譲位 譲位の主な理由

譲位

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/20 16:36 UTC 版)

譲位の主な理由

「帝室制度史 第3巻」より[26]

天皇の譲位に関する議論

明仁の譲位の経緯

(左)2019年(平成31年)4月30日を以て退位した明仁
(右)2019年(令和元年)5月1日に践祚・即位した今上天皇(徳仁)

天皇の譲位(退位)は現皇室典範においては規定がなく、想定がされていなかった。これに対し、2016年(平成28年)5月半ばから風岡典之宮内庁長官や河相周夫侍従長らの会合で検討はされていたが[27]、明仁は、2016年(平成28年)8月8日に「おことば」として叡慮を表明[17]し、内閣では、2016年(平成28年)10月17日より「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」を開催している[28][29]

2017年(平成29年)6月9日の参議院本会議で、天皇の退位等に関する皇室典範特例法(以下「退位特例法」)が可決・成立。退位時期は法案成立から3年以内に政令で定めることになった[30]。さらに同年12月1日に開かれた皇室会議において、天皇明仁の退位日が正式に決定し、退位特例法の施行日を定めた政令が公布された。そして退位特例法に基づき、2019年(平成31年)4月30日24時を以って明仁が退位したと同時に令和元年5月1日午前0時に皇太子徳仁親王が第126代天皇に即位し、憲政史上初めての譲位が実現された。なお譲位後の明仁は上皇となった。

譲位賛成・容認側の意見

  • 摂政は天皇の形式化を招きかねず、「象徴」としての役割を果たせない[31]
  • 天皇は皇居の奥に引き下がり、高齢化に伴う限界は摂政を置いて切り抜けようというのは、天皇が積み上げ、国民が支持する象徴像を否定することにつながりかねない[31]
  • 摂政制度はあくまで緊急時に起動するシステムである[31]
  • 摂政は「天皇の政務を奪った」という自責の念を感じてしまう[32]
  • 摂政を設置すると、国民から見て、「天皇とどちらが象徴か」という危惧が起きる[33]
  • 宇佐美毅宮内庁長官(当時)は、昭和39年(1964年)の国会答弁で「摂政の場合は、天皇の意思能力がむしろほとんどおありにならないような場合を想定している」と説明している[32]
  • 「象徴的行為」は、天皇に一身専属するもので、摂政には代行できない[34]
  • 公的行為の範囲が法的に定義されておらず、委任という考え方になじまない。

譲位反対・慎重側の意見

  • 次代の即位拒否と短時間での譲位を容認することになり、皇位の安定性を揺るがす[要出典]
  • 皇位継承(原則として終身制、高齢化に関わらず存命の限り在位し続けること)は法的義務。
  • 歴史上、皇位継承をめぐる争い(保元の乱など)など弊害が見られた[要出典]
  • 論理的に譲位を認めるならば相対的に不就位の自由も認めなければ首尾一貫しない[35]
  • 譲位は国家の制度の問題であり、叡慮に左右されるものではない[要出典]
  • 公的行為も象徴の務めになれば、それができない天皇は地位にとどまれないという能力主義が持ち込まれる[要出典]
  • 叡慮により政府が新しい譲位の制度を作ることは、憲法4条が禁止する天皇の政治的行為を容認することになる[要出典]
  • 天皇みずからが皇位を退きたい時に退くことができるという権限を与えることや、叡慮と関係なく譲位させる制度を作ることは憲法上問題がある[要出典]

譲位制度に関する議論

譲位(退位)を容認する場合の制度に対する議論も行われた。譲位を容認する上で、退位した天皇の称号、居所、生活費などの法整備を行う必要が生じた。

皇室典範改正側の意見

  • 恒久的な制度にすべき[要出典]
  • 年齢制限を設ける改正[要出典]
  • 特例法は憲法違反に近く、不適当な先例となる[要出典]
  • 特別法(特例法)設置は皇室典範の権威を損なう[要出典]
  • 高齢を理由とした執務不能の自体は今後も十分に起こり得るためその都度特例を設けるのは妥当ではない[36]
  • 憲法第2条は、皇位継承について「皇室典範」で定めよと指定している[37]
  • 皇位継承が政治利用される危険を回避するために、そのルールは一般法の形で明確に規定しておくべきであり、特定の皇位継承にしか適用されない特別法の制定は好ましくない[37]

特例法(特別措置法)制定側の意見

  • 退位を認める要件や恣意的な退位を防ぐ規定などを議論する必要があり、時間がかかる[要出典]
  • 現天皇の事を考え迅速な対応が必要[要出典]
  • 皇室典範改正を前提とした法律にする[要出典]
  • 皇室典範の一条項や附則として制定する[要出典]

