兄弟
『アイヴァンホー』(スコット) リチャード1世は十字軍遠征に出かけ、外国で捕虜となる。王弟ジョンは兄王の幽閉を長引かせ、自らが王になろうとして、国内での勢力拡大をはかる。陰謀を知ったリチャード1世は、帰国後、ジョンの配下たちを死刑や流刑に処するが、ジョン自身については咎めずにおく。
『海の水はなぜからい(塩挽き臼)』(昔話) 大晦日、貧しい弟が兄に米を借りに行き、断られる。帰り道で弟は老人に出会って麦饅頭をもらい、老人の教えによって、麦饅頭を、小人たちの持つ挽き臼と交換する。挽き臼からは望みの物が出、弟は長者になる。兄は羨んで挽き臼を盗む(岩手県上閉伊郡)→〔海〕1。
『大鏡』「兼通伝」 兼通・兼家兄弟は不和であった。関白兼通が重病の床にあった時、弟兼家は見舞いにも来ず、兼通邸の前を素通りして内裏に参上し、次期関白のことを帝に奏請した。兼通は怒り、病躯をおして参内し、次期関白に従兄頼忠を任じ、兼家を大将から治部卿に降格した。
『群盗』(シラー) マクシミリアン伯の長男カールが遊学中に、弟フランツは父マクシミリアン伯をだまして、カールを廃嫡させる。その後フランツは父を幽閉し、兄カールの恋人アマーリアに言い寄る。カールは盗賊団の首領となり、故国へ戻ってフランツと対決するが、フランツは自ら縊死する。父マクシミリアン伯は悶死し、カールはアマーリアとも別れねばならず、彼女の望みでカールはアマーリアを刺し殺す。
『古事記』上巻 ホヲリ(山幸彦)は海神に教えられた呪文を唱えて、鉤を兄のホデリ(海幸彦)に与えた。ホデリは貧しくなり、怒って攻めて来た。ホヲリは塩盈珠・塩乾珠でホデリを苦しめ、ホデリは降参した〔*『日本書紀』巻2神代下・第10段に類話〕。
★2a.母親が、二人の息子のうち、兄よりも弟の方をかわいがる。
『古事記』中巻 兄・秋山の下氷壯夫(したひをとこ)が、伊豆志袁登賣(いづしをとめ)への求婚に失敗する。兄は、弟・春山の霞壯夫(かすみをとこ)に「もし、お前が彼女を得たら、酒や山河の産物を与えよう」と約束する。兄弟の母が、弟のために衣服や弓矢を作ってやり、弟は伊豆志袁登賣への求婚に成功する。しかし兄が約束を履行しなかったので、母は弟に教えて兄を呪わせる。その結果、兄は8年間にわたって病み臥した。
『創世記』第25章 イサクとリベカの間には、双子のエサウとヤコブが生まれた。父イサクは兄エサウを愛したが、母リベカは弟ヤコブを愛した。ある時、兄エサウは空腹のため、弟ヤコブが煮るレンズ豆とパンを食べさせてくれるよう頼み、引き換えに長子の権利を弟ヤコブに譲った。母リベカはこれを利用し、弟ヤコブが父イサクから祝福の言葉を受けられるように仕組んだ。
『にんじん』(ルナール)「にんじんのアルバム」1 ルピック家に3人の子供があり、「にんじん」は末っ子である。母親は、兄フェリックスや姉エルネスチーヌに優しく、「にんじん」には冷たい。一家のアルバムは兄や姉の写真ばかりで、「にんじん」の写真はなかった。母親は、「『にんじん』の写真がとてもかわいかったので、皆さんが抜き取って行きました。それで1枚も残っていないのです」と説明する。本当は、「にんじん」は1度も写真を撮ってもらったことがないのだ。
★3a.兄が弟を殺す・傷つける。
『英雄伝』(プルタルコス)「ロムルス」 ローマを建設するにあたり、どこに町を築くかについて、双子の兄弟ロムルスとレムスが争う。鳥占いの結果ロムルスが勝つが、レムスはそれに納得せず、ロムルスが城壁の周りに濠を掘るのを妨害する。兄ロムルスは弟レムスを殺す〔*ロムルスの仲間の1人がレムスを殺した、とも言う〕。
『創世記』第4章 アダムはエバ(イヴ)を妻とし、最初にカインが生まれ、ついでアベルが生まれた。兄カインは土を耕す者となり、弟アベルは羊を飼う者となった。兄弟が神に捧げ物をすると、神はカインの供えた農作物をしりぞけ、アベルの供えた羊を受けた。カインは怒り、弟アベルを野原に誘い出して殺した。
