食品 食品の価値

食品

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/07 23:56 UTC 版)

食品の価値

食品は、以下のような価値を有する[8]

  1. 安全的価値 - 飲食物は摂取する者の健康に大きな影響を与えるため、最も重要となる[9]
  2. 栄養的価値 - さまざまな栄養素が含まれ、容易に消化、吸収されることが求められる[10]
  3. 経済的価値 - 日常食品として常用することの容易性に関わる[11]
  4. 実用的価値 - 保存・調理・貯蔵・運搬などの簡易性[12]
  5. 嗜好的価値 - 美感や美味感など。嗜好品だけでなく、すべての食品が嗜好性を有する[12]

つまり食品は一般に、安全性という見地、栄養素(栄養価)という見地、経済性価格)という見地、実用性という見地、嗜好性という見地 から評価し分析することができる。このうち最も重要なのは「安全的価値」である。食品は摂取する人の健康や生命に影響を与えるからである。

食品と栄養

人間は基本的に食品を摂取することにより活動するエネルギーや生存に必要な物質を獲得する[13]。このため、さまざまな栄養素を含む食品を過不足なく摂取することが健康には不可欠である[14]。例えば、穀物やイモ類といった炭水化物を供給する主食だけでは栄養が偏るため、多くの文化圏において穀物はタンパク質を補うための豆類とセットで栽培され、消費されてきた[15]。こうした栄養素を適切に摂取するための指針も定められており、例えば日本では2005年に農林水産省が食事バランスガイドを公表して、1日に摂取すべき栄養素が得られる食品の種類・量の目安を示している[13]

通常の食事以外に、主に健康維持を目的として摂取される、いわゆる健康食品も広く販売されている[16]。各種栄養素を強化して栄養補給による健康増進をうたった機能性食品は世界で広く販売され急速に売上を伸ばしているが、日本を含めどの国でも明確な基準はなく、医薬品と食品の中間程度の扱いとなっている。ただし、その健康機能の表示に関してはどの国でも厳しい規制が敷かれている[17]

主食の不作などで食糧難が起こったときの代替食料として、世界各地に主にデンプンを供給するための救荒食物が分布している。こうした救荒食物は普段は味や食用とするための手間などの面で劣っていたり、有毒で特殊な処理をしないと食用とできないものなどが多く、通常時には食用とされないことがほとんどである[18]

食品の保存

食品の保存目的

食品の保存とは、食品を腐敗・変敗させることなく保つことをいい[19]、以下のような目的がある[20]

  1. 品質低下の防止
  2. 食品を生産地から遠隔地へ輸送し、供給の安定を図る
  3. 衛生上の危害を防止し、食生活の安全を確保する
  4. 食品の栄養価を保つ

食品の保存方法

食品をそのままの形で保存する方法

冷蔵庫の中で保存された食品
冷凍されたピザ
冷蔵
食品を凍結させず0から10℃で保存する方法である[20]。細菌の活動を完全に抑えることはできないため、短期間の保存に向いている[21]
冷凍
マイナス20℃からマイナス25℃の温度で急速に凍結させた後、マイナス15℃以下で保存する方法[22]。長期の保存に向いているが、細菌を死滅させるわけではないため、解凍後の取り扱いに注意する必要がある[22]。また、凍結により食品の組織に変化が起こり、鮮度が失われるという短所がある[22]
包装
包装により食品を外界から遮断することで、異物の混入や空気の流入を防ぐ[22]。様々な形態があり、包装用の素材の開発も進んでいる[23]
乾燥
天日熱風電気凍結(フリーズドライ)によって細菌の増殖や酵素の作用に必要な水分を減少させる[20]。乾燥の程度は、概ね約15%以下である[20]
地下貯蔵
食品を土中や、コンクリートの穴に入れる方法[20]さつまいもなどの保存に用いられる[20]
加熱殺菌
加熱により腐敗・変敗の原因となる微生物を死滅させ、酵素を破壊する[22]。具体的な方法としては蒸煮や焙煮のほか、液体瓶詰食品に用いられる低温殺菌法、缶詰食品に用いられる高温殺菌法がある[22]。加熱殺菌した食品は、開封後腐敗しやすい点に注意する必要がある[22]
保存料の添加
保存料を使用して細菌の死滅や増殖阻止を実現し、酵素の働きを阻害する方法[22]。添加することのできる保存料の量は法律で定められている[22]

