90式戦車 90TK 愛称 キュウマル
諸元・性能 | |||
乗員 | 3人 | ||
全備重量 | 約50t | ||
全長 | 9.80m | ||
全幅 | 3.40m(スカート付) | ||
全高 | 2.30m(標準姿勢) | ||
登板能力 | tanθ約60% | ||
旋回性能 | 超信地 | ||
最高速度 | 70km/h | ||
エンジン | 空冷2サイクル10気筒 | ||
ディーゼル機関 | |||
1.500ps/2.400rpm | |||
武装 | 120mm滑腔砲 | 1 | |
12.7mm重機関銃M2 | 1 | ||
74式車載7.62mm機関銃 | 1 | ||
開発 | 防衛庁技術研究本部 | ||
製作 | 三菱重工業(砲塔・車体) | ||
日本製鋼所(120mm砲) | |||
備考 | |||
陸上自衛隊の第3世代戦車として、技術研究本部が昭和52年に開発に着手して10年余をかけ完成させた。62年9月に2次試作車2両を領収、63年12月まで技本の各研究所で技術試験を続けたあと、平成元年1月に別の2次試作車2両を領収して、東方・北方・西方管内で実用試験を行った。平成元年12月15日、防衛庁装備審議会議で正式に陸上自衛隊の次期主力戦車として採用が決定、2年8月6日に「90式戦車」として制式化された。 |
【90式戦車】(きゅうまるしきせんしゃ)
陸上自衛隊の現行の主力戦車のひとつ。
登場時点でやや時代遅れの感のあった74式戦車の後継として1977年に試作を開始、1990年8月に制式化された。
デビュー当初は、デザインが良く似ていたことから、海外の一部ではレオパルト2のコピーと思われていた。
車体、砲塔共に全溶接構造を取り入れ、複合装甲を車体前面及び砲塔前面に初採用。
試験で自身の発射した120mmAPFSDS数発を受けても問題なく稼動するなど、強固な防御力を示している。
また車体横にサイドスカートが装備されているなど、前2作の戦車に比べても大幅に生存性の向上が図られた。
近年の戦車砲の発達により、余り意味をなさなくなった避弾径始は、製造工程の簡略化という理由もあって殆ど考慮されていない。
主砲は西側戦車定番のラインメタル製44口径120mm滑腔砲Rh120(日本製鋼所のライセンス生産品)、副装備に12.7mm重機関銃M2、主砲同軸に74式車載機関銃を装備。
主砲はスタビライザー搭載で自動装填装置付き、発射速度は12発/分で大幅に射撃速度が向上、また装填手が不要となった。
火器管制装置はデジタル化され処理速度が向上。照準器もレーザーレンジファインダーとパッシブ式の熱線画像装置を装備、昼夜を問わず標的をロックオンする事が可能で、命中率、夜戦能力も向上している。
照準の最優先は車長であるが、74式戦車と同じく砲手も照準を行うことが可能である。
また、防御装備として、対戦車ミサイル等の照準器からレーザー照射を受けた時に警報を発するレーザー警戒装置を搭載しており、レーザーの照射方向を示すと共に自動的に煙幕弾発射装置により煙幕を展開することができる。
最高速度は(カタログスペック上では)70km/hとなっているが、島松演習場での実験で、75km/h以上の速度を記録している。
旧軍以来延々と受け継がれてきた「満州には水が無いから空冷エンジン」という呪縛から解放され、エンジンは1500馬力を誇る液冷式ディーゼルエンジンを採用。
重量50tの車体を路上最大速度70km/hまで加速することが可能であり、機動性も高い。
懸架装置は74式戦車より簡略化された油圧+トーションバー方式となっており、74式のように左右の傾きの変更は行えなくなったが、前後に±5度、車高は+170mm~-255mmの範囲で変更可能である。
自動装填機構採用により、乗員は1名減って車長、砲手、操縦手の3名となった。
これら数々の新機軸の搭載により、同世代の戦車と全く遜色のない性能を備え、隊員の練度も相まって極めて高い戦闘力を誇る。
(事実、ヤキマ演習場に於ける実弾射撃訓練では行進間射撃にも関わらず3000m先の標的に対して初弾命中させ、米軍関係者を驚愕させている)
だが、その調達価格がネックとなり(8.9億円/両)、なかなか配備が進んでいない(約300両)。
