侮蔑
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/29 14:00 UTC 版)
意義
侮蔑の類義語や現象形態は多数あり、侮蔑の類義語としては、悪態、悪口、罵倒、卑罵、憎まれ口、雑言、そしり、ののしり、皮肉、あだ名、侮辱語、蔑視語、毒舌、罵詈、罵倒、揶揄、非難、皮肉、風刺、陰口などがある[3]。
浜田1989[誰?]は、言語行動としての罵りを「対象の持つマイナス面に言及するか、あるいは、マイナスの評価を付し、対象を攻撃する言語行動」と定義している[3]。
金田一春彦は「日本語百科大事典」で「喧嘩、口論、もしくは制裁などの場で、悪行を暴露して非難を浴びせ、あるいは弱点を指摘して畏縮させるなど、相手をおとしめ、自己の優位を確立しようとする攻撃的ないいまわし」として、悪口、悪態、皮肉、あてつけ、あてこすり、厭味、陰口、諷刺などを列挙した[3]。
他方で、堀内1978[誰?]は、「罵倒には敵意や悪意のあるものと、親しみを裏返しに表すものがある」と指摘している[3]。
敵対というより一歩距離をおいて哀れんで見下げている場合は軽蔑と呼ばれることが多い。軽蔑の意図が薄く敵対的意図が強い場合は侮辱と呼ばれることが多い。風刺の意図が強い場合揶揄とも呼ばれる。
強い侮蔑を罵詈(ばり)といい、罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせるなどと表現があり[5]、侮蔑よりも誹謗中傷の意が強まる。場合によっては暴言と見なされたりする。
侮蔑対象のいないところで侮蔑する場合、陰口、かげごとと呼ばれる[5]。
侮蔑に使われる言葉(侮蔑語)
侮蔑や人種差別に使われる語を侮蔑語、蔑視語、憎悪語、不快語[2]、罵語、悪態語という[6]。
中国語では「罵人話」「下流話」、罵詈語、罵詈、罵話などと表わす[3]。
英語ではpejorative[7] またはスラー(slur)[8](陰でこそこそと言う中傷の意味)と言う[2]。ロシア語圏ではマット (mat) という罵倒語がある[9]。
侮蔑語はしばしば公の場所からは排除され、俗語となっている。
また、卑語 (Swear Words) 、卑罵語 (profanity) などもあり、卑罵語は宗教的な冒涜語としても使用される。
特定の人物や、特定の特徴をもつ人や物事を蔑んで(馬鹿にして、見下して)呼ぶ言葉、特に正式名称のある場合の別名を蔑称(べっしょう)といい、英語では差別的な蔑称をネーム・スラー (name slur) 、また人種差別的な蔑称はエスニック・スラー (ethnic slur) という[2]。
代表的な日本の侮蔑語に馬鹿・阿呆・間抜け、古語の「たわけ」などがある。英語ではビッチ (bitch) 、マザーファッカー (motherfucker)〔臆病者〕、アスホール (asshole) など、韓国語ではセッキ(새끼、ガキ)、ケーセッキ(개새끼、犬ころ)、シッパル(씨팔、性器)などの侮蔑語彙がある。
法と侮蔑
日本の刑法では、侮辱罪、名誉毀損罪などで規定されている。言語による侮辱表現は悪口とも呼ばれ、古くは武家法や御成敗式目第12条などで犯罪とされた[10]。
ロシア、ソ連では罵倒語(マット)への検閲は厳しく、小説や学術研究も禁止されて、使用した場合は名誉毀損罪に問われた[9]。ロシア刑法では「屈辱的な発言」が使用した場合を禁止し、インターネットでも禁止されている[9]。
ロシアでは、信者の感情を侮辱する(ロシア連邦刑法の148)、裁判官を侮辱する(ロシア連邦の刑法の297)、当局の代表者(ロシア連邦の刑法の319)および公務を遂行する軍人(ロシア連邦刑法336)、残りは2012年12月8日からの行政犯罪(ロシア連邦行政犯罪法第5.61条)(45項を参照) 2011年12月7日の連邦法第1条のN420-FZ「ロシア連邦の刑法およびロシア連邦の特定の立法法の改正について」)。
宗教と侮蔑
日本では、神道や仏教に関連した「穢れ」という概念があり、宗教的・精神的な意味で嫌悪を表現する場合、「けがらわしい」(汚らわしい、穢らわしい)という表現が使われる場合がある。
侮蔑、卑罵表現は反社会的に、タブーとされていることを破るのではないかともいわれる[3]。
キリスト教圏などで侮蔑する場合は罪の概念を用いることが多い。
社会における侮蔑
卑罵表現の機能
- 二重機能
李紋瑜によれば、卑罵表現は直接(顕在)的機能、間接(潜在)的機能の二重機能があるとされる[3]。直接(顕在)的機能では、敵意、憎悪、嫌悪などの感情を直接表出し、カタルシスを得る[3]。間接(潜在)的機能では親愛の表出がある[3]。例えば、親しいものに「アホ」と呼ぶことなど。このように、卑罵表現は人間を互いに敵対させる機能がある一方で、連帯や愛を生む面もあるとされる[3]。
また、ロシアでの罵倒語研究では、V・ジェルビスが『罵倒の戦場 社会問題としての悪態』(2001年) において、儀礼、抑圧、悪態の三項から説明し、抑圧された気持ちが表現されたものとした[9]。またモキエンコは「悪態をつく人は昔ながらの伝統的な方法で自分のロシア的な心を吐いて、人生、人々、そして政府に対する不満を表している」とのべた[9]。
冗談関係における卑罵表現
世界各地でみられる冗談をいいあう冗談関係においては、卑罵表現が使われ、どのような悪態でからかわれても、それに腹をたてないものとされる[11][12]。
北部カメルーンのフルベ族とカヌリ族は冗談関係にあるが、通常の冗談だけでなく、悪態、罵倒などもふくみ、「こいつはわたしの奴隷」「無用者」「犬の子」「ハイエナの化け物」「偽善者」「目も見えないくせに」といった言葉も使われ、さらには殴ったり、たたいたり、盗み、服を破ることなどの儀礼的な暴力もおこなわれる[11]。
また、ポライトネス理論によれば、同じ言語行動でも、相手との関係によって言語行動の心地よさは変化していくので、攻撃的な冗談であっても許容される[12]。普通の友人であれば侮辱と取られる行動も、親友であれば互いに楽しみうる冗談とみなされる[12]。
葉山大地、櫻井茂男によれば、「冗談関係の認知」という関係スキーマ(相互の関係についての知識の枠組み)によって、こうした冗談関係は変化していく[12]。
差別と侮蔑
社会的立場が弱い人に対する差別に使われる蔑称や侮蔑語は差別用語や放送問題用語・放送禁止用語とされ、公の場所での使用が禁止されたり、排除の対象になることがある。しかし、差別語の排除が過剰である場合、言葉狩りとして批判されることもある。社会的立場が平均的ないし強い人に対して使われる蔑称は揶揄として取り扱われる場合が多い。近年は差別的な侮蔑発言をヘイトスピーチ(憎悪表現)として制限する動きがある。
コミュニケーションの暴力
社会学者の中村正は、家族などの親密な関係における暴力には「心理的、言語的、感情的な暴力」やネグレクト行為などがあり、これらは「個人の尊厳を傷つけるようにした卑下、降格、侮蔑、罵倒、無視、つまりコミュニケーションの暴力としてある。人の尊厳を傷つけるような儀式のようにして機能するいじめ、罵り、辱め行為がある」と指摘し、侮蔑、罵倒、卑下といった行為を「コミュニケーションの暴力」として論じた[13]。
動物行動学、人間行動学から見た侮蔑
ダーウィンは『人及び動物の表情について』において軽蔑・侮蔑は嫌悪の感情、味覚や嗅覚との連合があるとしている[14]。
また、動物行動学と人間行動学者のデズモンド・モリスによれば、言語行動は不適切な状況、時と場所で行われると侮蔑表現になりうると指摘している[15]。
注釈
- ^ 「バイエル」は多くの日本の年少者が用いる初歩者用ピアノ教則本で、フェルディナント・バイエルが作曲した。但し、一般的には医薬品メーカーのバイエルと受け取られ、特にサッカーの世界ではバイエル・レバークーゼンに長年在籍し、または応援した者のことと受け取られるので、通常は使用しない。
- ^ タイトルに使用した漫画作品に『あばれブン屋』集英社、1996年-2001年がある。
- ^ 江戸時代の代言人(現在の弁護士)が一回三百文で代言を引き受けていたことから
- ^ 「ボッシュ」の用法は、時代的・社会背景的に前述「ジャップ」と並んで多用された経緯から、第二次世界大戦、分けても対ナチスドイツ戦線をテーマとする映画においてしばしば見受けられる。
- ^ 当時の4大女性週刊誌(週刊女性、女性自身、女性セブン、微笑〔現在は廃刊〕)が挙って採り上げ、表題でりえ痩せと称した。
出典
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品詞の分類
名詞およびサ変動詞(侮蔑) | 賤蔑 軽蔑 侮蔑 蔑如 侮慢 |
名詞およびサ変動詞(低評価) | 蔑如 愚弄 侮蔑 薄遇 藐忽 |
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