ボーイングT-Xとは? わかりやすく解説

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T-7 (航空機・アメリカ)

(ボーイングT-X から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/07 08:34 UTC 版)

ボーイング T-7A レッドホーク

アメリカ空軍のT-7A

ボーイング/サーブ T-7Boeing/Saab T-7)は、ボーイングサーブにより開発されたアメリカ合衆国スウェーデンの高等練習機

アメリカ空軍で運用中で、初就役から半世紀以上経ったノースロップ(現・ノースロップ・グラマンT-38 タロンを置き換えるための高等練習機(TX)プログラムの勝者[1]として、2018年9月27日にアメリカ空軍によって選定された。2019年9月16日に制式名称を「T-7A レッドホーク」とすることが発表された[4]

開発

ボーイングT-Xは2016年9月13日に発表され[5]、初飛行は2016年12月20日に行われた[6][7]。開発では、三次元モデリングや風洞実験の仮想現実化などのデジタル化で、開発に要する時間とコストが短縮された[1]

2018年9月27日、ボーイングT-XがT-38に代わってアメリカ空軍の新しい高等練習機になることが正式に発表された。導入にあたっては、機体の性能や運用コストのみではなくフライトシミュレータや脱出訓練用シミュレータ、兵器訓練用シミュレータなど、実機を用いない訓練装置の完成度が評価された[1]。予定は351機とフライトシミュレータ46台であり、予算は92億USドルとされている[1][8][9][10]

設計

機体

ボーイングT-7Aは単発ジェット機で、肩翼配置の主翼と双垂直尾翼を有する。主翼は前縁付け根に機動性を高めるためのストレーキ、前縁にはスラット、後縁にフラッペロンを持つ。水平尾翼は全遊動式で、主翼のフラッペロンと垂直尾翼の方向舵と共に操縦翼面を構成する。動翼の操縦はフライ・バイ・ワイヤで行われる。水平尾翼と垂直尾翼の安定板は左右同形で、損傷時にも容易に交換できるようになっている[1]

着陸装置は引き込み式三輪で、いずれもシングルタイヤである。ブレーキは主輪のみ装備する[1]

操縦席

射出座席はボーイングACESIIの改良型であるコリンズACES5で、対地速度0-550kn、脱出高度0-1万5,240m、パイロットの体重は45-205kgと対応可能な速度・高度・体重いずれも向上している。操縦席は後席が前席より高いタンデム座席で、グラスコックピット化してタッチパネル多機能ディスプレイを採用した先進コックピットである。操縦桿ジョイスティック式で、ボーイング製の機体で軍用・民用通して初めて、右側にシフト配置したサイドスティック式である。風防は、整備や点検、交換が容易な横開きのキャノピーを採用した[1]

T-7AはT-38より高度なアビオニクスを搭載しており、F-35への移行を想定した訓練が可能である。T-7には、F-35に搭載されているヘッドマウントディスプレイが仕様に盛り込まれなかったため、従来のヘッドアップディスプレイが搭載されている。これらの機器は、今後運用される新たな機器への交換や追加が可能である[1]

エンジン

エンジンはゼネラル・エレクトリック社のF404-GE-103ターボファンエンジンを搭載している[11]。このエンジンはF/A-18C/DのF404-GE-402をT-7用に改修したもので、アフターバーナー使用時の定格出力が抑えられている。また胴体後部のエンジン搭載部は下方に大きなアクセスパネルがあり、エンジンを機体下部から着脱できるため、整備効率が大幅に向上している[1]

搭載されている燃料タンクはブラダー式燃料英語版より安全性が高い単一壁式で、背部にはオプションでフライングブーム式の空中給油受油装置が装備可能である[1]

運用

T-7Aに関する地上での訓練と支援は、T-38を代替するアメリカ空軍T-X計画英語版のためにボーイングとスウェーデンの航空宇宙グループパートナーであるサーブにより開発・提供されている[12]。ボーイングとサーブは、2013年12月6日にアメリカ空軍T-X計画コンペティションのためのパートナーシップ契約を締結した[13]。アメリカ空軍の主契約者はボーイングで、契約上はアメリカ製の機体とされている[1]

2019年時点で、日本をはじめとしたF-35を採用した海外諸国への売り込みや軽攻撃機への転用も視野に入れている。また1982年までT-38を運用し、1983年以来40年以上F-16を運用している曲技飛行隊サンダーバーズの代替機の可能性が指摘されている[1][14]

2022年4月28日、ボーイングは技術・製造開発段階の初号機が完成し、ロールアウト式典が開催された。初号機の垂直尾翼は赤く塗装されが、これは配備先の第99飛行訓練飛行隊英語版の前身で、第二次世界大戦中に編成された第99追撃飛行隊に所属するP-51Dの尾翼が赤く塗装されていたことに由来する[1]。2023年9月16日、ボーイングはT-7A初号機をアメリカ空軍に納入したことを発表した[15]