売りである自動装填装置の搭載による乗員の削減も、隊員の間では「乗員が3名では車両故障等の緊急時に下車した時、周囲警戒が甘くなる」「転輪の交換等に人手が足りない」と言う声も出ている。
参考 http://www.mod.go.jp/gsdf/html/soubi/bottom/syaryou/kaisetu/90tk.html
90式に対する批判
さて、本車に関してはデビュー時より
「値段が高い」
「重すぎて橋が落ちる」
「贅沢にもエアコンがついている」
などといった批判がよく叫ばれていたが、これらの中には事実を正しく捉えていない部分が多い。
事実、調達価格は当初12億円→現在8億円と、74式(約3億円)と比べれば高いものの、それでも、他国の同世代戦車との比較ではそれらと同等かむしろ安いほどであり、巷で良く言われるような「世界一高価な戦車」ではない。(アメリカのM1およびドイツのレオパルト2A6は1両あたり10億円超、英国のチャレンジャー2は11億3800万円。仏のルクレールだと9億7000万円)
また、「重すぎて橋が落ちる」というのも、90式の重量(50.2t)からするとまず考えられない話であり、大型車両の走行を前提としていない小型の橋を除き、高速道路や一級国道なら問題なく渡れる。
ただ、移動の際に戦車輸送車に積むと重量が重くなりすぎ、橋げた1つあたり1台しか乗らないように注意する必要があるため、隊列を組んでは橋を渡る事ができなくなる。
また、73式特大型セミトレーラではそのままの状態では最大積載量をオーバーしてしまうため、車体と砲塔を分離して運ぶ。(特大型運搬車は50tまで運搬可能なのでそのままでの状態で搭載される。)
特例として、北千歳駐屯地から東千歳駐屯地間で、C経路と言われる経路を10km/h以下で町の中を走行している。その為に安全装置(サイドミラー・方向指示器)が取り付け可能となっている。
こうした背景から、青森以南の地域では運用の難しい面があり、北海道所在の部隊以外で本車が配備されているのは富士学校・富士教導団(いずれも静岡県御殿場市所在)のみである。
そして車内の空調については、一般の自動車のような冷暖房装置があるわけではなく、エンジンの余熱を乗員室に引き入れて加温したり、空気清浄装置を通した冷たい空気をホースで乗員の戦闘服の中に送り込んで熱を冷ますという方法を採っている。
これはNBC対策を施された現代の戦車ではむしろ当然の装備であり、(一般の自動車と同様に)エアコンを冷暖房装置と混同しているのが原因と思われる。
スペックデータ
乗員:3名(車長・操縦士・砲手)
全長:9.75m
全幅:3.33m
全高:3.84m
戦闘重量:50.2t
エンジン:三菱重工製10ZG32WG・2ストロークV型10気筒液冷ディーゼルエンジン(出力1,500hp)
登坂力:60%
超堤高:1.0m
超壕幅:2.7m
潜水能力:2.0m
最大速度:70km/h(路上)
航続距離:320km
装甲:複合装甲
携行弾数:40発(120mm滑腔砲)/600発(12.7mm機銃)/4,500発(7.62mm機銃)
兵装:Rh120 120mm滑腔砲1門、12.7mm重機関銃1挺、74式車載7.62mm機関銃1挺、76mm4連装発煙弾発射器2基
製作:三菱重工業
派生型
90式戦車
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/15 20:34 UTC 版)
90式戦車(きゅうまるしきせんしゃ)は、日本の戦車。第二次世界大戦後に日本国内で開発生産された自衛隊の主力戦車としては61式戦車、74式戦車に続く三代目にあたり、第3世代主力戦車に分類される。
注釈
- ^ かつては第1機甲教育隊にも配備されていた。
- ^ 後継の10式戦車では情報モニターの設置など、操作計器の簡素化も行われている。
- ^ 各国の軍事機関を例に挙げても米軍のMIL規格、日本の防衛省規格NDSなど様々な基準・仕様・規格が存在する。
- ^ 自己位置評定のみ。
- ^ 90式より高腔圧に対応
- ^ 2008年度予算から初度費が一括計上されており、10式の単価には初度費は含まれていない。
