『残酷の第1段階』
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/13 20:06 UTC 版)
原題は "First stage of cruelty"。第1枚目でホガースは作品の主人公である「トム・ネロ」(英: Tom Nero)を紹介するが、彼の名字は同名のローマ皇帝から取られたか、または "No hero"(英雄でない)の縮約と考えられている。作品の中央で目を引くように、彼は他の男子に手助けさせ、犬の肛門に矢を突き刺しているが、この虐待は明らかに、ジャック・カロの『聖アントニーの誘惑』"Temptation of St. Anthony" で見られる、罪人を罰する悪魔の絵に着想を得たものである。彼の薄い色で破れかけのコートには、型にイニシャル入りのバッジが付いており、そこから彼がセント・ジャイルズ(英語版)のチャリティ・スクール(英語版)に通っている学生だと読み取れる。ホガースは『ジン横丁』や "Four Times of the Day" (en) の『昼』 "Noon" など多くの作品で、背景に悪名高いスラム街であったセント・ジャイルズを描いている。犬の飼い主と考えられる心優しげな男子は、怯えた動物をいじめないようネロに懇願しているが、彼を宥めるため食べものすら差し出している。この子どもは幼いジョージ3世を描いたものと推測されている。彼の見た目は、作品を埋め尽くすその他のしかめ面で醜いいじめっ子と比べて、わざと好ましい見た目に描かれており、作品の下に書かれた文章でもそれが明確になっている。 While various Scenes of sportive Woe,The Infant Race employ,And tortur'd Victims bleeding shew,The Tyrant in the Boy. Behold! a Youth of gentler Heart,To spare the Creature's pain,O take, he cries—take all my Tart,But Tears and Tart are vain. Learn from this fair Example—YouWhom savage Sports delight,How Cruelty disgusts the view,While Pity charms the sight. はしゃぎ立てた悲痛な場面の間、競う幼子たちを従え、血を流した犠牲者を折檻する、男子たちの暴君よ。 見よ!優しき心を持った若者が、苦しむ生き物への容赦を乞うて、ああどうか、と涙を流し―このタルトを取るがいい、しかれど涙とタルトは一顧もされず。 この公平な一例から学べ—お前は残酷な娯楽が楽しいと言うのなら、むごたらしさがどんなに見た目を損なっているか、そして憐れみがどれほどの癒やしか。 その他描かれている子どもたちは、揃いも揃って野蛮な振る舞いをしている。階段のてっぺんにいる2人は、たいまつ持ち(英語版)のたいまつで熱した針で鳥の目を焼いているし、最前部にいる子どもたちは鶏投げ(国民的なフランス (Early modern France) への敵意の表出かもしれない)をしており、また犬には届かない尻尾の部分に骨を結びつけている子どももいる。奥では尻尾で吊る下げられた猫2匹が喧嘩をしているほか、左下の角では猫へ犬が襲いかかっている。また上部では浮き袋を2つ括り付けられた猫が、高い窓から放り投げられている。彼の運命を予言するように、トム・ネロの名前は、絞首台に吊された男の絵の下にチョークで落書きされているが、これにより画家がトムを主人公に据えていることが分かる。子どもたちをおとなしくさせるべき教区の警官がいないことは、ホガースの重要な非難のひとつである。彼はヘンリー・フィールディングの唱えた、犯罪率の上昇は、民生委員が自分の社会的地位と金銭的報酬にしか目が無く、貧困者を監督しきれていないからだという説に賛同していた。 下部に書かれたオーサーシップには、「W・ホガース作、議員立法により出版。1751年2月1日」(英: Designed by W. Hogarth, Published according to Act of Parliament. 1 Feb.. 1751)と書かれている。ここで言う議員立法とは1734年エングレーヴィング著作権法(英語版)を指すと考えられる。ホガースの初期の作品は多くが、彼の著作権やロイヤルティーが蔑ろにされたまま大量に再版されており、ホガースは自身の芸術的資産に敏感であった。このため彼は、議員の友人を通して、エングレーヴィング作者の権利を守る法律を通過させるよう後押ししていた。ホガースが後押ししたこの法案は、「ホガース法」(英: "Hogarth Act")として知られている。
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