = n 2 / n 1 {\displaystyle k=n_{2}/n_{1}} を中性子増倍率と呼ぶ。 k {\displaystyle k} が 1 未満の時、発生する中性子は時間の経過と共に減ってゆき、やがて連鎖反応は停止する。 k {\displaystyle k} が 1 より大きい時、中性子は急激に増えてゆき、連鎖反応が増大してゆく。 k = 1 {\displaystyle k=1} の時、中性子の増減はなく、連鎖反応は持続する。この状態を臨界と呼ぶ。 実際の原子炉では発生した全ての高速中性子を核分裂反応に使用することができない。発生した高速中性子の一部は、減速材、制御棒や原子炉構造物へ吸収されたり、周囲のウラン238に吸収されたり、原子炉の外へ飛び出したりする。したがって中性子増倍率は、 k {\displaystyle k} にある係数をかけた実効(中性子)増倍率 k e f f {\displaystyle k_{\rm {eff}}} として考えねばならない。
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中性子増倍率
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/06 16:52 UTC 版)
「連鎖反応 (核分裂)」の記事における「中性子増倍率」の解説
実効中性子増倍率 (effective neutron multiplication factor) k は新たな核分裂を引き起こす中性子の数の平均値である。核分裂で放出された中性子の中には、次の核分裂を起こすことができなかったり、原子核と衝突せずに系から出て行くものもある。核分裂が起きている2つの物質を合わせた場合の全体の k の値は、常に個々の物質の k よりも大きくなる。場合によっては、個々の物質の k の和が合体後の物質の k に等しくなることもある。これらの違いの程度は、核分裂性物質同士の配置だけでなく、両者の速度や距離にも依存する。核分裂性物質でできた「弾丸」で、弾丸と同じ形の窪みを持つ核分裂性物質の標的を撃つような場合や、核分裂性物質に開けた小さな穴の中を核分裂性物質からなる小さな球が通過するような場合には、特に k の値は大きくなる。 核分裂の連鎖反応は k の値によって次の場合に分けられる。 k < 1(臨界量未満): 1回の核分裂から始まったとすると、その後の核分裂回数の合計は平均で 1/(1 − k) となる。連鎖反応は始まったとしても急速に停止する。 k = 1(臨界量): 1個の自由中性子から始まったとすると、これから生じる中性子の数の期待値はどの時刻でも 1 である。時間とともに、開始した連鎖反応が停止する確率は減っていき、これを補償するように、複数個の中性子が存在する確率が増加する。 k > 1(臨界量を超過): 1個の自由中性子から始まったとすると、中性子が次の核分裂を起こさない確率もしくはいったん開始した連鎖反応が停止する確率が無視できない値で存在する。しかし、いったん自由中性子の数が数個以上になると、非常に大きな確率でこの数は指数関数的に増える。系の中に存在する中性子の数(すなわち核分裂が自発的に起こる確率)と反応が始まって以来の核分裂回数の総計は、ともに e ( k − 1 ) t / g {\displaystyle e^{(k-1)t/g}} に比例する。ここで g は中性子の平均世代時間で t が経過時間である。この状態はもちろん永遠に続くわけではない。未反応の核分裂性物質の量が減るにつれて k は減少するし、物質の配置や密度も変化しうる。未反応の核物質が四散すればその配置は大きく変わるが、ただ融解したり吹き飛ばされるだけで終わる場合もある。 k が 1 に近い場合には上記の計算は中性子の倍加時間 (doubleing time) をいくらか過大に見積もっている。ウラン原子核が中性子を吸収すると、この原子核は非常に寿命の短い励起状態になり、その後いくつかの経路に従って崩壊する。典型的な場合には2個の破片、すなわち核分裂生成物に分裂する。典型的な核分裂片はヨウ素とセシウムの同位元素である。これとともにいくつかの中性子が放出される。核分裂生成物はそれ自体が不安定でさまざまな範囲の寿命を持つ。典型的にはこの寿命は数秒で、さらに中性子を放出して崩壊する。 通常、核分裂で放出される中性子は即発中性子 (prompt neutron) と遅発中性子 (delayed neutron) の2種類に分けられる。典型的には、遅発中性子比率 (delayed neutron fraction) は中性子全体の1%未満である。原子炉の内部では、中性子増倍率 k は典型的に 1 前後で安定した反応過程となっている。反応で作られる中性子全てについて k = 1 に達した時、その反応は臨界状態(または遅発臨界)にあると言う。原子炉ではこのような状態になっている。この状態では出力の変化はゆっくりとしていて、制御棒などを用いて制御することが可能である。即発中性子のみについて k = 1 になっている時、この反応は即発臨界の状態にあると言う。この場合には中性子の倍加時間は k - 1 の値に応じて通常の臨界よりもずっと短い値をとる。通常の臨界から即発臨界に達するまでに必要な反応度を相対的反応度単位(ドル、dollar)と呼ぶ 。すなわち反応度が1ドルであるときこれを即発臨界と定義でき、1ドル以上となれば原子炉の制御は困難となる。 核分裂性物質が中性子反射体に囲まれていると k の値は増加する。また核分裂性物質の密度が増加するとやはり k の値は増加する。これは、中性子が単位長さを移動するまでに原子核に衝突する確率が密度に比例するのに対して、中性子が系から脱出するまでに移動する距離は密度の立方根でしか減少しないためである。核兵器の爆縮過程では、核分裂性物質を通常爆薬で圧縮して密度を上げることによって爆発を起こす。
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