『アンリ4世へのマリーの肖像画の贈呈』
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「マリー・ド・メディシスの生涯」の記事における「『アンリ4世へのマリーの肖像画の贈呈』」の解説
『マリー・ド・メディシスの生涯』は、個々の作品としても連作全体としても極めて高く評価され、価値ある芸術品だと見なされてきた理由として、歴史的要素も考慮の一つに入れる必要がある。この『アンリ4世へのマリーの肖像画の贈呈』は、絶対君主制の幕開けともいうべき時代に描かれた作品で、当時では王権はその肉体的存在を超越したものだとみなされていたことに留意する必要がある。そのため、マリーはこの世に生を受けて以来、死が運命づけられた余人よりも豪奢な生涯を送ることとなった。『アンリ4世へのマリーの肖像画の贈呈』に自身を意味する象徴物と共に描かれている古代の神々は、この作品の鑑賞者に対して絶対君主制の概念をこれ以上ない形で提示する機能を果たしているのである。 モーツァルトのオペラ『魔笛』に登場する王子タミーノのように、絵姿のマリーに一目惚れするアンリ4世が描かれている。愛の神キューピッドがアンリ4世に付き従い、結婚の神ヒュメナイオスが、マリーの絵姿を未来の夫でフランス王たるアンリ4世に紹介している。画面上部には雲に乗ってアンリ4世を見下ろすユピテルとユノが、二人の結婚生活が幸せに満ちるであろうことを鑑賞者に約束し、この結婚を祝福する様子が描かれている。アンリ4世の背後に立つ女性は、擬人化されたフランス王国の化身である。その左手は、将来のアンリ4世の王権に対する称賛を支持し、分かち合うことを示唆している。ルーベンスは『マリー・ド・メディシスの生涯』の各作品に、何度も擬人化したフランス王国を描いている。作品によって男性にも女性にも描かれるフランス王国だが、この『アンリ4世へのマリーの肖像画の贈呈』では男女両方の役割をもって描かれている。アンリ4世に対するフランス王国の親密な仕草は、アンリ4世とフランス国土が密接な関係を持っていることを意味している。一般的にこのような仕草は、秘密を共有する男性同士がする仕草である。まとうドレスからフランス王国は女性として描かれており、さらには襟元からはふくらんだ胸元が見える。しかしながらフランス王国の下半身、とくにふくらはぎと古代ローマ風の長靴からは男性らしい力強さが感じられる。絵画史において男性の力強さを表す意匠は、その立ち姿と力感あふれる脚だった。 マリーとアンリ4世の結婚交渉中に、多くの肖像画がやりとりされた。アンリ4世は肖像画に描かれたマリーの外貌を気に入り、マリー本人と直接顔を合わせたときには、肖像画に描かれた姿よりもさらに強い印象を受けた。この二人の婚姻は大きな好感をもって迎えられた。ローマ教皇や多くのフィレンツェの有力貴族たちからも支持され、この結婚が双方にとって利益をもたらすと考えられたのである。ルーベンスは人物像を緊密で一体なモチーフにまとめ上げて表現している。すべての人物が同等の重要度で描かれており、人物と空間とが極めて巧妙な手法で描き出されている。
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