天球とは? わかりやすく解説

てん‐きゅう〔‐キウ〕【天球】

読み方:てんきゅう

地球上観測者中心とする半径無限大仮想球面すべての天体がこの球面上にのっている考える。

[補説] 書名別項。→天球


てんきゅう〔テンキウ〕【天球】

読み方:てんきゅう

長谷川櫂句集平成4年1992刊行


天球

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/14 02:49 UTC 版)

天球(てんきