『優しい歌』(『ヌヌ ― 完璧なベビーシッター』)
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「レイラ・スリマニ」の記事における「『優しい歌』(『ヌヌ ― 完璧なベビーシッター』)」の解説
2016年に第二作『優しい歌』(邦題『ヌヌ ― 完璧なベビーシッター』)を発表。同年のゴンクール賞を受賞した。113人の受賞者のうち、女性では12人目である。世界44か国語に翻訳され(2019年3月時点)、邦訳も『ヌヌ ― 完璧なベビーシッター』として2018年3月に刊行された。家事・育児手伝いとして若い夫婦に雇用された女性が、面倒を見ていた二人の子どもを殺害するという衝撃的な事件を描いたこの作品は、2012年にニューヨークでプエルトリコ人のベビーシッター(ヌヌ)が子供たちを惨殺したという三面記事から発想を得たものである。スリマニは日本でのインタビューで、ヌヌまたはヌーヌー (nounou) は「ベビーシッター」とは「少し違い」、「乳母 (nourrice)」のことであるとし、フランスでは子どもを祖父母に預けることがあまりないうえに、保育園が狭くて受け入れる人数が限られているし、女性たちの労働時間が長いと保育園を利用するのも難しい、このような状況では、子どもの面倒を見てくれる「ヌヌ」に頼らざるを得ない、したがって「ヌヌがいないと働けず、自立もできなければ自由も得られないし、社会生活も営めない」と説明している。また、ヌヌはその社会的価値が評価されず、資格が必要ない仕事であるせいもあって、特に大都市のヌヌは大半が移民、特にマグレブ移民の女性で、低賃金で雇われているという。本書のヌヌは貧しい白人女性で、逆に雇用者の夫婦が移民である。スリマニはパリ10区に住むこの若い夫婦(弁護士の妻と音響アシスタントの夫)をボボ(ブルジョワ・ボヘミアン)として描いている。これもスリマニ自身の定義によると、「ヒッピー的な精神の持ち主で、中流階級で、パリの中心にある昔の大衆的な地域に住んでいて、オープンマインドで、環境問題に対して意識が高く、左派で」、社会問題に深い関心を持っているが、これはあくまで「理論や理想」であって、「実際には日常生活で貧しい人々や移民に接することはない」人々であり、彼女はこうしたボボの「社会的偽善」を表現したかったという。本書はこのように人種、性、階級、職業等における差別、家事労働の過小評価、保守派の台頭、移民政策、「女性による女性の搾取」など多くの問題を提起する作品である。 なお、「優しい歌」はアンリ・サルヴァドールの曲名でもあり、別名「狼、雌鹿と騎士さん」として知られる「フランスでは誰もが知っている子守唄」である。また、作品冒頭の「赤ん坊は死んだ」の一文は、「きょう、ママンが死んだ」で始まるカミュの『異邦人』を想起させるという指摘もある。スリマニが執筆の動機になったと言う、ヌヌと母親「ママン」との「曖昧な関係」を示唆するものである。 『優しい歌』は当初、マイウェン監督が映画化する意向を表明したが、「個人的にとても辛い時期」があって別の作品に取り組むことにしたとし、リュシー・ボルルトー(フランス語版)監督がこの企画を引き継いだ。映画は原題のまま『優しい歌』として2019年11月27日にフランスで封切られた。主演はカリン・ヴィアールである。一方、すでに演劇作品としてコメディ・フランセーズで2019年3月14日から4月28日まで上演されたが、『ル・モンド』紙は、舞台での上演は難しい作品であると評している。
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