七ヶ国共同研究
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/13 17:59 UTC 版)
一見直感に反する事実が、食事療法と心血管疾患(Cardiovascular Disease, CVD)に対するキースの関心を幾分か刺激した。沢山食べる人は心臓病の罹患率が高く、戦後のヨーロッパでは食料の供給が減少したのが原因で心血管疾患の罹患率が急激に低下した、と見られた。キースはコレステロールと心血管疾患の相関関係について仮定し、ミネソタ州に住むビジネスマンについて研究を始めた(心血管疾患についての未来を見据えた研究は初である)。1955年、ジュネーヴにある世界保健機関で開催された専門家会議の場で、キースは「食べ物に含まれる脂肪が心臓病の原因である」とする自身の仮説を「普段どおりの厚かましさと無遠慮な態度」とともに提示した。キースは心臓病による死亡と、ある6つの国での食事に含まれる脂肪の多さとの相関関係を提示した。キースの理論的根拠と結論は、2人の疫学者から強く批判された。キースの立てた仮説を補強するかと思われた最初の事例研究がナポリでの研究であった。100歳以上の高齢者が南イタリアに集中している点に気付いたキースは、動物性脂肪(Animal Fat)の摂取量が少ない地中海食(Mediterranean Diet)は心臓病を予防し、それを多く含む食事は心臓病の原因となる、と仮定した。これはのちに「七ヶ国共同研究」(The Seven Countries Study)と呼ばれる長期観察研究を開始するのに役立った。これは「血清コレステロールが個人・集団を問わず、冠状動脈性心臓病(Coronary Heart Disease)による死亡率に強く関係していることを示す」と思われている。キースは、「肉や牛乳に含まれる飽和脂肪酸は有害であり、植物油に含まれる不飽和脂肪酸には有益な効果がある」と結論付けた。キースによるこの言葉は、「飽和か不飽和かを問わず、全ての脂肪は有害である」と見なされるようになった1985年頃から20年秘匿され続けてきた。これは「肥満や癌を惹き起こす原因は食べ物に含まれる脂肪である」とする仮説によって推し進められてきた。根拠に基づく医療(Evidence-Based Medicine)を推進するコクラン共同計画(Cochrane Collaboration)が2015年に発表した体系的批評と展望研究(Meta-Analysis)では、飽和脂肪酸の摂取量を減らすと心血管疾患を起こす危険性が低下する、としたうえで、「心血管疾患の危険のある人とそうでない人への心添えとして、飽和脂肪酸の摂取を半永久的に減らし、不飽和脂肪酸に置き換えて食べる必要がある」と結論付けた。 キースは1972年にミネソタ大学を退職した。彼の教え子で医学博士のヘンリー・ブラックバーン(Henry Blackburn)は生理学衛生研究所の所長に就任した。ブラックバーンは心臓病の原因と予防のための食事療法や生活習慣が果たす役割についての研究を続けた。この研究部門は、1970年代から1980年にかけての多機関共同試験(Multicenter Trial)や、ミネソタ州での追跡調査(Surveillance)と予防的介入(Preventive Intervention)における集団戦略(Population Strategy)において主体的な役割を果たした。
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