どんと祭とは? わかりやすく解説

どんと祭

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/01/24 07:54 UTC 版)

竹駒神社のどんと祭

どんと祭(どんとさい)は、宮城県を中心に呼ばれる祭りの呼称である[1]。他地域で左義長やドント焼きなどと呼ばれる祭りに類似する[1]

概要

神社境内などで正月飾りを焼き、御神火にあたることで一年の無病息災・家内安全を祈願する。特に宮城県内各地の神社で盛んに行われており、仙台市大崎八幡宮の「松焚祭」(まつたきまつり)が宮城県最大規模である。

いつ始まったのかは不明であるが、1849年嘉永2年)には恒例行事となっていた[1]。正月飾りを焼く行事は1880年ごろまでは大崎八幡宮特有の行事であった[1]

「どんと祭」という呼称は、地元新聞社である河北新報が1906年1月14日の記事において、「九州で行われる類似の行事ではドンドととなえている」「大崎八幡宮の総本社である宇佐八幡宮は大分県にあるため、九州の風習が入ってきた」という根拠無い記事を載せたことや、松焚祭の観光化が進んでいたことから、地元が記事に便乗したことで定着したとされる[1]。仙台市以外の神社に広まったのは高度経済成長期以降であるという[1]

宮城県の多くの地域では小正月の前日の1月14日夕方から行われるが、岩手県盛岡八幡宮では1月15日に行われ、福島県西根神社では「うそかえ祭」と一緒になって数日間開催される。また、宮城県石巻市では1月7日に行われる[2]。石巻の場合は、新生活運動により1970年代に前倒しが定着したものとされる[2]松の内門松を飾っている期間)が終わると漁が始まるため、石巻漁港(1973年(昭和48年)に特定第三種漁港に指定)を擁する同市では、新生活運動が謳う「合理的民主的な生活慣習の確立」に従って松の内を県内他地域より短縮した。

参拝者の一部は裸参りを実施している。宮城県内各地の裸参りは大崎八幡宮における裸参りとおおむね同様の装束・方式で実施しているが、同県登米市迫町津島神社の「佐沼どんと祭裸参り」では提灯ではなく松明を持って参拝し[3]、同県角田市の「かくだどんと祭り裸参り」では鳥追い棒を持って『ヤー、ホイホイホイ』の掛け声とともに町中を練り歩き[4]、盛岡八幡宮では紙のハサミを持って特徴的な振りをしながら行進する[5]など、地域によって一部違いがある。

神社で行われるのが一般的だが、神仏混淆の中山鳥瀧不動尊[6]、あるいは、定義如来仙台大観音などの寺でも行われており、白山神社別当寺の立場にある陸奥国分寺では裸参りも実施される。また、岩手県奥州市江刺区では大通り公園で[7]釜石市大渡では甲子川河川敷で[8]開催するなど、神社・寺以外での開催例もある。さらに、宮城県登米市では石越総合運動公園で「石越どんと祭冬の花火大会」が実施されており[3]、イベント性が高い。

主などんと祭の人出(宮城県)
神社 所在地 どんと祭参拝客数
(万人)
初詣参拝客数)
(万人)
大崎八幡宮 仙台市青葉区 10.0 9.3
竹駒神社 岩沼市 8.0 39.1
仙台東照宮 仙台市青葉区 6.0 7.9
賀茂神社 仙台市泉区 3.0
鹽竈神社 塩竈市 2.0 41.0
愛宕神社 仙台市太白区 0.5
宮城縣護國神社 仙台市青葉区 6.7
  • 参考として、初詣の参拝客数(正月三ヶ日の合計)も付記。
  • 数値はいずれも2006年(平成18年)のもの。宮城県警調べ。

松焚祭

松焚祭の日の大崎八幡宮

仙台市都心部北側の北山丘陵西部にある大崎八幡宮で行われる年中行事で、300年の歴史があるとされ[1]2005年平成17年)に仙台市の無形民俗文化財に指定された[9]。市内各地から当社を目指して歩く、裸参りが特に有名である。

例年約10万人の人出で賑わい、神社前の国道48号と接続道路は交通規制がなされ、バスやタクシー以外の進入が出来なくなる。また、市内各地から、参拝用のバスの特別運行がなされる(仙台市電があった頃は市電の特別運行もあった)。

以前は20万人程度の人出があったとされるが、仙台都市圏の拡大や郊外居住者の増大により、人ごみを嫌った参拝客が他の最寄の神社のどんと祭に流れるようになったこと、また、成人の日1月15日ではなくなった(ハッピーマンデー制度導入で、その年の1月8日から14日までのうち月曜日に該当する日に変更された)ことにより、その前夜のお祭りの意味もあったどんと祭に参拝しづらくなったことなどが原因となり、大崎八幡宮への参拝客は減ってきた。

