タックス・ヘイヴン研究
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「ガブリエル・ズックマン」の記事における「タックス・ヘイヴン研究」の解説
著書『失われた国家の富』(2013年)ではタックス・ヘイヴンをテーマとして話題を呼び、各国で翻訳された。この本の書名(La richesse cachée des nations、英語ではThe Hidden Wealth of Nations)は、アダム・スミスの『国富論(フランス語はLa richesse des nations、英語はThe Wealth of Nations)』を思わせるようになっている。ズックマンはエマニュエル・サエズとの共著『つくられた格差』でもタックス・ヘイヴンと多国籍企業について指摘した。 『失われた国家の富』と『つくられた格差』において、タックス・ヘイヴンは以下のように論じられている。 タックス・ヘイヴンの問題点 脱税の横行:推算によれば、2013年時点の世界では家計の金融資産の8%がタックス・ヘイヴンにあり、EU圏では12%になる。タックス・ヘイヴンでは超富裕層のためのプライベート・バンキングが行われており、スイスに保管された資産は3分の1に相当し、3分の2はシンガポール、香港、バハマ、ケイマン諸島、ルクセンブルク、ジャージー島などである。 公的債務の増大:タックス・ヘイヴンによって税収の減少が続くと国家の債務が増え、債務が増えると国債の利回りも増える。こうして国家の公的債務が増え続け、フランスでは5000億ユーロ近くの余分な公的債務が生じた。 外部不経済:タックス・ヘイヴンによって世界規模で被害が生じており、これは温室効果ガスと同様に外部不経済の問題でもある。環境規制のない状況で公害を排出する企業が有利なように、オフショアの銀行は秘密業務によって有利になっている。 不安定な産業構造:大規模なタックス・ヘイヴンはオフショア金融センターと不可分の関係にあり、特権を維持できる。他方、金融業に依存しているために金融危機や破綻に脆弱であり、問題が起きれば莫大な救済費用がかかり関係国にも波及する。 国家主権の商品化:タックス・ヘイヴンは課税統治権を放棄して超富裕層や多国籍企業を引き寄せる。これは国家主権の商品化ともいえる。 不平等の拡大:オフショア金融に関わる人々と、そうでない製造業、建設業、運輸業などに関わる人々との格差が拡大する。所得格差によって若い世代の教育や就職にも格差ができる。 タックス・ヘイヴンへの対策 資産の把握。世界規模の金融資産台帳を作成し、金融証券の持ち主を明らかにして資産の課税を可能にする。そのためには各国間での自動的な租税情報交換が必要であり、国際通貨基金(IMF)には金融資産台帳を作成する技術がある。 国際的な連携による圧力。タックス・ヘイヴンに対して、関税や金融取引の制限などの圧力を行使する。タックス・ヘイヴンのある国家は概して政治的には小国である。世界貿易機関(WTO)は無制限の自由貿易を理想としているが、損害に相当する報復を行うことは可能である。タックス・ヘイヴンが他国に与える負の外部性を示し、非協力的なタックス・ヘイヴンとの取り引きには課税などの手段も講じる。 税制度の改革。資本所得への課税と、法人税の改革。世界的な累進課税によって資産に課税し、社会的格差を是正する。多国籍企業が会計操作によって租税回避をしないように、国ごとではなく全体の利益に対して課税する。 『失われた国家の富』において使った図表等は、公式サイトで公開された。 『失われた国家の富』出版後の2016年にパナマ文書、2017年にはパラダイス文書が公開され、タックス・ヘイヴンの存在を多くの人が知ることになった。ズックマンはコペンハーゲン大学のThomas R. Tørsløv、Ludvig S. Wierとの共著論文「THE MISSING PROFITS OF NATIONS」(2018年)を発表し、多国籍企業とタックス・ヘイヴンの関係について分析した。それによれば、世界の多国籍企業の国外利益の40%がタックス・ヘイヴンで計上されている。
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