たばこ・ニコチン依存
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/09 07:52 UTC 版)
「ハーム・リダクション」の記事における「たばこ・ニコチン依存」の解説
2003年5月21日には、WHO第56回総会において「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」が全会一致で採択された。この条約はたばこ消費の削減に向けて、広告・販売への規制や密輸対策を求める、公衆衛生分野として初の国際条約である。これはたばこのハーム・リダクションを促すための直接的な条約ではないものの、加盟国がこの条約を遵守するには、たばこのハーム・リダクション・アプローチが必要とされる。 たばこ摂取およびニコチン依存へのハーム・リダクションは、健康被害を低減させることを目的として、受動喫煙による健康被害の低減を目的とした禁煙政策も含まれる。喫煙者が禁煙への第一ステップとして、喫煙量の削減と同時にニコチン置換療法を使用するといった個別のアプローチ、できるだけ害の少ないニコチンを入手しやすくするアプローチ、包括的なニコチン規制によりニコチン送達製品すべてをその有害性に応じて規制するといった社会的レベルのアプローチに至るまで、数多くのさまざまなハームリダクションアプローチが提案されている。 たばこやニコチンを使用し続ける人々がいるであろうことが認識されており、その根底にはニコチン依存症が存在する一方で、たばこに含まれる他の有害物質(発がん性物質を含む)もまた健康被害を引き起こすことが知られている。健康被害のスペクトル上でさまざまなニコチン送達製品があるが、現在国際的に最も広く用いられる送達方法である紙巻きたばこは、最も危険なニコチンの送達方法の一つである。ニコチンガムやニコチンパッチを利用したニコチン置換療法は、それに比較して害の少ないものとされる。 喫煙を続ける成人が世界で10億人と推定される中、たばこのハームリダクションは、欧米の公衆衛生・規制当局などが喫煙開始の予防や禁煙促進を補完する政策として提唱している。これに対し、たばこの健康被害を肯定する科学的根拠がないこと、リスクを低減させる科学的に実証されたデータが乏しいことにより、日本では欧米と比べて、たばこの害に対するハーム・リダクションの導入については消極的であり、日本の公衆衛生・規制当局の判断は依然として厳しい。 フィリップモリスジャパンは自社製品の「IQOS」について、毒性試験や臨床試験を含め、喫煙関連疾患発症リスクの低減を実証する科学的研究とこれまでの結果を公表した。しかしこれは自社製品の宣伝普及活動ともみなされ、実際に「IQOS」の9割以上が日本で販売されていた。これに対し日本呼吸器学会や日本禁煙学会は、フィリップモリスや日本たばこ産業 (JT) などのたばこ会社が主張するような「電子たばこや加熱式たばこが従来の紙巻きたばこに比べて相対的に安全性が高い」という主張には科学的根拠がないとして反論している。 詳細は「ニコチン依存」および「加熱式たばこ」を参照 日本において禁煙外来に通院する患者のうち、禁煙を継続できているのは3割程度である。何度も喫煙を再開してしまうニコチン依存症の患者に対しては、日本の医学界ではあくまで禁煙を推奨すべきとの考えが強く、たばこのハームリダクションに対しては消極的立場である。日本の医学界では禁煙補助剤としてニコチンパッチやニコチンガム、内服薬を推奨しており、たばこ業界が推進するハーム・リダクションとしての電子たばこ製品・加熱式たばこ製品は推奨されていない。 日本では近年、日本アルコール・アディクション医学会によりアルコールやたばこに関するハーム・リダクションについての意見交換会が行われているが、その中に世界的なたばこ企業が参加していることが判明した。同学会の第51回学術総会では、フィリップモリスジャパン及びフィリップモリスインターナショナルの担当者が、たばこのハーム・リダクションについての取り組みを説明し、消費者に喫煙関連疾病リスクの低い選択肢としての製品を提供することにより考えられる社会への影響について意見交換を行った。ハームリダクションの研究者の一人であるジョンズ・ホプキンス大学のジャック・E・ヘニングフィールドは、「電子たばこや加熱式たばこは、成人喫煙者の健康リスクを低減させ公衆衛生にも貢献しうる」「健康のためには禁煙することが一番だが、喫煙を続ける人がリスクの低いたばこ製品を代替品とすることは、ハームリダクションにおいて有用である」という見解を主張した。 日本の一般社団法人FAPRAでは、たばこのハーム・リダクションとして、使い捨て電子たばこの普及推進ボランティア活動を推進している。
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