スタッフの疲弊
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/14 02:29 UTC 版)
「Anthem (ゲーム)」の記事における「スタッフの疲弊」の解説
開発の最終年は、バイオウェアのスタッフにとって最もストレスの多い年となった。失った時間を取り戻すように、深夜や週末にも仕事をしなければならなかった。モントリオールやMotiveのような外部スタジオの開発者を含め、パブリッシャー全体からチームを集めてゲームを制作していた。『The Division 2』が発売され、『Destiny 2』や『Warframe』といった競合のルートシューターも改善を続けており、様々な方面からプレッシャーがかかっていた。もうカットされる部分が出るのも仕方なく、アイディアを練ったり面白さを見つける時間もなかった。後に問題視されるロードの長さも、開発時にすでに分かっていたが余裕がなく対処できなかった。 ビデオゲームの開発は、発売間近になると過酷な労働状態になることが珍しくない。『The Last of Us』などの歴史的名作と言える作品も、そういう状態から生まれている。だが、『Anthem』はどこかが違っていた。『ME:A』でフェイスアニメーションがネタにされたことへの反動から、『Anthem』ではキャプチャーに力を入れたが、それには非常にコストがかかった。作品の内容が変化し続けている中で意味をなさなくなったシーンもあったのだが、完全にやり直すことはできなかった。作中の台詞などに明らかに不整合なものがあるのはそれが原因である。ゲームの全体を把握することもできない中では、バランス調整なども困難で、サーバの問題で何もできない週もあったという。オンラインのゲームなのに、ログインできないのでオフラインでテストをするという妙なこともあったという。発売の数ヶ月前には、自分の装備を見せる場所が無い事に気づき、EAのMotiveスタジオに依頼して、急遽ローンチベイを作ってもらった。 バイオウェアの経営陣は割と楽観的だったが、最後の数カ月間は改善点が指数関数的に増えていたという。精神衛生上の理由で数週間~数ヶ月休むことを指す「ストレス休暇」というものがあるが、ある元開発者によれば、「『ME:A』の開発が終わるまでそういうのは聞いたことがなく、『Anthem』の開発ではそういう慣習はさらに悪化していた」という。そういう状況は2017年から2018年にかけて大量の退職者を生み、その中には長年勤めて高い能力を持つものも多かった。バイオウェアの中では鬱と不安が蔓延し、いつも怒ったり泣いている者がいた。ある開発者によれば、社内の「ストレス犠牲者(stress casualties)」の数は数え切れないという。これは、ストレスで精神的に参った人が1~3ヶ月いなくなる事を指し、戻ってくる者もいたが、戻らなかった者もいた。 『Anthem』への参加を公表されていたドリュー・カーピシンは2018年3月にバイオウェアを去ったが、彼は後に「バイオウェアで仕事を始めた頃は、全てが新鮮でエキサイティングだった。しかし成功して成長するうち、創造性や情熱ではなく市場調査に基づいてゲームを作るようになった。夢はただの仕事になり、かつてのような興奮や情熱は失われてしまった」と語っている。アーリン・フリンは、テクノロジー企業Improbableのジェネラルマネージャーとなったが、バイオウェアに長く努めた10人以上のスタッフも、彼を追って同社に移っている。 バイオウェアの上層部がここまで楽観的だった理由の一つとして、「バイオウェア・マジック(BioWare Magic)」という言葉があるとされる。これは、「開発時にいくら難航していても、最後にはうまくまとまる」といったもので、『ME』三部作や、『Dragon Age: Origins』、『DA:I』でもそうだった。バイオウェアで働く人の多くが、優柔不断や技術的問題に加え、過酷な追い込みの末完成された『DA:I』の成功は、「自分たちにとって最悪の出来事」と口にしている。「このようなやり方が正しくないと解らせるためには、いっそ『DA:I』は失敗しているべきだった」とまで語っている。。 ダラーの下で開発には勢いがあったが、最終的には時間が足りなかった。モックレビュー(外部コンサルタントによる評価)によれば、『Anthem』のMetacriticスコアは70点台後半になると予測され、これはバイオウェアのソフトにしては低めだったが、最後の数ヶ月で磨きをかけることで更に上げられる可能性があると思っていた。ライブサービスを何年も続けていき、徐々に修正していくつもりでもあったらしい。しかし、これらの予測はかなり楽観的なものだったと後に分かることになる。
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