ルイベ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/08 18:05 UTC 版)
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日本語「ルイベ」の語源については、アイヌ語起源説[注 2][注 3][注 4][注 5]が定説もしくは有力説と言えるが、ごく一部にはロシア語起源説を唱える研究家もいる[8][9]。
現在[注 6]辞事典に記載されているルイベの主原料は、サケ類、コマイ、タラ、ホタテガイの4種類のみであるが[1][2][3][4]、一般には、イカ(烏賊)の沖漬けはしばしば凍らせた状態で食べられることから、これも「ルイベ」と呼ばれることがある[注 7]。
歴史等
蝦夷および北海道(近代以前の北海道と以後の北海道)では、晩秋から初冬にかけての寒い時期に獲れたサケ(鮭)やシシャモを軒下に吊るすか、雪の中に埋めて冷凍保存していた[10][11]。 冷凍することで、保存性が高まると同時に広節裂頭条虫(サナダムシ)やアニサキスなどの寄生虫が死滅する[12]。さらに、冷凍する過程で水分が適度に抜けるが、同時に脂も適度に落ちるので、サケの多すぎる脂と生臭さを低減することができ、その分だけサケの程よい脂と好い匂いを旨さや風味として強く感じることができるという。サケ以外にもコマイなど様々な魚がルイベに加工された[注 8]。外気で保存されたルイベは凍結と乾燥を繰り返した干物のような状態の食品であった。
その後、食材とされる魚の種類は増え、時期の特定は難しいが、サケ類(サケやマスなど)を使ったルイベが、北海道の郷土料理とされるようになった。サケと同じサケ類でもニジマスやヒメマスはのちに利用され始めた[注 9]。加えて、タラやホタテガイでも[4]作られるようになった[注 10]。また、国指定重要文化財「旧花田家番屋」(現存する鰊番屋/鰊御殿の一つ)が敷地内にある道の駅おびら鰊番屋は、ニシンのルイベを主食材とした「鰊ルイベ定食」を食堂で販売している[13][14][注 11]。
作る
市販されているルイベの製造に用いられるのは −20℃以下の冷凍が可能な業務用冷凍庫である[12]一方、一般の家庭用冷凍庫の温度はJIS規格において-18℃以下と定められており、寄生虫の死滅に至るまで業務用冷蔵庫を用いる場合より長時間の冷凍を要する。
注釈
- ^ ここで示した辞事典はいずれも「サケ類」ではなく「サケ/鮭」としているものの、分類学的には、「サケ(別名:シロザケ、学名:Oncorhynchus keta )」があり、サケが属する「サケ属(学名:genus Oncorhynchus)」があり、サケ属が属する「サケ類(サケ科 Salmonidae の人為分類的名称であり、サケ属を指すことも、サケを指すこともある)」があるため、正確な表現ではない。分類学を背負ってルイベに使われるサケを定義するならば、「サケ(シロザケ)を主としたサケ類のいくつかの種」という表現になる。
- ^ アイヌ語の "ru-ipe"(ルイペ/ルイベ、融ける魚)< ru(融ける)+ ipe(魚 < 食べ物)]に由来[5]。
- ^ 知里 2000, p. 61 より引用。
「イペ」(ipe)は本来は「食べ物」を意味していましたが、後に「魚」の意味になっているのです。同様な言葉に「チェプ」(chep)があります。これも「魚」を意味することばですが、本来は chi-e-p 、〔我らが・食う・物〕のことで、「食べ物」を意味する言葉です。それが魚を意味する言葉にもなっています。 - ^ 探検家・松浦武四郎が安政5年(1858年)に石狩川上流から十勝川流域を調査した際の、石狩川上流のコタンでルイベを振舞われた時の体験記。『十勝日誌』(万延元年/1860年の序跋あり)所収。
- ^ 『蝦夷風俗彙纂』(1882年/明治15年刊)に所収の一項「ルイベの事」における、松浦武四郎の体験記の引用。《原文》 ※書体は旧字体から新字体へ修正済み。約物は現代語的修正済み。[ ]角括弧内も引用者によるℍ原文の写し。〈 〉山括弧内はウィキペディア編集者による補説。
十勝上川村々の人家を廻る。所々にてルイベと云て、鮭の生残雪に漬置しを切てルサ[茅盆〈草の茎を編んだ盆〉]に盛る。マキリ[小刀]と柳の枝一本に塩を一撮添て出す。[7] - ^ 2020年代時点
- ^ キーワード検索[ イカの沖漬け ルイベ ][ イカ ルイベ ][ いかわた ルイベ ][ いか肝 ルイベ ]
- ^ キーワード検索[ コマイ ルイベ ]
- ^ キーワード検索[ ニジマス ルイベ ][ ヒメマス ルイベ ]
- ^ キーワード検索[ タラ ルイベ ][ ホタテ ルイベ ]
- ^ 少なくとも2010年代半ば以降[14]
- ^ 「shavings、削り屑」[22]を意味するロシア語に由来する[23]
出典
- ^ a b c d 小学館『デジタル大辞泉』. “ルイベ”. コトバンク. 2020年4月14日閲覧。
- ^ a b c d 三省堂『大辞林』第3版. “ルイベ”. コトバンク. 2020年4月14日閲覧。
- ^ a b c 小学館『精選版 日本国語大辞典』. “ルイベ”. コトバンク. 2020年4月14日閲覧。
- ^ a b c d e f g 講談社『和・洋・中・エスニック 世界の料理がわかる辞典』『日本の郷土料理がわかる辞典』. “ルイベ”. コトバンク. 2020年4月14日閲覧。
- ^ 更科源蔵・更科光 1976, pp. 447-448.