裸参り

御神火にあたる裸参りの参加者

仙台藩内に来て日本酒醸造をしていた南部杜氏が、醸造安全・吟醸祈願のために参拝したのが始まりとされる。

鉢巻・白さらしを巻き、白足袋わらじの装束に身を包み、氷水で水垢離をした後、神に息かけないためとして「含み紙」と呼ばれる紙を口にくわえたまま、右手にはを、左手に提灯を持って徒歩で参拝し、御神火を渡り、火にあたる。

低温の中での裸参りは健康を害する可能性があるため、参加団体では裸参り前に健康診断を行う例も見られる。また、女性は1枚羽織ることが許されている。暖かい国から来た外国人留学生の場合も、服装の規定はゆるい。

例年100団体前後(計2500人程度)が参加しており、地元企業の有志などが団体で100前後参加する[10]。そのため当日の夕方頃になると一番町中央通りなどの中心部商店街を歩いている裸参りの列を多数目撃する。

本来は松焚の後に行うものだが、現代では裸参りで神社に向かい正月飾りを焼くことが多い[1]

類似する祭り

道祖神祭り

長野県・山梨県では「道祖神祭り」という名で行われている。特に、長野県野沢温泉村では、国の重要無形民俗文化財に認定されている。道祖神とは、外から襲う悪霊を村里の入口で防ぐ、境の神・道の神を指しており、道祖神祭りはこの道祖神に対する全国的な民間信仰から誕生した[11]。道祖神信仰は人形とも密接に関わっている[12]。道祖神に奉納されたり、道祖神そのものに相当すると考えられたりする。道祖神は、別名「塞の神(さいのかみ、さへのかみ)」とも呼ばれ、富山県入善町をはじめとする一部地域では、「塞の神まつり」が行われる[13]。塞の神とは、『古事記』に登場する日本古来の神様である[14]

お焚き上げ

主に神社や寺院で行われる、札やお守り、人形などを焼く儀式。燃やして処分するという点は共通しているが、その意味合いは神道と仏教で解釈が異なる。魂や想いがこもっているものを、神道では"火の神様の力を借りて天へ還す"行為、仏教では"故人へ届ける"行為として認識される。個人で行われることもあり、自治体における野外焼却の禁止の例外に位置する場合が多い[15]

鬼火焚き

鬼火焚きは、1月7日に主に南九州や筑後地方で、無病息災を祈って正月飾りなどを燃やす行事である。鹿児島県では朝に行われるところと夕方に行われるところがあるが、朝に行われるのは薩摩半島西岸部など少数である。九州地方では正月の6日または7日に鬼が来る、鬼夜と呼ばれる信仰がある。そのため、1月7日の鬼火焚きの際に同時に「鬼やらい」も行われる。竹の先を焼いて破裂音を出しながら割り、ぼんぼり状に結んだものをつくり、これを鬼などの魔除けとして「鬼の目威し」と称することもある。一方で2月3日の節分での行事はあまり存在しない。福岡県の大善寺玉垂宮の鬼夜や、同県の太宰府天満宮の鬼燻べ、唐津市のオンジャ・オンジャは鬼火焚きと繋がる祭礼と言われている[16]

ほうげんきょう

昔から筑後地方で行われている伝統行事。家ごとに飾られた門松、しめ縄は正月に降臨した年神の依代とされており、大正月が開ける7日にこれを燃やすことが神送りである。また、同時に小正月入りの神迎えと見る民俗学説もある。昭和30年前後までは各地で賑やかに開催されていたが、都市化の中で衰えている。また、筑前古歌にはほうげんきょうの歌も存在する[17](「ほんげんきょう ほんげんきょう 泣くもんな口焼こう 泣かんもんな尻焼こう アカギレ焼こう ヒビ焼こう」)。

さいと焼き

左義長の別名であり、東日本でこの名称が用いられ、道祖神祭と結合した例が多く、鳥追行事と結合した例もある。「さいと」とは、修験の行う火祭りの「柴灯(さいとう)」から出た言葉か、もしくは「塞の神(さいのかみ)」、つまり道祖神を祭った場所という意味だと考えられる。古い正月飾りなどを集め、藁などで円錐状に囲って燃やすのが一般的であり、燃え盛る火に向かい「やははえろ」と大声で叫んで、煙にあたることでその箇所の健康を願ったり、無病息災、五穀豊穣を願う地域もある。「やははえろ」には「弥(いや)栄えろ」(いよいよ栄えろ)や「家(や)は栄えろ」といった意味が込められているといわれている。また、この火で団子を焼いて食べると風邪をひかない、燃やした書き初めが高く舞い上がると腕が上がる、などと言い伝えられている地域もある[18]

