『残酷の完成』
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/13 20:06 UTC 版)
原題は "Cruelty in perfection"。第3プレートに至るまでに、ネロは動物虐待を泥棒や殺人にまでエスカレートさせていた。妊娠した恋人のアン・ギル(英: Ann Gill)に、自分の女主人へ強盗し逃げてくるよう唆したネロは、彼に会いに来た彼女を殺してしまう。ふたりはこれまで共謀して泥棒を行っていたが、良心の呵責にさいなまれた彼女が足抜けを提案し、仲違いしたものとされている。殺人は格別残酷なもので、首、手首、人差し指はほとんど切り離されかけている。彼女の宝石箱やアンが盗んできた物品は彼女の脇に転がっており、切り離されかけた彼女の人差し指は、聖公会祈祷書とともに箱から落ちた一冊の本の、「神は殺人に復讐する」(英: "God's Revenge against Murder")という字句を指している。ネロのポケットを探る女性は、こちらに拳銃や沢山の懐中時計が入っていたことを明らかにし、彼が『勤勉と怠惰(英語版)』のトム・アイドルのように辻泥棒をしていた証拠を露わにする。また、アン・ギルからの手紙は次のように読める。 .mw-parser-output .templatequote{overflow:hidden;margin:1em 0;padding:0 40px}.mw-parser-output .templatequote .templatequotecite{line-height:1.5em;text-align:left;padding-left:1.6em;margin-top:0}Dear TommyMy mistress has been the best of women to me, and my conscience flies in my face as often as I think of wronging her; yet I am resolved to venture body and soul to do as you would have me, so do not fail to meet me as you said you would, for I will bring along with me all the things I can lay my hands on. So no more at present; but I remain yours till death. Ann Gill.(訳:愛しいトミーご主人様はわたしにとって最も素晴らしい女性で、彼女への背信を思う度、眼前にわたしの良心が浮かびます。しかしわたしはあなたが求める通り、自分の身体と魂を危険にさらす覚悟をしました。手に入れられる限りのものを持って向かいますから、自分で仰ったようにわたしに会うことを止めないでください。今のところこれだけです—それでもわたしは死ぬまであなたのものです。アン・ギル) この文章のスペリングは完璧であり、非現実的でこそあれ、ホガースは丁寧にこの場面がおどけたものになってしまうのを避けている。捨てられた封筒には、"To Thos Nero at Pinne..." と宛名が書かれている。ロナルド・ポールソン(英語版)は、『残酷の第2段階』での羊の死と、無抵抗の女性が殺された様子を同一視している。 下部に書かれた警句は、後悔もしていないネロに対し唖然とした様子を書き連ねている。 To lawless Love when once betray'd.Soon Crime to Crime succeeds:At length beguil'd to Theft, the Maid By her Beguiler bleeds. Yet learn, seducing Man! nor Night,With all its sable Cloud, can screen the guilty Deed from sight;Foul Murder cries aloud. The gaping Wounds and bloodstain'd steel,Now shock his trembling Soul:But Oh! what Pangs his Breast must feel,When Death his Knell shall toll. 1度裏切られたならば手に負えない愛よ。すぐ犯罪が犯罪に続いていく。長い間盗人にさせられ、メイドは詐欺師のせいで血を流す。 さあ学べ、唆し人!夜も、黒雲ですべて覆い尽くされたとしても、この罪業を目から隠すことはできない、汚い殺人者は大声をあげる。 ぱっくり開いた傷に血塗られた刀が、いま彼の震える魂に衝撃を与える。しかしおお!どんな苦しみが彼の胸に染みようか、死神がその凶兆を響き渡らせる時には。 作品内に書かれた様々なものが、観る者の恐怖の念を強める。殺人者は墓場にいるが、場所についてはセント・パンクラス(英語版)との説が有力視されているが、伝記作家のジョン・アイルランドは、メリルボーンに似ていると指摘している。画面にはフクロウとコウモリが1羽ずつ飛んでおり、月がこの悪事を照らしていて、散らばった時計は丑三つ時(英語版)の終わりを指し示している。構図はアンソニー・ヴァン・ダイクの『キリストの逮捕』 "The Arrest of Christ" に着想を得ている可能性が指摘されている。善きサマリア人はまたしても1人で、トムを非難する歯を剥いて唸るような人々の中に、1人だけ天を仰いで憐れみを示す人物がいる。 ベルが版木を彫った木版画では、トムが何も握らない手をこちらに見せている(エングレーヴィング版ではコートに隠れて見ることができない)。他にも手紙の文章に違いがある。またランタンや本など細かいアイテムは大きくなったり単純化されているが、トムの左にいる人物やトピアリーは完全に除去されてしまっている。またフクロウは時計塔に据えられた、翼の付いた砂時計に置き換えられている。
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