食品を加工して保存する方法

塩蔵
食品に食塩を添加する方法[24]。食品を塩度の高い状態に置くと浸透圧によって脱水が起こり、細菌の増殖を阻止する[24]塩漬けの漬物が典型で、魚介類の保存にも用いられる[24]
ジャムの瓶詰。
砂糖漬け
濃度50%以上の砂糖液に漬け、脱水作用によって細菌の増殖を抑える[24]。例としてジャムゼリー羊羹加糖練乳など[24]
酢漬け
酢がもつ殺菌作用や、水素イオン濃度を変化させる性質を利用して細菌の増殖を抑える方法[24]
醤油漬け味噌漬け
食塩の脱水作用を利用し、調味と同時に保存性を高める[25]
  • 調味 - 調味加工の過程における加熱や脱水によって、保存性が高められる場合がある[26]。例として佃煮など[26]
瓶詰・缶詰
調味加工した食品をに入れ、密封・脱気・加熱殺菌する[26]
塩乾
食塩の添加と乾燥によって、調味とともに保存を図る方法[26]。塩分が多く水分が少ないほど長期保存に向く[26]。魚介類の干物が例として挙げられる[26]
魚類の燻製
燻煙
塩漬けにした肉類や魚類を、木材を不完全燃焼させて発生させた煙の中に置き、脱水により殺菌する方法[26]。煙の成分を食品が吸収し、特有の香気や風味がつく[26]
細菌・酵母・カビなどの利用
有用な細菌・酵母・カビを増殖させることで、他の細菌の増殖を抑える方法[26]。食品の成分が変化し、風味が増す[26]。例として、納豆、酒、味噌、醤油、チーズなど[27]

注釈

  1. ^ 法改正前の食品衛生法第4条では、「この法律で食品とは、すべての飲食物をいう。ただし、医薬品医療機器等法(昭和35年法律第145号)に規定する医薬品及び医薬部外品は、これを含まない。」と規定していた[5]

出典

  1. ^ 他言語では、: alimentum : Lebensmittelなど。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m 小学館『日本大百科全書』「食品」河野友美 執筆。
  3. ^ 広辞苑第6版
  4. ^ 用語解説(食品ロス参照)”. 京都府. 2020年6月1日閲覧。
  5. ^ 食品衛生法(昭和二十二年十二月二十四日法律第二百三十三号)”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局. 2009年11月30日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h i 健康食品調査(米国)”. 日本貿易振興機構ロサンゼルス事務所農林水産・食品調査課. 2020年6月1日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v 資料 1-1. コーデックス食品分類システム(Food Category System: FCS)”. 農林水産省. 2020年6月1日閲覧。
  8. ^ 食品保健研究会(編) 1989, pp. 29–31.
  9. ^ 食品保健研究会(編) 1989, p. 29.
  10. ^ 食品保健研究会(編) 1989, pp. 29–30.
  11. ^ 食品保健研究会(編) 1989, p. 30.
  12. ^ a b 食品保健研究会(編) 1989, p. 31.
  13. ^ a b 「好きになる栄養学 第3版」p3 麻見直美・塚原典子 講談社 2020年2月18日第1刷発行
  14. ^ 「好きになる栄養学 第3版」p29-30 麻見直美・塚原典子 講談社 2020年2月18日第1刷発行
  15. ^ 「世界の食用植物文化図鑑 起源・歴史・分布・栽培・料理」p24-25 バーバラ・サンティッチ、ジェフ・ブライアント著 山本紀夫監訳 柊風舎 2010年1月20日第1刷
  16. ^ 「好きになる栄養学 第3版」p16-17 麻見直美・塚原典子 講談社 2020年2月18日第1刷発行
  17. ^ 「食料の世界地図」p86-87 エリック・ミルストーン、ティム・ラング著 中山里美・高田直也訳 大賀圭治監訳 丸善 平成17年10月30日発行
  18. ^ 「世界の食用植物文化図鑑 起源・歴史・分布・栽培・料理」p26 バーバラ・サンティッチ、ジェフ・ブライアント著 山本紀夫監訳 柊風舎 2010年1月20日第1刷
  19. ^ 食品保健研究会(編) 1989, pp. 91–92.
  20. ^ a b c d e f 食品保健研究会(編) 1989, p. 92.
  21. ^ 食品保健研究会(編) 1989, pp. 92–93.
  22. ^ a b c d e f g h i 食品保健研究会(編) 1989, p. 93.
  23. ^ 食品保健研究会(編) 1989, pp. 93–94.
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  25. ^ 食品保健研究会(編) 1989, pp. 94–95.
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  27. ^ 食品保健研究会(編) 1989, pp. 95–96.
  28. ^ a b 「火と人間」p4 磯田浩 法政大学出版局 2004年(平成16年)4月20日初版第1刷
  29. ^ 「図説 人類の歴史 別巻 古代の科学と技術 世界を創った70の大発明」p119 ブライアン・M・フェイガン編 西秋良宏監訳 朝倉書店 2012年(平成24年)5月30日初版第1刷
  30. ^ 「新訂 食用作物」p3 国分牧衛 養賢堂 2010年(平成22年)8月10日第1版
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  33. ^ 南直人『ヨーロッパの舌はどう変わったか 十九世紀食卓革命』講談社〈講談社選書メチエ〉、1998年、98頁。ISBN 4-0625-8123-X 
  34. ^ 南直人『ヨーロッパの舌はどう変わったか 十九世紀食卓革命』講談社〈講談社選書メチエ〉、1998年、195 - 200頁。ISBN 4-0625-8123-X 
  35. ^ 南直人『ヨーロッパの舌はどう変わったか 十九世紀食卓革命』講談社〈講談社選書メチエ〉、1998年、209 - 212頁。ISBN 4-0625-8123-X 
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