食品
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/24 14:21 UTC 版)
歴史
太古の人類は狩猟によって動物を狩り、海や川で漁(漁労)を行って魚や海産物を手に入れ、採集によって植物性の食品を手に入れていた[28]。やがて火の利用が始まると、それまで生では食べることのできなかった穀物や豆、芋などが食用可能になり、食品の幅は大きく広がった[28]。こうして入手した食品の貯蔵も行われており、氷河時代末期には乾燥や燻製といった保存技術も存在していたことが確認されている[29]。
その後、世界各地で農耕が開始されると、各地域の人々はその地域の植物の中から食用に用いやすい植物を選抜し、栽培化していった。農耕のはじまった地域では多かれ少なかれ栽培化は行われたが、なかでも穀物の栽培化は地域の偏りが大きく、中国北部、中国雲南省~東南アジア~インド北部、中央アジア、近東、アフリカ(サヘル地帯及びエチオピア高原)、中央アメリカ、南米のアンデス山脈の7地域を発祥の地としている[30]。同様に世界の各地で動物の家畜化も行われ、これにより肉だけでなく持続的に入手可能な二次生産物、すなわち乳製品の利用も可能となった[31]。この農耕と牧畜によって人類はより効率的に食糧の生産を行うことができるようになった。
各地域で独自に家畜化または栽培化された動植物は、やがて交易や交流の増加によって他地域へと伝播していくようになった。なかでも1492年にクリストファー・コロンブスがアメリカ大陸を発見すると、旧大陸と新大陸との間で大規模な交換(コロンブス交換)が行われ、「旧世界」にトウモロコシやジャガイモ、「新世界」にコムギやサトウキビなどが持ち込まれることで食品の種類は双方ともに大幅に増加した[32]。
19世紀に入り、産業革命によって科学および工業力が大幅に進歩すると食品もその影響を受け、流通システムの進歩と合わせて近代的食品工業の成立[33]や食品科学および栄養学の成立[34]、そして食品の安全規制の導入[35]などが行われ、食品に関する事情は大きく様変わりした。農業社会の場合、前近代においては炭水化物を供給する単一の主食に頼る食生活を送っていたが、経済成長や流通の整備などによって先進国では多種多様な食品が食卓に並ぶようになり、主食への依存は大きく減少した[36]。一方、発展途上国においてはいまだに穀物やイモ類などの主食に依存する食生活が続いているところが多い[36]。
ある個人が食品から栄養素を十分に摂取できなかった場合は栄養失調、十分にカロリーを摂取できなかった場合は飢餓、ひとつの地域において食品の供給が不足した場合は飢饉が発生する。世界の食糧生産量の数字だけを見れば、その数字は常に必要量を上回っており、さらに20世紀の人口爆発においても、緑の革命などの食糧生産技術の革新によって、「1人あたりの食糧生産量」はむしろ大きく増大した[37]。しかし、飢餓は21世紀においても消滅していない。その原因として、貧困などによって食糧を入手できないという食糧の再配分における問題が指摘されており、富裕国から貧困国への食糧援助や貧困の削減による問題解決が図られている[38]。また、最低限のカロリーを確保することができ飢餓に陥っていない場合においても、必要な栄養素をすべて確保した健康的な食事を取るにはさらに費用が必要となるため、栄養失調となっている人びとは多い[39]。一方、食品ロスの問題も深刻であり、世界で生産された食品の1/3が食用とされることなく廃棄されている[40]。
注釈
- ^ 法改正前の食品衛生法第4条では、「この法律で食品とは、すべての飲食物をいう。ただし、医薬品医療機器等法(昭和35年法律第145号)に規定する医薬品及び医薬部外品は、これを含まない。」と規定していた[5]。
出典
- ^ 他言語では、羅: alimentum 独: Lebensmittelなど。
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