両社の無認可改造
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/11 05:28 UTC 版)
「信楽高原鐵道列車衝突事故」の記事における「両社の無認可改造」の解説
事故の発端となった信楽駅の信号不具合の遠因は、信楽高原鐵道とJR西日本がそれぞれ別個に、近畿運輸局の認可を得ずに行った信号制御の改造と、両社の意思疎通の欠如にあった。 JRからの直通列車が貴生川駅に着くのが遅れ、信楽駅から貴生川駅に向かう列車の方が早く小野谷信号場に到着した場合、小野谷信号場への到着で貴生川駅 - 小野谷信号場間の運転方向が貴生川方向に切り替わり、上り列車が貴生川駅まで到着できてしまう。すると遅れて着いた直通列車は貴生川駅で足止めされてしまい、単線であるJR草津線を走る他の列車にまで影響を及ぼす事態となる。この問題の解決策について関係会社間での小野谷信号場の信号システムの仕様の打ち合わせ時にJR西日本側から、小野谷信号場の上り出発信号機を抑止する機能の実装として、JR西日本亀山CTCセンター(亀山CTC)に方向優先テコを設置するという提案がなされた。しかし会議に同席した信楽高原鐵道側の信号システムの設計会社から、JR西日本が信楽高原鐵道の信号機を操作するという信号設備のタブーを指摘され、その場で方向優先テコの設置案は取り下げられた。それを受け、会議では運行管理権の原則どおり、亀山CTCと信楽駅間との直通電話の設置と、信楽駅からの操作で上り列車を小野谷信号場に抑止するボタンを設置し取り扱うという合意を得た。 こうしてJR西日本が当初提案した方向優先テコ設置はいったん取り下げられたはずだったが、後日、JR西日本は信楽高原鐵道に無断でかつ、運輸局の認可を受けることなく、当初案通り亀山CTCに方向優先テコを無届出で設置した。またJR西日本は方向優先テコにより機能を果たせるとして、信楽高原鐵道が工事担当する信号メーカーの工場へ指示し、先の合意を実行するための信楽駅の制御盤上の抑止テコを外させた。ところがJR西日本が設置した方向優先テコは信楽方向に運転方向を設定しなければ機能しないものであった。そのため亀山CTCの運転指令員は一度貴生川駅の出発信号機を青にし、運転方向が信楽方向になったのを確認した後に方向優先テコを入れ、その後、貴生川駅の出発信号機を再び赤にする操作を強いられた。 一方で信楽高原鐵道も検査合格の日である1991年3月8日に無認可改造を行っていた。小野谷信号場は峠に位置するため、場内信号機手前の地点にあった信号制御点では上り・下り双方の列車とも急勾配を登り切る前に減速を余儀なくされる(場内信号機の定位は赤信号のためATSが作動し、登坂中にいったんブレーキ操作をしなければならない)。急勾配に加えカーブによる速度制限もあり運転士の間からクレームが付いたため、両方の単線区間において両端駅から小野谷信号場への方向設定が行われた時点で小野谷信号場の場内信号機を警戒信号にするよう改造を行なった。さらに信楽駅到着の列車の進入をスムーズにするために、認可された信号制御システムは信楽駅手前の地点通過により場内信号機に進入許可を出すものであったものを改造し、小野谷信号場 - 信楽駅間の進路が信楽方向であれば信楽駅の場内信号機が進入許可を出すように改造した。 両社の無認可改造は両社間での相互チェックを経ることはもちろん、結線図・連動図表の交換すらしなかった。しかも両社とも「小規模な工事」だとして自社内での連動会議・結線会議も十分に行われることは無かった。 こうした両社の無認可改造の結果、貴生川駅 - 小野谷信号場間に列車が在線中に亀山CTCで方向優先テコを扱うと、その機能により小野谷信号場で一度反位になった下り線場内信号機が定位に戻らないことから、反位片鎖錠の関係にある出発信号機は反位のまま戻らなくなった(ただし列車在線中は赤信号を現示する)。その結果、列車の進行につれて方向優先テコの信号が信楽駅にまで伝播し、貴生川駅から信楽駅に至るまで運転方向が下りに固定されてしまうという、JR西日本の意図しない結果になった。このため事故当日の信楽駅の信号機も、方向優先テコを引かれた状態で先行した下り列車によって設定された運転方向が信楽駅到着後も解除されず運転方向が下りのまま固定されてしまった。したがって、逆向きの上りである信楽駅の出発信号機は赤のまま変わらなくなってしまった。 事故当日が5月3日の再現であれば、仮に信楽駅から上り列車が出発信号機の赤信号を無視して発車しても誤出発検知リレーが作動し、小野谷信号場の下り出発信号機が赤になるはずであった。しかし5月3日の時とは異なり、継電器室での作業により誤出発検知信号が途切れてしまった。運転方向が下り(小野谷信号場から信楽駅方向)のまま在線状態はクリアされていたため、自動進路制御装置の機能によりJRの直通列車は小野谷信号場を青信号で通過し単線区間に入り、信楽発の列車と衝突することになった。よしんば誤出発検知装置が正常に機能したとしても、信楽駅からの上り534D列車の出発が遅れ、誤出発検知装置が作動する前に下り501D列車が小野谷信号場に先着していれば、もはや対向列車は止める術はない。強引な上り列車の出発が時間的に間に合わなかった可能性を刑事裁判での判決は指摘している。
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