- ^ 平成元年度防衛白書中の資料「平成元年度主要事業の経費」によれば、56両に対し22,175百万円。
- ^ 1965年と2022年の物価を消費者物価指数で換算。
- ^ 2005年の9月12日・9月19日に90式戦車と74式戦車が、2006年の8月31日・9月13日と2007年の8月31日・9月12日と2008年の9月2日・9月10日と2009年9月1日・9月9日に90式戦車が移動。
- ^ 90式より5トンから10トン以上重い主力戦車を保有する欧米でもゴムパッド付きの履帯で、一般公道を自走しての移動が行われている。
- ^ 上富良野駐屯地から上富良野演習場、鹿追駐屯地から然別演習場、北千歳駐屯地または北恵庭駐屯地から北海道大演習場といった各駐屯地から演習場までの国道や道道・市道にはアスファルトでは無くコンクリート補強された道路が設置されており、当該路面を戦車が通常の履帯で走行する状態を確認する事ができる。
- ^ JR・旧国鉄の在来線は横幅3メートル弱の車両を前提に設計されているが、74式以降はいずれも車幅が3メートルを超えている。なお、戦車以外では、在来線で施設科などの小規模な輸送が行われている。
出典
- ^ “第3世代戦車の最高峰「90式戦車」、攻守の能力を高次元でまとめた陸上自衛隊の現用主力”. Motor-Fan (2021年9月25日). 2023年4月3日閲覧。
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- ^ “『90式戦車を制式化』”. 戦車兵のブログ. 2022年11月8日閲覧。
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- ^ a b 丸 2002, p. 73.
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- ^ 『月刊グランドパワー』2006年4月号では、記者が「ほぼ100パーセント」と表現している
- ^ コーエー刊『戦車名鑑1946〜2002 現用編』51頁
- ^ 『月刊グランドパワー』2006年3月号
- ^ a b c d e 丸 2002, p. 77.
- ^ “三菱重工(株)”. 活動報告 その他. 衆議院議員 坂本剛二 (2004年11月11日). 2006年1月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年9月28日閲覧。
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- ^ 『世界のハイパワー戦車&新技術』(Japan Military Review『軍事研究』2007年12月号別冊p135、一戸崇雄)
- ^ テレビ朝日 『カーグラフィックTV』 1996年8月24日放映 No.564「陸上自衛隊の働くクルマ逹」より
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- ^ 新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会 - 第5回配布資料 「防衛生産・技術基盤」平成22年(2010年)4月(防衛省) (PDF)
- ^ レオパルト2の方向指示器(後部)が見える写真/ルクレールの方向指示器(前部)が見える写真
- ^ “戦車、民間フェリーで移動…北海道から大分へ”. 読売新聞. (2011年10月26日). オリジナルの2011年10月28日時点におけるアーカイブ。
- ^ “自衛隊、南西シフト鮮明=九州・沖縄で相次ぎ演習-鉄道、民間船で列島縦断”. 時事通信. (2011年11月3日)[リンク切れ]
- ^ 追跡・静岡:戦車砲身破裂 重なった人為ミス 届かなかった中止命令 /静岡
- ^ 戦車横転で隊員死亡 北海道、陸自訓練中
- ^ 20170604 90式戦車と音楽隊の共同演奏@真駒内駐屯地 - Youtube
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