ハリッシュ=チャンドラの c-函数
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/09/26 00:41 UTC 版)
「球函数に対するプランシュレルの定理」の記事における「ハリッシュ=チャンドラの c-函数」の解説
詳細は「ハリッシュ=チャンドラc函数」を参照 非可換調和解析においてハリッシュ=チャンドラの c-函数が果たすことになる多くの役割は Helgason (2000) にまとめられている。もともとは、前節に述べたとおりハリッシュ=チャンドラが球函数の漸近展開を行うために導入したものであったけれども、すぐに誘導表現の間の経絡作用素(表現の準同型)とも緊密な関係にあることが理解されるようになった。そのような意味でこれを研究するのは Bruhat (1957) が最初である。ここでいう経絡作用素は、ワイル群の元 s に対して πλ と πsλ とがユニタリ同値であることを示すもので、そのような作用素にc-函数 cs(λ) を割り当てることができる。具体的には、経絡作用素を定数函数 1 である ξ0 ∈ L2(K/M) に施したものの 1 における値である。あるいは同じことだが、ξ0 はスカラー倍を除いて K の固定する唯一のベクトルであるから、これは経絡作用素の固有値 cs(λ) に属する固有ベクトルである。これらの経絡作用素は全て同じ空間 L2(K/M) に作用し、この空間は MAN 上の λ が定める一次元表現からの誘導表現と同一視することができる。A を一つ決めたならば、コンパクト部分群 M は A の K における中心化群として一意的に決定されるが、冪零部分群 N は a ∗ {\displaystyle {\mathfrak {a}}^{*}} におけるワイルの小部屋の選び方に依存し、その選び方はワイル群 W = M′/ M による置換の分だけある。ただし、M′ は A の K における正規化群とする。対 (s, λ) に対応する標準経絡作用素とは、 A ( s , λ ) F ( k ) = ∫ σ ( N ) ∩ s − 1 N s F ( k s n ) d n {\displaystyle A(s,\lambda )F(k)=\int _{\sigma (N)\cap s^{-1}Ns}F(ksn)\,dn} によって誘導表現上で定義されるものをいう。ここに、σ はカルタン対合である。これは経絡関係式(準同型性) A ( s , λ ) π λ ( g ) = π s λ ( g ) A ( s , λ ) {\displaystyle A(s,\lambda )\pi _{\lambda }(g)=\pi _{s\lambda }(g)A(s,\lambda )} を満足する。このような経絡作用素およびそこに現れる積分の重要な性質は、ワイルの小部屋の選び方に付随するワイル群上の長さ函数 ℓ について ℓ ( s 1 s 2 ) = ℓ ( s 1 ) + ℓ ( s 2 ) {\displaystyle \ell (s_{1}s_{2})=\ell (s_{1})+\ell (s_{2})} が成り立つ限りにおいて、乗法的なコサイクル条件 A ( s 1 s 2 , λ ) = A ( s 1 , s 2 λ ) A ( s 2 , λ ) {\displaystyle A(s_{1}s_{2},\lambda )=A(s_{1},s_{2}\lambda )A(s_{2},\lambda )} を満たすことである。これは s ∈ W に対して、小部屋の内部にある各点 X について X と sX とを結ぶ線分が交叉する小部屋の総数である。正の制限ルートの総数に等しい長さを持つ唯一の最長元 s0 は、ワイルの小部屋 a + ∗ {\displaystyle {\mathfrak {a}}_{+}^{*}} を − a + ∗ {\displaystyle -{\mathfrak {a}}_{+}^{*}} の上へ写す唯一の元である。ハリッシュ=チャンドラの積分公式により、これはハリッシュ=チャンドラの c-函数 c ( λ ) = c s 0 ( λ ) {\displaystyle c(\lambda )=c_{s_{0}}(\lambda )} に対応する。一般に c 函数は、ξ0 を L2(K/M) における定数函数 1 として、等式 A ( s , λ ) ξ 0 = c s ( λ ) ξ 0 {\displaystyle A(s,\lambda )\xi _{0}=c_{s}(\lambda )\xi _{0}} によって定義される。経絡作用素の満たすコサイクル条件から、c-函数の同様の乗法的性質 c s 1 s 2 ( λ ) = c s 1 ( s 2 λ ) c s 2 ( λ ) {\displaystyle c_{s_{1}s_{2}}(\lambda )=c_{s_{1}}(s_{2}\lambda )c_{s_{2}}(\lambda )} が ℓ ( s 1 s 2 ) = ℓ ( s 1 ) + ℓ ( s 2 ) {\displaystyle \ell (s_{1}s_{2})=\ell (s_{1})+\ell (s_{2})} なる仮定のもとで得られる。 この性質は cs の計算を s = sα, 即ち単純ルート α に関する鏡映の場合に帰着させる。いわゆる Gindikin & Karpelevič (1962) の「階数 1 還元」である。 実は積分は Σ0+ に載るような α に対する g ± α {\displaystyle {\mathfrak {g}}_{\pm \alpha }} が生成する部分リー環に対応する閉連結部分群 Gα のみが関係する 。そうして、Gα は実階数 1, 即ち dim Aα = 1 の実半単純リー群であり、cs はちょうど Gα のハリッシュ=チャンドラ c-函数になる。この場合 c-函数は様々な意味で直接的に計算することができる: φλ が(超幾何方程式の接続係数に対するガウスの古典的な公式から)漸近展開の知られている超幾何函数を使って表せることに注意することによって。 直截に積分(これは二変数の積分として、従って二つのベータ函数の積として、表すことができる)を計算することによって。 それによって公式 c s α ( λ ) = c 0 2 − i ( λ , α 0 ) Γ ( i ( λ , α 0 ) ) Γ ( 1 2 ( 1 2 m α + 1 + i ( λ , α 0 ) ) Γ ( 1 2 ( 1 2 m α + m 2 α + i ( λ , α 0 ) ) {\displaystyle c_{s_{\alpha }}(\lambda )=c_{0}{2^{-i(\lambda ,\alpha _{0})}\Gamma (i(\lambda ,\alpha _{0})) \over \Gamma ({1 \over 2}({1 \over 2}m_{\alpha }+1+i(\lambda ,\alpha _{0}))\Gamma ({1 \over 2}({1 \over 2}m_{\alpha }+m_{2\alpha }+i(\lambda ,\alpha _{0}))}} が導かれる。ただし c 0 = 2 m α / 2 + m 2 α Γ ( 1 2 ( m α + m 2 α + 1 ) ) {\displaystyle c_{0}=2^{m_{\alpha }/2+m_{2\alpha }}\Gamma ({1 \over 2}(m_{\alpha }+m_{2\alpha }+1))} とする。c(λ) に対する一般のギンディキン-カルペレヴィッチの公式(英語版)は、この公式と cs(λ) の乗法性の帰結として、直ちに得られる。
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