- ^ 松浦武四郎 (1860年). “十勝日誌”. 国立国会図書館デジタルコレクション(公式ウェブサイト). 国立国会図書館. 2020年4月14日閲覧。
- ^ “蝦夷風俗彙纂. 前編 巻8”. 国立国会図書館デジタルコレクション(公式ウェブサイト). 国立国会図書館. 2020年4月14日閲覧。
- ^ http://roshia.space/vocabulary.html [出典無効][リンク切れ]
- ^ 愛知県教育委員会 生涯学習課 (2004年〈平成16年〉11月20日付). “ロシア語-実存する「われわれ」-(講師:加藤史朗)< 平成16年11月20日 愛知県立大学公開講座「ことばの万国博覧会ヨーロッパ館 ロシア語」要約”. 学びネットあいち(公式ウェブサイト). 愛知県. 2020年4月14日閲覧。 “(日本語の中のロシア語)(...略...)ルイバ рыба(ルイベの由来)(...略...)それから北海道の珍味「ルイベ」があります。ルイベは凍った魚を切ったもので、これを広辞苑で調べるとアイヌ語となっているのですが、実は古いスラブの言葉です。”※加藤史朗(cf. KAKEN、日本の研究.com。ロシア社会思想専門。当時は愛知県立大学外国語学部教授、現・名誉教授)の講義。
- ^ a b c “ルイベ -『ポンカンピソシ』平成10年3月号 (PDF)”. 公式ウェブサイト. 北海道立アイヌ民族文化研究センター (HACRC). pp. 12頁 (9/36) (1998年3月). 2020年4月14日閲覧。
- ^ 西川北洋. “明治初期アイヌ風俗図巻「シシャモ ルイベ造り」”. 函館中央図書館デジタル資料室(公式ウェブサイト). 函館市立中央図書館. 2020年5月16日閲覧。
- ^ a b c d “郷土料理「ルイベ」と寄生虫”. 公式ウェブサイト. 株式会社 東邦微生物病研究所(総合衛生研究所 ティ・ビー・エル). 2020年4月14日閲覧。
- ^ a b 石田修大、日本経済新聞社クロスメディア営業局. “第42回 旧花田家番屋”. 日本の近代遺産50選(公式ウェブサイト). 日本経済新聞社. 2020年4月14日閲覧。 “「道の駅おびら鰊番屋」では鰊ルイベ定食、ウニ玉丼、ニシンそばなどが食べられる。”
- ^ a b c 画像と日付を典拠とする。“道の駅 おびら鰊番屋 - 日本一周第26日目 小樽~札幌~稚内”. majishini(個人ブログ) (2015年6月25日). 2020年4月14日閲覧。 “さて、鰊番屋ということなので「ニシンのルイベ定食」を昼食としていただく。”
- ^ 農文協 1992, pp. 47-48.
- ^ “サケ 北海道の食文化・サケ (PDF)”. 公式ウェブサイト. 国土交通省 北海道開発局 (HRDB). 2019年10月5日閲覧。
- ^ a b c d 中村正人(文) (2019年4月15日). “極東ロシアの先住民族ナナイの郷土料理はウオッカが合う”. NIKKEI STYLE. 日本経済新聞社、日経BP. 2020年4月14日閲覧。
- ^ 永山・長崎 2016, pp. 18.
- ^ 永山・長崎 2016, pp. 24.
- ^ 永山・長崎 2016, pp. 49.
- ^ 永山・長崎 2016, pp. 38.
- ^ “shavings”. 英辞郎 on the WEB. アルク. 2020年4月14日閲覧。
- ^ Rasputin et al. 1997, pp. 322–323.
固有名詞の分類
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