「大ロマンの復活」シリーズの刊行
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「桃源社」の記事における「「大ロマンの復活」シリーズの刊行」の解説
1968年(昭和43年)8月、国枝史郎の『神州纐纈城』を刊行した。同作は1925年から1926年にかけて『苦楽』に連載されたが未完に終わっており、そのため、春陽堂書店の日本小説文庫から『神州纐纈城 前篇』として部分的に刊行されただけで、国枝史郎の代表作とされながら、それまで完全な形で刊行されたことはなかった。同書は小田富弥による初出時の挿絵を再録した上、真鍋元之の解説、尾崎秀樹の前宣伝を得て発売され、三島由紀夫から激賞を受けるなど好評を博した。 この『神州纐纈城』がきっかけで「怪奇幻想ブーム」が始まったとされているが、八木昇は「結果としてたまたまそうなっただけで、意識的にそういうことを狙って出したわけではありません」と語っている。 続いて同年12月、小栗虫太郎の『人外魔境』を、都筑道夫による解説をつけて刊行した。1939年から1941年にかけて『新青年』に掲載されたシリーズで、小栗の生前に単行本に再録されたことはあるが、一冊にまとめられたのはこれが初めてであった。八木昇によれば、小栗虫太郎作品の復刻は澁澤龍彦から薦められたもので、『神州纐纈城』の成績が良かったら出版するつもりでいたという。 翌1969年3月、三冊目となる国枝史郎『蔦葛木曽桟(つたかずらきそのかけはし)』を刊行。このあたりから、広告の謳い文句として「大ロマンの復活」を用い始める。もともとは「恐る恐る出してみて、好かったら続けようという程度」で、明確なシリーズとして発行していたわけではなく、シリーズ名もつけられていなかったが、次第に「大ロマンの復活」シリーズ、あるいは「大ロマン・シリーズ」と呼ばれるようになる。 シリーズ編集の基本理念は、「できるかぎりきちんとした形で出して、昔の探偵小説・大衆小説はこういうものだったんだよということを、いまの読者に分かってもらえたらいいだろう」というものだった。シリーズでは小栗虫太郎のほぼ全作品を刊行した(のちに再編集されて『小栗虫太郎全作品』となる)ほか、海野十三『深夜の市長』『地球要塞』『火星兵団』、久生十蘭『真説・鉄仮面』(初単行本化)、牧逸馬『世界怪奇実話』(初めてシリーズ全作品を収録)、野村胡堂『奇談クラブ』、蘭郁二郎『地底大陸』、香山滋『海鰻荘奇談』などを刊行した。上述のように「大ロマンの復活」は広告上の謳い文句にすぎないため、どこまでがシリーズに含まれるかは曖昧であるが、八木自身は、『神州纐纈城』から小栗虫太郎『成層圏魔城』(1971年7月刊)までの「函入りの二十何冊か」としている。また、並行して三六判カバー装の「日本ロマンシリーズ」も刊行されており、このシリーズからは白井喬二『怪建築十二段返し』(1970年)、野村胡堂『二万年前』(1970年)、押川春浪『海底軍艦』(1970年)、黒岩涙香『暗黒星』(1972年)、押川春浪『怪人鉄塔』(1972年)などが刊行された。 同時期に講談社から『江戸川乱歩全集』(第1次、1969年4月 - 1970年6月)、三一書房から『夢野久作全集』(1969年6月 - 1970年1月)・『久生十蘭全集』(1969年11月 - 1970年6月)などが立て続けに出版されたことも手伝い、それまで半ば忘れられた状況にあった、戦前の探偵小説・怪奇幻想小説の再評価を促すことになった。
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