脚注

  1. ^ a b c d e f g h 仙台発「どんと祭」発展の歴史とは 呼び名は新聞記事がきっかけ”. 河北新報オンラインニュース (2022年1月12日). 2022年1月15日閲覧。
  2. ^ a b 炎に祈る無病息災 Archived 2016年3月5日, at the Wayback Machine.(三陸河北新報社 2006年1月8日)
  3. ^ a b 冬のイベント(登米市)
  4. ^ 商工会イベント情報 Archived 2016年3月4日, at the Wayback Machine.(角田市商工会)
  5. ^ 盛岡の裸参り Archived 2010年3月4日, at the Wayback Machine.(岩手県)
  6. ^ 中山鳥瀧不動尊(財団法人みやぎ・環境とくらし・ネットワーク、仙台市「杜の都の市民環境教育・学習推進会議事業」)
  7. ^ “どんと祭: 1年の息災願う”. 奥州 / 岩手: 毎日新聞. (2013年1月14日). http://mainichi.jp/area/iwate/news/20130114ddlk03040032000c.html [リンク切れ]
  8. ^ “復興の願い天まで上れ 2年ぶり「どんと祭」”. 釜石・大渡: 河北新報. (2013年1月8日). http://www.kahoku.co.jp/news/2013/01/20130108t35017.htm [リンク切れ]
  9. ^ 文化財せんだい No.81 Archived 2007年8月8日, at the Wayback Machine.(仙台市)
  10. ^ “寒さこらえ幸せ願う 大崎八幡宮・裸参り”. 河北新報. https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/202001/20200115_13020.html 
  11. ^ 野沢温泉マウンテンリゾート観光局HP(閲覧2025/01/17)https://www.nozawakanko.jp/record/dosojin/
  12. ^ 神野善治(1996)「人形道祖神ー境界神の原像」白水社
  13. ^ 入善町HP(閲覧2025/01/17)https://www.town.nyuzen.toyama.jp/gyosei/soshiki/kyoiku_iinkai/2/4/3/2/1347.html
  14. ^ 國學院大學ー「古典文化学」事業HP(閲覧2025/01/17)https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/shinmei/fusagarimasuyomotsutonookami/
  15. ^ https://www.hasegawa.jp/blogs/kuyou/otakiage-meaning
  16. ^ 所崎平(2006)「鹿児島県の伝承事例」星野紘・芳賀日出男監修『日本の祭り文化事典』東京書籍株式会社, pp. 834‐835、永栄敦(2009)「鬼の目刺し・鬼火焚き」小島美子・鈴木正崇・三隅治雄・宮家準・宮田登・和崎春日監修『祭・芸能・行事大辞典 上』朝倉書店, pp. 332‐333、https://hantoubunka.site.kagoshima.jp/pic/0102onibitaki.htmlhttps://yakushima-time.com/5363/
  17. ^ 筑紫野市教育委員会(1995)『ちくしの散歩「ほうげんきょう」と追儺』https://www.city.chikushino.fukuoka.jp/uploaded/attachment/2285.pdf
  18. ^ 鈴木棠三『日本年中行事辞典』角川書店、1977年  223頁、西角井正慶『年中行事辞典』東京堂出版、1958年 324-325頁、http://aipal-kawanishi.jp/post/info/https://shibuma.exblog.jp/6984150/https://www.town.oiso.kanagawa.jp/isotabi/meguru/pagedate/14419.html

関連項目

外部リンク


どんと祭

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左義長」の記事における「どんと祭」の解説

宮城県およびその近辺。約10万人が訪れ大崎八幡宮松焚祭仙台市指定無形民俗文化財)を起源とする。1月14日夜に正月飾り焼き、その火にあたると病気をせず健康で暮らせといわれる石巻市周辺では新生活運動により1970年代前倒し定着し1月7日行われる松川だるま新たに買い換えて、古いそれをどんと祭で燃やす習慣があるが、松川だるま流通量減少したのでだるまを燃やす習慣持たない参拝者も多い。神火で餅を焼くということはなく、子供祭りともされない。また、特に書初めを焼くということもない。寺社のみならず町内会などでも実施されてきたが、場所の確保等の問題年々少なくなりつつはある。大崎八幡宮初め一部のどんと祭では「裸参りが行われる。

※この「どんと祭」の解説は、「左義長」の解説の一部です。
「どんと祭」を含む「左義長」の記事については、「左義長」の概要を参照ください。

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