*カインとアベルの物語の別伝→〔皮膚〕1の『なぜ神々は人間を作ったのか』(シッパー)第5章「アフリカの黒人と白人」。
『日本霊異記』上-12 兄弟が一緒に商売に出かけ、弟が銀40斤を得たが、兄がこれをねたんで弟を殺し銀を奪う。弟の死骸の髑髏は、長い年月、往来の人や動物に踏まれる。僧道登の従者が髑髏を拾って木の上に置き、これがきっかけで、兄の弟殺しが発覚する(同・下-27の類話では、伯父が甥を殺したとする)→〔大晦日〕1。
『和漢三才図会』第94・湿草類「弟切草」 花山院の御代(984~986)に、晴頼(せいらい)という鷹飼いがいた。彼は、鷹が怪我をすると、草を揉んで患部につける。するとたちまち傷が癒えた。人から「その草の名を教えてくれ」と請われても、秘して言わなかった。ところが、弟がひそかに草の名を外部の人に洩らしたので、晴頼は怒って弟を切った。以来、鷹の良薬は、「弟切草」の名で知られるようになった。
*真剣を持つ兄が、木刀を持つ弟を殺す→〔剣〕5aの『日本書紀』巻5祟神天皇60年7月。
*兄が弟を殺して、手柄を横取りする→〔横取り〕2の『唄をうたう骨』(グリム)KHM28。
*自殺に失敗して苦しむ弟を、兄が死なせる→〔安楽死〕1の『高瀬舟』(森鴎外)。
*兄弟が、互いに相手を殺そうとして思いとどまる→〔二者同想〕1cの『今昔物語集』巻4-34。
*兄弟が一騎打ちして刺し違える→〔相打ち〕1の『テーバイ攻めの七将』(アイスキュロス)。
★3b.弟が兄を殺す・傷つける。
『今昔物語集』巻26-24 山城国に兄弟があった。弟は兄を殺そうとつけねらい、暗夜、矢を射かけるが、矢は兄の腰刀の目貫に当たってはね返り、兄は無事だった。
『ニーベルングの指環』(ワーグナー)「ラインの黄金」 巨人ファゾルトとファフナー兄弟は、神々のために城を築いた代償に、女神フライアの身体が隠れるだけの分量の黄金を望み、さらに、ラインの黄金から作った隠れ兜と指環を要求する。しかし指環の呪いによって兄弟は争いを始め、弟ファフナーが兄ファゾルトを撃ち殺した。
『ハムレット』(シェイクスピア)第3幕 クローディアスは、昼寝中の兄王の耳に毒液を流しこんで殺す。罪の意識にかられた彼は、「人類最古の罪、兄弟殺しの大罪。神に祈りたいが、罪の深さを思えばそれもできぬ」と悩む。
*弟が、厠に入る兄を殺す→〔厠〕6の『古事記』中巻(ヤマトタケル)。
*弟が、兄を棺に入れて殺す→〔棺〕1aの『イシスとオシリスの伝説について』(プルタルコス)13。
★4.誤解により、兄弟の一方がもう一方を殺す、あるいは殺そうとするが、誤解が解け和解する。
『二人兄弟』(グリム)KHM60 双子の兄弟が旅に出て、別々に仕事を捜す。弟は冒険の末、ある国の王になるが、魔女によって石にされてしまう。兄がその国へやって来て、弟と瓜二つゆえに弟の身代わりをつとめ、魔女を退治する。兄は魔女に命じて、弟をもとの姿に戻させる。ところが弟は、兄が自分の妃と同じベッドに寝たことを聞いて怒り、兄の首を切り落とす。しかしすぐに誤解はとけ、生命の草の根によって兄は生き返る。
『二人兄弟の物語』(古代エジプト) 兄アヌプは、自分の妻が弟バタに誘惑されたと聞いて怒り、バタを殺そうとする。しかしバタが誤解を解き、兄弟は和解する。後、バタはファラオの兵に殺されるが、アヌプが水を用いてバタを生き返らせる。バタはファラオの王子に転生し、やがて彼が新たなファラオになる。30年間エジプトを統治してバタが死ぬと、アヌプが王位を継ぐ。
★5.兄弟と一人の女。
『和泉式部日記』 和泉式部は冷泉天皇の皇子為尊親王と愛人関係になるが、為尊親王は病死する。悲しむ和泉式部のもとへ、為尊親王に仕えていた小舎人童が訪れ、「今は為尊親王の弟君敦道親王に仕えている」と言う。これがきっかけで、和泉式部は敦道親王とも愛人関係になる。
