ベルリン国際映画祭での「国辱映画」事件
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「壁の中の秘事」の記事における「ベルリン国際映画祭での「国辱映画」事件」の解説
ベルリン国際映画祭主催では、第14回ベルリン国際映画祭での映画の質の低さが問題となり、選考基準が厳しくなった。それとともに、諮問委員会には、映画産業界からだけでなく、ドイツ政府代表、州政府役人、ボンから国会議員、ベルリン代議士、労働組合・ベルリン芸術アカデミーから選任された。また、映画祭第三セクションのフィルムマーケットでは、これまで各国代表機関の推薦作品のみで、日本では日本映画製作者連盟(映連)からの推薦作品のみだったが、映画祭側が却下できるようになった。 日本映連は第15回ベルリン国際映画祭のために山本薩夫「にっぽん泥棒物語」と増村保造「兵隊やくざ」を推薦するが予選落ちした。 ドイツ配給会社ハンザ・フィルムが、自社が買い付けた「壁の中の秘事」を推薦した。審議では、評論家フィードラーが「唾棄すべき人間を社会的な目で描くように見せかけた質の悪い作品」と酷評したが、パタラスや市議会選出のシェレンベルク夫人が推薦した。 ベルリンから「壁の中の秘事」の正式参加を通達された映連は驚愕し、これは映連の正式選出作品ではなく遺憾だと抗議した。映連会長の永田雅一は、東京の西ドイツ大使館に、日独文化交流の支障となる懸念があるので善処を要請し、映連は日本外務省にも働きかけ、上映されたら映連は今後映画祭への参加を取りやめると通告した。日本映画ペンクラブも、若松映画は「性的行動の描写をなす映画のみを上映する映画館」のために製作されたもので、この映画が日本代表と扱われることに甚だしく不満であり、ベルリン映画祭の歴史を傷つけ、日本とドイツの国民感情を考慮して上映されるべきではないと抗議した。 ベルリン国際映画祭はこうした日本映画界の抗議を無視して上映した。上映がはじまると、激しい口笛や罵声が飛び交い、上映後の記者会見では若松監督には通訳がつかず、反論もできないほどであった。ドイツの新聞各紙も非難をくりひろげ、アーベンドツァイトゥングは「こんな下品な駄作が上映されるような馬鹿げたことは二度とあってはならない」と報じ、モルゲンポストは「この映画はいんちき、芸術的には亜流」であると非難した。ディ・ヴェルト紙で映画評論家フリードリッヒ・ルフトは、この映画の監督は「頭脳薄弱」で、「無意味で不愉快」な映画で、この愚劣な映画へのヤジだけが救いだったと非難した。 外務省の都倉栄二は国際映画祭の主催者は国民感情を傷つけることのないように、またその国の間違ったイメージを普及させることのないように配慮すべしと声明を出し、毎日新聞の映画評論家で映画祭審査員でもあった草壁久四郎は、若松映画は「まったく救いようがない」三流以下の映画と非難した。また、作家の倉橋由美子は若松映画を「にせ芸術」と非難し、東宝専務の藤本真澄は、若松がベルリンで恥をかくのは自由だが、日本国が恥をかくのでは問題だと語った。他方、佐藤重臣、小川徹、有馬弘純は若松映画を擁護した。 なお、若松以外でもビルゴット・シェーマン、ロマン・ポランスキー(ただし銀熊賞受賞)、ボー・ヴィーデルベリなどもドイツのマスコミから非難された。金熊賞はゴダールの『アルファヴィル』だった。 ローランド・ドメーニクは、若松は日本国家の批判者として国家の恥部を描いたので、日本が国辱として受け取るのも無理もないことだったと述べる。
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