採用

諸元

諸元はAir Force Magazineによる[16]

  • 乗員: 2名
  • 全長: 14.30m (46.9ft) または14.15m[1]
  • 全幅: 9.33m (30.6ft)
  • 全高: 4.11m (13.5ft) または3.99m[1]
  • 空虚重量: 3,250kg[1]
  • 最大離陸重量: 5,500kg(12,125lb)
  • エンジン: ゼネラル・エレクトリック F404-GE-103 ターボファンエンジン×1基
  • 推力(アフターバーナー使用時)17,200lb
  • 最大速度: 702kn (マッハ 1.04)[1]
  • 巡航速度: 526kn (974.14km/h)[1]
  • 航続距離: 1,140マイル(990海里)
  • 最大高度: 15,240m(50,000フィート)以上

脚注

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t 青木謙知「"T-X計画の覇者"アメリカ空軍新高等練習機ボーイングT-7A初号機ロールアウト」『航空ファン』通巻836号(2022年8月号)文林堂 P.60-65
  2. ^ Tyler Rogoway (2018年9月28日). “Boeing's T-X Win Is Really Much Bigger Than Just Building A Replacement For The T-38 - The Drive”. thedrive.com. 2018年9月28日閲覧。
  3. ^ Steve Trimble (2018年10月24日). “Details Emerge On Costs, Rewards Of Boeing Low-Cost T-X Bid Defense content from Aviation Week”. Aerospace Daily & Defense Report. 2018年10月24日閲覧。
  4. ^ Air Force announces newest Red Tail: ‘T-7A Red Hawk’”. U.S. AIR FORCES IN EUROPE & AIR FORCES AFRICA (2019年9月16日). 2019年9月16日閲覧。
  5. ^ Boeing T-X Sees the Light”. Boeing. 2017年4月10日閲覧。
  6. ^ “Boeing and Saab complete first T-X flight”. Flight Global. (2016年12月20日). https://www.flightglobal.com/news/articles/boeing-and-saab-complete-first-t-x-flight-432611/ 2018年9月28日閲覧。 
  7. ^ Niles, Russ (2016年12月20日). “Boeing/Saab T-X First Flight”. AVweb. 2016年12月21日閲覧。
  8. ^ “Air Force awards $9B contract to Boeing for next training jet”. Defense News. (2018年9月27日). https://www.defensenews.com/breaking-news/2018/09/27/reuters-air-force-awards-9b-contract-to-boeing-for-next-training-jet/ 2018年9月28日閲覧。 
  9. ^ Air Force awards next-generation fighter and bomber trainer”. Saab. 2018年9月28日閲覧。
  10. ^ O'Connor, Kate (2018年10月2日). “Air Force Selects New Combat Trainer”. AVweb. 2018年10月3日閲覧。
  11. ^ Boeing T-X Advanced Pilot Training system”. Saab. 2016年12月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年9月28日閲覧。
  12. ^ Clark, Colin. “Boeing Takes T-X Lead as Northrop Joins Raytheon & Drops Out of T-X”. Breaking Defense. http://breakingdefense.com/2017/02/boeing-takes-t-x-lead-as-northrop-joins-raytheon-drops-out-of-t-x/ 2017年4月16日閲覧。 
  13. ^ Boeing and Saab Sign Joint Development Agreement on T-X Family of Systems Training Competition”. Boeing. 2017年4月10日閲覧。
  14. ^ ボーイング社、次期超音速高等練習機「TX」を日本に積極売り込みへ”. 産経新聞 (2019年3月19日). 2019年5月3日閲覧。
  15. ^ ボーイング、「T-7Aレッドホーク」米空軍へ納入!T-38タロン練習機更新へ”. 航空ファン・飛行機利用者のためのサイト FlyTeam(フライチーム) (2023年9月26日). 2024年2月9日閲覧。
  16. ^ T-7A Red Hawk, https://www.airforcemag.com/weapons-platforms/t-7a/ .