『狂った果実』(中平康) プレイボーイの大学生夏久と、純真な高校生春次は、仲の良い兄弟である。春次は、逗子で知り合った恵梨と交際するが、恵梨は20歳とはいうものの、実は中年アメリカ人の妻であり、浮気の経験も何度かある女であった。それを知った夏久は、恵梨を誘惑して関係を持つ。夏久は恵梨をヨットに乗せ、海へ出る。怒った春次は後を追い、モーターボートで兄のヨットに体当たりする。
『苔の衣』 三条帝の息子東宮は、母藤壺中宮の弟苔衣の大将の姫君と結婚する。しかし東宮の弟兵部卿宮が姫君に恋着し、寝所に忍び入って関係を結ぶ。姫君が産んだ若宮は、東宮の子として育てられる。
『小袖曽我薊色縫(こそでそがあざみのいろぬい)』(河竹黙阿弥) 遊女十六夜(いざよい)は僧清心と入水心中をはかるが、俳諧師白蓮に救われて、彼の妾になる。しかし白蓮は清心の実の兄であり、十六夜は知らずして兄と弟の両方と関係を持ったのだった〔*後に十六夜は清心に「お前の兄さんと一つ枕に寝たからは、死なねばならぬ」と言い、清心の刃にかかって死ぬ〕。
『マルコによる福音書』第6章 ヘロデヤは夫ピリポの兄弟であるヘロデ王に嫁し、そのことをバプテスマのヨハネが非難する。ヘロデヤはこれを恨み、娘(後にサロメという名が与えられる)をそそのかして、ヘロデ王がヨハネの首を斬るようにしむける〔*『マタイ』第14章に類話〕→〔首〕1の『サロメ』(ワイルド)。
*異母兄妹と1人の女→〔兄妹〕2bの『金色の眼の娘』(バルザック)。
*5人兄弟が1人の妻を共有する→〔一妻多夫〕1bの『マハーバーラタ』第1巻「序章の巻」。
『じゃま者』(ボルヘス) ニルセン兄弟は、仲が良いことで有名だった。兄クリスチャンが、フリアナという女と一緒に暮らし始めた。ところが弟エドゥワルドも、フリアナに惚れてしまった。弟思いの兄は、フリアナを弟と共有する。それでも兄弟は、しだいに不和になった。ある日、兄はフリアナを殺し、そのことを弟に告げる。兄弟は、ひしと抱き合った。
*姉妹が、不和の原因である男を殺す→〔姉妹〕2cの『ジャン・クリストフ』(ロラン)第9巻「燃ゆる荊」
『愛慾』(武者小路実篤) 野中英次(29歳)はセムシの画家で、その兄信一(36歳)は人気役者だった。信一は英次の境遇を憐れみ、自分が愛している女千代子(25歳)を、英次の妻として与える。英次は、兄を尊敬し妻を愛すると同時に、2人を憎悪する。混乱した思いのうちに、英次は千代子を絞め殺して、死骸を大きなカバンに隠す。それを知った信一は、「弟を助けねばならぬ」と考え、千代子の死骸を始末すべく手配する。
★7.弟に及ばぬ兄。
『受験生の手記』(久米正雄) 会津出身の「私(久野健吉)」は、東京の義兄宅に寄宿して、一高受験の準備をする。「私」は昨年受験に失敗し、今年は1歳下の弟と一緒に、入試に臨むのだ。結果は、「私」はまたしても不合格であり、弟はただ1度の挑戦で一高生になった。「私」は義兄の姪の澄子さんを恋していたが、彼女は弟に思いを寄せていた。「私」は1人帰郷の途につき、手記を残して猪苗代湖に身を沈めた。
★8.浦島の弟。
『宇治拾遺物語』巻12-22 陽成院の御所の釣殿に、ある夜、見すぼらしい翁が現れる。翁は、寝ていた番人を起こして、「私は、浦嶋の子(=浦島太郎)の弟だ。ここに住んで千2百余年になる。社(やしろ)を造って、私を祭ってほしい」と要求する。番人が「私の一存ではできない」と言うと、翁はにわかに巨大化し、大きな口を開けて、番人を一口に食ってしまった。
『新浦島』(幸田露伴) 丹後の人・浦島太郎は、龍宮城で何十年かを過ごして帰って来たが、玉手箱を開けたため、老人になってしまった。太郎は信濃の寝覚めの床に移り住み、仙人となる。そして玉手箱を、丹後に住む弟・次郎に送った。以来、次郎の家は代々玉手箱を持ち伝え、99代目に到った〔*百代目の次郎は、神仙になろうとしてなれず、魔王を呼び出し、最後には石になってしまう〕→〔分身〕3c。
*貧乏な兄と富裕な弟→〔宿〕1bの蘇民将来と茅の輪の伝説・『備後国風土記』逸文。
*兄弟が3人のばあいは→〔三人兄弟〕。
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