ハウジングファーストの原則
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/12/20 04:45 UTC 版)
「ハウジングファースト」の記事における「ハウジングファーストの原則」の解説
ハウジングファーストの起源は、1988年にアメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルスでTanya Tull(www.partnering-for-change.org)のBeyond Shelterで開始された家族のためのハウジングファーストプログラムである。このプログラムは子供がいるホームレス家族が急増したことに対応するために開始された。この家族向けハウジングファーストアプローチには、児童の安全に関する徹底的なスクリーニングと評価が含まれており、子供が現在危険にさらされているという徴候がある場合、家族を賃貸住宅に移すことはしなかった。家族向けハウジングファーストプログラムを受けている場合、賃貸住宅に引っ越す前、引越し中、引越し後に様々なサービスを利用できるが、サービスへの参加は居住の要件ではない。また、子どもがいる世帯に対しては、住居だけではなく、適切なサービスとモニタリングを提供するため、自宅訪問・外来治療・地域につなぐことが行われる。 同様の試みは1992年ニューヨークでも開始された。ニューヨーク大学医学部精神科教授Sam Tsemberis博士はPathways to Housingを設立した。この団体は慢性的に住まいがない人を支援対象としており、「住まいを持つことは基本的な人権である。アルコールやその他の物質を乱用していたとしてもこの権利は否定されるものではない」という考えを持っているため、物質乱用を断っていること、また、断つ努力をすることを住居提供の交換条件にしなかった。 ハウジングファーストは、ホームレスを経験している個人や家族のために、できるだけ早く恒久的で手頃な価格の住宅を提供し、その上で地域をベースとした生活支援サービスと社会的つながりを提供することで、彼らが居住状態を維持し、路上への後戻りを避けることを手助けする。例えば、アメリカ合衆国住宅都市開発省(HUD:United States Department of Housing and Urban Development)が後援しているハウジングファーストプログラムでは、ただ住宅を提供するだけではなく、利用者に包括的なケースマネジメントサービスも提供する。ケースマネジメントによって、ホームレスだった利用者は安定した住まい方ができるようになり、自己決定と自助の力が促進される。このハウジングファーストプログラムを通じて提供される住居は、恒久的で手頃なものであり、利用者は収入の30%を家賃として払うことになる。 ハウジングファーストは、Pathways to Housingが前例となったように、障害や依存症のある人も対象とし、2つのHUDプログラムによってサポートされている。支援付き住宅プログラムとShelter Plus Care Programである。Pathwaysのハウジングファーストモデルは、米国薬物乱用精神衛生管理庁によってエビデンスに基づく実践として認められている。 ハウジングファーストプログラムは、地域散在型または集合住宅型で実施される。地域散在型ハウジングファーストプログラムでは、居住者は地域の中であちらこちらにある住宅を割り当てられる。このモデルでは、1つの場所に参加者を集めて住まわせるのではなく、広い地域の中で居住者を取りまとめることになる。集合住宅型のハウジングファーストプログラムでは、居住者は一つの建物、敷地内において個室が割り当てられる。このモデルでは、多数あるいは全ての参加者を1つの場所に集める。地域散在型と集合住宅型のハウジングファーストプログラムの両方で、居住者は様々な医療福祉サービスやリハビリテーションを受ける選択肢を持つ(強制ではない)。 まとめると、ハウジングファーストの原則は以下のようになる。 居住者は、治療受入れや治療コンプライアンスを前提とすることなしに、路上やシェルターからすぐさま住宅に入居する。 住宅の提供者は、ロバストな支援サービスを居住者にもたらす義務がある。これらのサービスは、強要ではない、アサーティブな関与を前提とする。 借家の継続は支援サービスへの参加に左右されてはならない。 本アプローチの対象は、当該地域において、様々な障害を持ち様々な意味で脆弱なホームレス状態にある人である。 依存症に対してはハームリダクションアプローチを採用し、完全な節制を義務とはしない。そして同時に、住宅提供者は、居住者のリカバリーをサポートしなければならない。 居住者が法律の下で賃借の保護を得られるようにする。 このアプローチでの住宅提供は、集合住宅型で行うことも地域散在型で行うこともできる。 ハウジングファーストは慢性的にホームレス状態にある人をなくすための「ベストプラクティス」として、ホームレスに関する米国閣僚理事会(USICH: United States Interagency Council on Homelessness)によって支持されており、米国内の様々な都市で実施されている。USICHはハウジングファーストを「慢性的なホームレス状態をなくす10年計画」の重要な要素であると強調している。
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