関連項目

外部リンク


ボーイング T-X

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/11/09 16:39 UTC 版)

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ボーイング T-X

ボーイング/サーブTーXは、ボーイング社とサーブ社により開発されたアメリカ合衆国スウェーデンの高等練習機ノースロップ(現・ノースロップ・グラマンT-38 タロンを置き換えるために高等練習機(TX)プログラムの勝者として2018年9月27日にアメリカ空軍によって選定された。2019年9月16日制式名称を「T-7Aレッドホーク」とすることを発表した[3]

設計・開発

ボーイングT-Xは、単発エンジンを備えた高等練習機であり、双垂直尾翼、タンデム座席、引き込み式三輪の着陸装置を備える。この機体はゼネラル・エレクトリック社のアフターバーナー付きF404ターボファンエンジンを搭載している[4]。双垂直尾翼は良好な安定性と制御を提供し、ブームとレセプタクルを使用しての飛行中の燃料補給が可能である(別名フライングブームシステム)

ボーイングT-Xとそれに関連する地上での訓練と支援は、T-38を代替するアメリカ空軍T-X計画のためにボーイングとスウェーデンの航空宇宙グループパートナーであるサーブにより開発・提供されている[5]。ボーイングとサーブは、2013年12月6日にアメリカ空軍T-X計画コンペティションのためのパートナーシップ契約を締結した[6]

2016年9月13日に発表され[7]、初飛行は2016年12月20日に行われた[8][9]

2018年9月27日に、ボーイングT-XがT-38に代わってアメリカ空軍の新しい高等練習機になることが正式に発表された。導入予定は351機とフライトシミュレータ46台であり、予算は92億USドルとされている[10][11][12]

T-38より高度なアビオニクスを搭載しており、F-35への移行を想定した訓練が可能である。2019年時点で、日本をはじめとした海外への売り込み、軽攻撃機(COIN機)への転用も視野に入れている[13]

採用

諸元

  • 乗員数:2
  • 全長: 14.15m (46.42フィート)
  • 全幅: 10.00m (32.81フィート)
  • 全高: 4.00m (13.12フィート)
  • 機体重量: 3,250kg (7,165lb)
  • 最大離陸重量: 5,500kg(12,125lb)
  • エンジン数:1
  • エンジン:ゼネラル・エレクトリック F404
  • エンジン形式:アフターバーナー付きターボファン
  • 推力:11,000lb
  • 推力(アフターバーナー使用時)17,700lb
  • 最大速度 1300km/h(808mph、702kts)
  • 航続距離 1,143マイル(994海里)
  • 最大高度 15,240m(50,000フィート)
  • 上昇率 33,500フィート/分

脚注

  1. ^ Tyler Rogoway (2018年9月28日). “Boeing's T-X Win Is Really Much Bigger Than Just Building A Replacement For The T-38 - The Drive”. thedrive.com. 2018年9月28日閲覧。
  2. ^ Steve Trimble (2018年10月24日). “Details Emerge On Costs, Rewards Of Boeing Low-Cost T-X Bid Defense content from Aviation Week”. Aerospace Daily & Defense Report. 2018年10月24日閲覧。
  3. ^ Air Force announces newest Red Tail: ‘T-7A Red Hawk’”. U.S. AIR FORCES IN EUROPE & AIR FORCES AFRICA (2019年9月16日). 2019年9月16日閲覧。
  4. ^ Boeing T-X Advanced Pilot Training system”. Saab. 2018年9月28日閲覧。
  5. ^ Clark, Colin. “Boeing Takes T-X Lead as Northrop Joins Raytheon & Drops Out of T-X”. Breaking Defense. http://breakingdefense.com/2017/02/boeing-takes-t-x-lead-as-northrop-joins-raytheon-drops-out-of-t-x/ 2017年4月16日閲覧。 
  6. ^ Boeing and Saab Sign Joint Development Agreement on T-X Family of Systems Training Competition”. Boeing. 2017年4月10日閲覧。
  7. ^ Boeing T-X Sees the Light”. Boeing. 2017年4月10日閲覧。
  8. ^ “Boeing and Saab complete first T-X flight”. Flight Global. (2016年12月20日). https://www.flightglobal.com/news/articles/boeing-and-saab-complete-first-t-x-flight-432611/ 2018年9月28日閲覧。 
  9. ^ Niles, Russ (2016年12月20日). “Boeing/Saab T-X First Flight”. AVweb. 2016年12月21日閲覧。
  10. ^ “Air Force awards $9B contract to Boeing for next training jet”. Defense News. (2018年9月27日). https://www.defensenews.com/breaking-news/2018/09/27/reuters-air-force-awards-9b-contract-to-boeing-for-next-training-jet/ 2018年9月28日閲覧。 
  11. ^ Air Force awards next-generation fighter and bomber trainer”. Saab. 2018年9月28日閲覧。
  12. ^ O'Connor, Kate (2018年10月2日). “Air Force Selects New Combat Trainer”. AVweb. 2018年10月3日閲覧。
  13. ^ ボーイング社、次期超音速高等練習機「TX」を日本に積極売り込みへ”. 産経新聞 (2019年3月19日). 2019年5月3日閲覧。

関連項目

外部リンク


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