食品
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/27 06:41 UTC 版)
食品の価値
食品は、以下のような価値を有する[12]。
- 安全的価値 - 飲食物は摂取する者の健康に大きな影響を与えるため、最も重要となる[13]
- 栄養的価値 - さまざまな栄養素が含まれ、容易に消化、吸収されることが求められる[14]
- 経済的価値 - 日常食品として常用することの容易性に関わる[15]
- 実用的価値 - 保存・調理・貯蔵・運搬などの簡易性[16]
- 嗜好的価値 - 美感や美味感など。嗜好品だけでなく、すべての食品が嗜好性を有する[16]
つまり食品は一般に、安全性という見地、栄養素(栄養価)という見地、経済性(価格)という見地、実用性という見地、嗜好性という見地 から評価し分析することができる。
このうち最も重要なのは「安全的価値」である。食品は摂取する人の健康や生命に影響を与えるからである。
食品の保存
食品の保存目的
食品の保存とは、食品を腐敗・変敗させることなく保つことをいい[17]、以下のような目的がある[18]。
- 品質低下の防止
- 食品を生産地から遠隔地へ輸送し、供給の安定を図る
- 衛生上の危害を防止し、食生活の安全を確保する
- 食品の栄養価を保つ
食品の保存方法
食品をそのままの形で保存する方法


- 冷蔵
- 食品を凍結させず0℃から10℃で保存する方法である[18]。細菌の活動を完全に抑えることはできないため、短期間の保存に向いている[19]。
- 冷凍
- マイナス20℃からマイナス25℃の温度で急速に凍結させた後、マイナス15℃以下で保存する方法[20]。長期の保存に向いているが、細菌を死滅させるわけではないため、解凍後の取り扱いに注意する必要がある[20]。また、凍結により食品の組織に変化が起こり、鮮度が失われるという短所がある[20]。
- 包装
- 包装により食品を外界から遮断することで、異物の混入や空気の流入を防ぐ[20]。様々な形態があり、包装用の素材の開発も進んでいる[21]。
- 乾燥
- 天日、熱風、電気、凍結(フリーズドライ)によって細菌の増殖や酵素の作用に必要な水分を減少させる[18]。乾燥の程度は、概ね約15%以下である[18]。
- 地下貯蔵
- 食品を土中や、コンクリートの穴に入れる方法[18]。さつまいもなどの保存に用いられる[18]。
- 加熱殺菌
- 加熱により腐敗・変敗の原因となる微生物を死滅させ、酵素を破壊する[20]。具体的な方法としては蒸煮や焙煮のほか、液体瓶詰食品に用いられる低温殺菌法、缶詰食品に用いられる高温殺菌法がある[20]。加熱殺菌した食品は、開封後腐敗しやすい点に注意する必要がある[20]。
- 保存料の添加
- 保存料を使用して細菌の死滅や増殖阻止を実現し、酵素の働きを阻害する方法[20]。添加することのできる保存料の量は法律で定められている[20]。
食品を加工して保存する方法
- 砂糖漬け
- 濃度50%以上の砂糖液に漬け、脱水作用によって細菌の増殖を抑える[22]。例としてジャム、ゼリー、羊羹、加糖練乳など[22]。
- 酢漬け
- 酢がもつ殺菌作用や、水素イオン濃度を変化させる性質を利用して細菌の増殖を抑える方法[22]。
- 醤油漬け、味噌漬け
- 食塩の脱水作用を利用し、調味と同時に保存性を高める[23]。
- 瓶詰・缶詰
- 調味加工した食品を瓶や缶に入れ、密封・脱気・加熱殺菌する[24]。
- 塩乾
- 食塩の添加と乾燥によって、調味とともに保存を図る方法[24]。塩分が多く水分が少ないほど長期保存に向く[24]。魚介類の干物が例として挙げられる[24]。
- 燻煙
- 塩漬けにした肉類や魚類を、木材を不完全燃焼させて発生させた煙の中に置き、脱水により殺菌する方法[24]。煙の成分を食品が吸収し、特有の香気や風味がつく[24]。
- 細菌・酵母・カビなどの利用
- 有用な細菌・酵母・カビを増殖させることで、他の細菌の増殖を抑える方法[24]。食品の成分が変化し、風味が増す[24]。例として、納豆、酒、味噌、醤油、チーズなど[25]。
