食品 歴史

食品

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/11 03:50 UTC 版)

歴史

太古の人類狩猟によって動物を狩り、漁労)を行って海産物を手に入れ、採集によって植物性の食品を手に入れていた[28]。やがての利用が始まると、それまで生では食べることのできなかった穀物や豆、芋などが食用可能になり、食品の幅は大きく広がった[28]。こうして入手した食品の貯蔵も行われており、氷河時代末期には乾燥や燻製といった保存技術も存在していたことが確認されている[29]

その後、世界各地で農耕が開始されると、各地域の人々はその地域の植物の中から食用に用いやすい植物を選抜し、栽培化していった。農耕のはじまった地域では多かれ少なかれ栽培化は行われたが、なかでも穀物の栽培化は地域の偏りが大きく、中国北部、中国雲南省東南アジアインド北部、中央アジア近東アフリカサヘル地帯及びエチオピア高原)、中央アメリカ、南米のアンデス山脈の7地域を発祥の地としている[30]。同様に世界の各地で動物の家畜化も行われ、これにより肉だけでなく持続的に入手可能な二次生産物、すなわち乳製品の利用も可能となった[31]。この農耕と牧畜によって人類はより効率的に食糧の生産を行うことができるようになった。

各地域で独自に家畜化または栽培化された動植物は、やがて交易や交流の増加によって他地域へと伝播していくようになった。なかでも1492年クリストファー・コロンブスアメリカ大陸を発見すると、旧大陸新大陸との間で大規模な交換(コロンブス交換)が行われ、「旧世界」にトウモロコシジャガイモ、「新世界」にコムギやサトウキビなどが持ち込まれることで食品の種類は双方ともに大幅に増加した[32]

19世紀に入り、産業革命によって科学および工業力が大幅に進歩すると食品もその影響を受け、流通システムの進歩と合わせて近代的食品工業の成立[33]や食品科学および栄養学の成立[34]、そして食品の安全規制の導入[35]などが行われ、食品に関する事情は大きく様変わりした。農業社会の場合、前近代においては炭水化物を供給する単一の主食に頼る食生活を送っていたが、経済成長や流通の整備などによって先進国では多種多様な食品が食卓に並ぶようになり、主食への依存は大きく減少した[36]。一方、発展途上国においてはいまだに穀物やイモ類などの主食に依存する食生活が続いているところが多い[36]

ある個人が食品から栄養素を十分に摂取できなかった場合は栄養失調、十分にカロリーを摂取できなかった場合は飢餓、ひとつの地域において食品の供給が不足した場合は飢饉が発生する。世界の食糧生産量の数字だけを見れば、その数字は常に必要量を上回っており、さらに20世紀の人口爆発においても、緑の革命などの食糧生産技術の革新によって、「1人あたりの食糧生産量」はむしろ大きく増大した[37]。しかし、飢餓は21世紀においても消滅していない。その原因として、貧困などによって食糧を入手できないという食糧の再配分における問題が指摘されており、富裕国から貧困国への食糧援助や貧困の削減による問題解決が図られている[38]。また、最低限のカロリーを確保することができ飢餓に陥っていない場合においても、必要な栄養素をすべて確保した健康的な食事を取るにはさらに費用が必要となるため、栄養失調となっている人びとは多い[39]。一方、食品ロスの問題も深刻であり、世界で生産された食品の1/3が食用とされることなく廃棄されている[40]


注釈

  1. ^ 法改正前の食品衛生法第4条では、「この法律で食品とは、すべての飲食物をいう。ただし、医薬品医療機器等法(昭和35年法律第145号)に規定する医薬品及び医薬部外品は、これを含まない。」と規定していた[5]

出典

  1. ^ 他言語では、: alimentum : Lebensmittelなど。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m 小学館『日本大百科全書』「食品」河野友美 執筆。
  3. ^ 広辞苑第6版
  4. ^ 用語解説(食品ロス参照)”. 京都府. 2020年6月1日閲覧。
  5. ^ 食品衛生法(昭和二十二年十二月二十四日法律第二百三十三号)”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局. 2009年11月30日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h i 健康食品調査(米国)”. 日本貿易振興機構ロサンゼルス事務所農林水産・食品調査課. 2020年6月1日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v 資料 1-1. コーデックス食品分類システム(Food Category System: FCS)”. 農林水産省. 2020年6月1日閲覧。
  8. ^ 食品保健研究会(編) 1989, pp. 29–31.
  9. ^ 食品保健研究会(編) 1989, p. 29.
  10. ^ 食品保健研究会(編) 1989, pp. 29–30.
  11. ^ 食品保健研究会(編) 1989, p. 30.
  12. ^ a b 食品保健研究会(編) 1989, p. 31.
  13. ^ a b 「好きになる栄養学 第3版」p3 麻見直美・塚原典子 講談社 2020年2月18日第1刷発行
  14. ^ 「好きになる栄養学 第3版」p29-30 麻見直美・塚原典子 講談社 2020年2月18日第1刷発行
  15. ^ 「世界の食用植物文化図鑑 起源・歴史・分布・栽培・料理」p24-25 バーバラ・サンティッチ、ジェフ・ブライアント著 山本紀夫監訳 柊風舎 2010年1月20日第1刷
  16. ^ 「好きになる栄養学 第3版」p16-17 麻見直美・塚原典子 講談社 2020年2月18日第1刷発行
  17. ^ 「食料の世界地図」p86-87 エリック・ミルストーン、ティム・ラング著 中山里美・高田直也訳 大賀圭治監訳 丸善 平成17年10月30日発行
  18. ^ 「世界の食用植物文化図鑑 起源・歴史・分布・栽培・料理」p26 バーバラ・サンティッチ、ジェフ・ブライアント著 山本紀夫監訳 柊風舎 2010年1月20日第1刷
  19. ^ 食品保健研究会(編) 1989, pp. 91–92.
  20. ^ a b c d e f 食品保健研究会(編) 1989, p. 92.
  21. ^ 食品保健研究会(編) 1989, pp. 92–93.
  22. ^ a b c d e f g h i 食品保健研究会(編) 1989, p. 93.
  23. ^ 食品保健研究会(編) 1989, pp. 93–94.
  24. ^ a b c d e f 食品保健研究会(編) 1989, p. 94.
  25. ^ 食品保健研究会(編) 1989, pp. 94–95.
  26. ^ a b c d e f g h i j 食品保健研究会(編) 1989, p. 95.
  27. ^ 食品保健研究会(編) 1989, pp. 95–96.
  28. ^ a b 「火と人間」p4 磯田浩 法政大学出版局 2004年(平成16年)4月20日初版第1刷
  29. ^ 「図説 人類の歴史 別巻 古代の科学と技術 世界を創った70の大発明」p119 ブライアン・M・フェイガン編 西秋良宏監訳 朝倉書店 2012年(平成24年)5月30日初版第1刷
  30. ^ 「新訂 食用作物」p3 国分牧衛 養賢堂 2010年(平成22年)8月10日第1版
  31. ^ 「図説 人類の歴史 別巻 古代の科学と技術 世界を創った70の大発明」p110 - 111 ブライアン・M・フェイガン編 西秋良宏監訳 朝倉書店 2012年(平成24年)5月30日初版第1刷
  32. ^ 南直人『ヨーロッパの舌はどう変わったか 十九世紀食卓革命』講談社〈講談社選書メチエ〉、1998年、56 - 58頁。ISBN 4-0625-8123-X 
  33. ^ 南直人『ヨーロッパの舌はどう変わったか 十九世紀食卓革命』講談社〈講談社選書メチエ〉、1998年、98頁。ISBN 4-0625-8123-X 
