シャルク改訂版
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「交響曲第5番 (ブルックナー)」の記事における「シャルク改訂版」の解説
初演者のフランツ・シャルクは、初演時にブルックナーのスコアに大幅な改訂を施している。第3楽章や第4楽章を大きくカットし、第4楽章には別働隊の金管やシンバル、トライアングルを補強している。さらに目立つのはオーケストレーションの変更である。シャルクの改訂は、長大かつ難解なこの交響曲を普及させるためという「好意的」な目的であったと評価されることが多い。しかしながら改訂内容自体は、原典版の管弦楽法とはいささか異なり構造上の相違点も挙げられる。ブルックナーの生前に出版された諸楽曲(ほとんど弟子による校訂・改訂が加わっているとされる)に比べると、改訂の度合いが極端であり、「無残な改作」と悪評されることもある。 ブルックナーはこの初演を病気のために欠席している。この欠席に対しては、シャルクの改訂に対する抗議の気持ちが込められていたとの臆説もある。ブルックナーは生涯でこの曲を(原典版にせよ改訂版にせよ)実際に耳にすることはなかった。 シャルクによる改訂版は1896年(ブルックナーの死の年)に出版され、ハース校訂による第一次全集(ハース版)が出版されるまではほとんど唯一のスコアとして演奏されていた。録音ではハンス・クナッパーツブッシュが指揮したものが有名である。ハース版出版後も1950年代までは、アメリカを中心に、このシャルク版が演奏されていたが、1970年代以降はほとんど使われなくなった。 近年になって、弟子たちがブルックナーのスコアに施した改訂を再評価する動きがでてきている。この交響曲第5番のシャルク改訂版についても同様で、シャルク改訂版を採用した新規録音としては以下のものがある。 野口剛夫指揮、東京フルトヴェングラー研究会管弦楽団、SEELENKLANG SEK-1(Oto to Kotoba Edition)、1996年録音。 レオン・ボットスタイン指揮、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、Telarc CD80509、1998年録音。 林憲政(イム・ホンジョン)(朝鮮語版)指揮、韓国交響楽団(朝鮮語版)、Universal Korea DD41143、2016年録音。 ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー指揮、読売日本交響楽団、Altus ALT-411、2017年録音。 ブルックナー研究者のベンジャミン・コーストヴェット(フランス語版)は、上記ボットスタインのCDのリーフレットに、次のような考察を寄せている。 ハースによる原典版が出版された際、初版群を「ブルックナーの意図に反する改ざん」と評する宣伝が広く行われた。これには、当時の政治的な背景があったので、今となっては見直しが必要である。実際、第4交響曲の第3稿は、資料の再吟味により、ブルックナーが正当性を与えていたと判断される。 この第5交響曲については、ブルックナーが正当性を与えたとの判断は難しい。とはいえ、資料の再吟味で、以下の事実が明らかになった。シャルクがこの曲の編曲に着手した際、ブルックナーはシャルクにスコアを提供した。作曲者は編曲譜の完成を待っていたが、完成が遅かった。シャルクの弟に、編曲作業の遅さを心配する手紙を寄せたこともあった。編曲譜が完成した時は作曲者の病気が重く、初演に立ち会えなかった。第2楽章終結部の木管の旋律の変更はブルックナーのアイデアである。終楽章の金管楽器増強については、ブルックナーが承諾したアイデアである。 シャルクは後年、この編曲について「ブルックナーが正当性を与えたもの」と語った。もっとも、このシャルク発言に対しては、研究者の間でも評価が分かれる。
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