地域・宗教的な差

食品とされるものは文化・地域的な的な差が小さくなく、ある地域において重要な食品とされているものが他地域では食品とみなされていないということは珍しくない。例えば昆虫は、熱帯や亜熱帯を中心にかなりの文化が昆虫食の文化を持っている一方、ほとんど昆虫食文化を持たず食品とすることに強い抵抗感を示す地域も多く存在する[26]。
また各宗教ごとに戒律などの食物規定が大きく異なるので、各宗教圏ごとに食べられるものが異なっている。例えばユダヤ教ではトーラー(モーセ五書)の規定によりカシュルートと呼ばれる食物規定がありその規定に適合したものだけが「カシェル」(=清浄規定に適合し食べてよいもの)とされ、反芻せず蹄が分かれていない動物の肉、およびひれと鱗のない魚などは食べることを禁じられているため、豚肉、クラゲ、ナマズ、サメ、アワビ、ハマグリ、ホタテガイ、カニ、エビ、イカなどはそもそも「不浄な生き物」とされ食べることを禁じられている[27]。
イスラム教では『クルアーン』で「不浄」とされる豚を食べることが禁忌とされ、またその他にも食肉を中心にイスラム法で許された食材(ハラール)を食べることが求められる[28]。ヒンドゥー教においては「聖獣」とされる牛の肉を食することが強く忌避されているが、この他にも肉食全般への忌避感は強く、上位カーストを中心に魚やニワトリ、卵さえも口にしない厳格な菜食主義を実践する人びとも多い。ただしヒンドゥー教は完全菜食主義は採っていないため、殺生を伴わない乳製品はむしろ盛んに食されており、ヒンドゥー教徒の食生活にとってなくてはならないものとなっている[29]。同様に禁忌とされることが多い食品としては酒がある。イスラム教では酒は教義上禁じられている[30]。ヒンドゥー教では酒は禁忌とされてはいないが、社会的には非常に好ましくないものとされている[31]。
宗教の戒律以外でも、菜食主義者の他、すべての動物性食品の摂取を拒否するヴィーガンのように、みずからの信条に伴いある食品を拒否する人々は存在する。また、普通に流通している食品であっても、個人によっては摂取した際にアレルギー反応を起こし、体にさまざまな症状を引き起こす場合がある。強い食物アレルギーがある場合、最悪の場合は死に至ることすらある[32]。
さらに、世界のほとんどで食用とされないものを、ある文化の人々が特殊な処理方法によって食品とすることもある。例えばフグには強い毒があるためほとんどの文化では食用としないものの、日本においては有毒部分を取り除いたものが美味として広く流通している。
上記のような極端な例を除いても、各地域において主に用いられる食品の違いはなお大きい。各地域はそれぞれ主に炭水化物を供給する主食を持つが、それにもコムギ、コメ、トウモロコシなどの穀物を主食とする地域から、キャッサバやタロイモなどのイモ類を主食にする地域まで幅がある[33]。乳製品も地域的な差の多い食品であり、遊牧民を中心に広い範囲に乳製品の利用圏が広がっている一方で、東アジアや東南アジアでは伝統的に乳製品を用いてはこなかった。しかしこうした食品の地域差は、とくに1990年代以降の急速なグローバリゼーションの進行によって標準化が進みつつあり、全体として縮小する傾向にある[34]。特色ある食品や料理はその地域文化の核となることも多い。ヨーロッパでは19世紀に民族意識やナショナリズムが興隆した結果、各地でその地域を代表するような名物料理が成立し、民族・地域意識の核のひとつとなってきた[35]。
注釈
- ^ 法改正前の食品衛生法第4条では、「この法律で食品とは、すべての飲食物をいう。ただし、医薬品医療機器等法(昭和35年法律第145号)に規定する医薬品及び医薬部外品は、これを含まない。」と規定していた[6]。
出典
- ^ 他言語では、羅: alimentum 独: Lebensmittelなど。
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- ^ 広辞苑第6版
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