  34. ^ 南直人『ヨーロッパの舌はどう変わったか 十九世紀食卓革命』講談社〈講談社選書メチエ〉、1998年、195 - 200頁。ISBN 4-0625-8123-X 
  35. ^ 南直人『ヨーロッパの舌はどう変わったか 十九世紀食卓革命』講談社〈講談社選書メチエ〉、1998年、209 - 212頁。ISBN 4-0625-8123-X 
  36. ^ a b 「食料の世界地図」p78-81 エリック・ミルストーン、ティム・ラング著 中山里美・高田直也訳 大賀圭治監訳 丸善 平成17年10月30日発行
  37. ^ 「食 90億人が食べていくために」(サイエンス・パレット025)p144-145 John Krebs著 伊藤佑子・伊藤俊洋訳 丸善出版 平成27年6月25日発行
  38. ^ 「食料の世界地図」p12-13 エリック・ミルストーン、ティム・ラング著 中山里美・高田直也訳 大賀圭治監訳 丸善 平成17年10月30日発行
  39. ^ https://www.unicef.or.jp/news/2020/0173.html 「世界の飢餓人口 増加続く 2030年の「飢餓ゼロ」達成困難のおそれ ユニセフなど、国連5機関が新報告書」公益財団法人 日本ユニセフ協会 2020年7月13日 2021年2月5日閲覧
  40. ^ [1] 鎌倉市 2021年7月1日閲覧
  41. ^ 「食文化としての昆虫食」p43 野中健一 (「文化昆虫学事始め」所収 三橋淳小西正泰編 創森社 2014年(平成26年)8月20日第1刷)
  42. ^ 「イスラエルのユダヤ料理」p110 鴨志田聡子(「イスラエルを知るための62章 第2版」所収 立山良司編著 明石書店 2018年(平成30年)6月30日第2版第1刷)
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  45. ^ 『イスラームと食』p370 山根聡(「インド文化事典」所収)インド文化事典製作委員会編 丸善出版 2018年(平成30年)1月30日発行
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  47. ^ 「世界の食文化百科事典」p304-305 野林厚志編 丸善出版 令和3年1月30日発行
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  49. ^ 「食 90億人が食べていくために」(サイエンス・パレット025)p90-91 John Krebs著 伊藤佑子・伊藤俊洋訳 丸善出版 平成27年6月25日発行
  50. ^ 「新・食文化入門」p30 - 34 森枝卓士南直人編 弘文堂 2004年(平成16年)10月15日初版1刷発行
  51. ^ 「食文化の多様性と標準化」p79 岩間信之(「グローバリゼーション 縮小する世界」所収 矢ヶ﨑典隆山下清海加賀美雅弘編 朝倉書店 2018年(平成30年)3月5日初版第1刷)
  52. ^ 「食で読み解くヨーロッパ 地理研究の現場から」p120-124 加賀美雅弘 朝倉書店 2019年4月10日初版第1刷
  53. ^ 「世界をよみとく暦の不思議」p131-139 中牧弘允 イースト・プレス 2019年1月20日初版第1刷発行
  54. ^ 「新版 キーワードで読みとく現代農業と食料・環境」p218-219 「農業と経済」編集委員会監修 小池恒男・新山陽子・秋津元輝編 昭和堂 2017年3月31日新版第1刷発行
  55. ^ 「新版 キーワードで読みとく現代農業と食料・環境」p14-15 「農業と経済」編集委員会監修 小池恒男・新山陽子・秋津元輝編 昭和堂 2017年3月31日新版第1刷発行
  56. ^ 「食料の世界地図」p82-83 エリック・ミルストーン、ティム・ラング著 大賀圭治監訳 中山里美・高田直也訳 丸善 平成17年10月30日発行
  57. ^ a b 「食べ物と健康 食品の安全」(健康・栄養科学シリーズ)p13 有薗幸司編 独立行政法人国立健康・栄養研究所監修 南江堂 2013年(平成25年)4月1日第1刷
  58. ^ 「食べ物と健康 食品の安全」(健康・栄養科学シリーズ)p8 - 9 有薗幸司編 独立行政法人国立健康・栄養研究所監修 南江堂 2013年(平成25年)4月1日第1刷






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