脚注

注釈・出典


  1. ^ 「退位」と「譲位」の使い分けは? 天皇陛下めぐる報道
  2. ^ 産経「譲位」に用語変更 朝日も「生前退位」不使用 他社は表記の混乱も
  3. ^ a b c 『週刊ダイヤモンド 2016 9/17 第104巻36号』ダイヤモンド社 61ページ
  4. ^ 日本書紀』によれば最初の譲位は継体天皇(第26代)から安閑天皇(第27代)であるが、継体天皇は即日に崩御したとされるため、譲位例に数えない場合もある。
  5. ^ 最初の譲位をした皇極天皇は、譲位後に皇祖母尊(すめみおやのみこと)という特別な尊号が定められている
  6. ^ ただし、この時代には天皇の在位中の崩御は禁忌とされていたため、新天皇への譲位・践祚の儀式が終わった後に、旧主(上皇)としての葬儀が行われている(井原今朝男『中世の国家と天皇・儀礼』校倉書房〈歴史科学叢書〉、2012年、168頁。ISBN 9784751744307NCID BB11267692全国書誌番号:22265921 
  7. ^ 伊藤博文 著 『皇室典範義解』 第十条
  8. ^ 坂本一登 著 『伊藤博文と明治国家形成―「宮中」の制度化と立憲制の導入』:180頁(文庫版:248頁) 「しかし、伊藤井上毅の意見を無視し、君位を君主の個人的な意思に委ねないという見地から、天皇の譲位それ自体を明白に否定したのである。」 (大久保啓次郎. “明治国家形成期における井上毅の事績~福澤諭吉の時代から井上毅の時代へ~” (PDF). 2014年7月16日閲覧。
  9. ^ 「高輪会議」における『皇室典範再稿(柳原前光内案)』逐条審議、伊藤決裁[第十二条(譲位)、第十五条(太上天皇)] : 皇室典範、皇族令、草案談話要録 (秘書官伊東巳代治、明治20年3月20日) は、小林宏・島善高編著『明治皇室典範〔明治22年〕上 : 日本立法資料全集本巻 16』(1996年5月26日発行、信山社出版)、梧印文庫研究会編著『梧陰文庫影印−明治皇室典範制定本史-』(1986年8月1日発行、國學院大學)、国立国会図書館憲政資料室所蔵「憲政史編纂会収集文書」に所収。
  10. ^ 島善高五味均平旧蔵「日本帝国皇室典範」について」『早稲田社會科學研究』第43巻、早稲田大学社会科学部学会、1991年10月、383-405頁、ISSN 0286-1283NAID 120000792979 
  11. ^ a b 自発的退位(譲位)の問題については、 [兵藤守男「皇位の継承」『法政理論』第40巻第2号、新潟大学法学会、2007年12月、125-160頁、ISSN 02861577NAID 110009004834 ] が詳しい。日本国憲法下において、譲位を認めるべきであるという意見は、皇室典範制定当初から現在に至るまで、様々な観点や理由から出されている。制定審議の代表例としては、第91回帝国議会貴族院本会議(昭和21年12月16日)での南原繁による質問演説(2016年7月18日閲覧)が挙げられる。
  12. ^ 明治の元勲・伊藤博文はなぜ譲位容認案を一蹴したのか? 「本条削除すべし!」 明治天皇に燻る不満「朕は辞表は出されず」 産経ニュース
  13. ^ 皇室典範 第四條
  14. ^ 幣原復員庁総裁・国務大臣答弁[貴族院]、金森国務大臣(憲法担当)答弁[衆議院貴族院]、田中文部大臣答弁[貴族院]。皇室典範案会議録一覧 - 国立国会図書館、日本法令索引。
  15. ^ 皇室典範に規定する事項に関する試案(金森国務大臣) - 国立公文書館 デジタルアーカイブ
  16. ^ 林(修) 法制局長官答弁 「これは一言で申しまして、天皇には私なく、すべて公事であるという考え方も一部にあるわけであります。やはり公けの御地位でございますので、それを自発的な御意思でどうこうするということは、やはり非常に考うべきことである。そういうような結論から、皇室典範のときに、退位制は認めなかったのであるということを、当時の金森国務大臣(註.第91回帝国議会衆議院本会議/昭和21年12月5日)はるるとして述べておられます。この問題は、実は皇室典範の審議されたときの帝国議会においては、皇室典範の論議の半分ぐらいを占めております。」 衆議院会議録情報 第31回国会 内閣委員会 第5号 昭和34年2月6日”. 国立国会図書館「国会会議録検索システム」. 2016年7月16日閲覧。
  17. ^ a b 象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば(平成28年8月8日)
  18. ^ 以上、石村貞吉『有職故実(上)』1987年。
  19. ^ 歴史上の実例」 宮内庁。
  20. ^ 重祚して斉明天皇として再即位した際は崩御まで在位した。
  21. ^ 重祚して称徳天皇として再即位した際は崩御まで在位した。
  22. ^ 実際は廃位
  23. ^ 実際は廃位。
  24. ^ 実際は廃位。
  25. ^ 実際は廃位。
  26. ^ 読売新聞朝刊2016年8月9日特別面p12
  27. ^ 「5月から検討加速 宮内庁幹部ら5人」毎日新聞2016年7月14日 15時00分
  28. ^ 天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議
  29. ^ 読売新聞 2016年12月1日
  30. ^ 天皇退位の特例法が成立 200年ぶりの生前退位へ - BBC 2017年6月9日
  31. ^ a b c 「天皇」有識者会議 摂政論には無理がある 毎日新聞2016年11月21日 東京朝刊
  32. ^ a b 陛下はなぜ「摂政」を望まれないのか 過去64例、設置理由「幼少」が最多
  33. ^ 天皇陛下退位ヒアリング 2回目の議事録公表
  34. ^ 石川健治「人間七十年」『法学教室』2016年10月号巻頭言参照
  35. ^ 天皇の生前退位 反対論者に共通するのは政治混乱への危惧
  36. ^ 天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議最終報告 参考資料」23ページ。
  37. ^ a b 皇室典範どこまで変えるべきか - 木村草太(首都大学東京教授)






品詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「譲位」の関連用語

譲位のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



譲位のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの譲位 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS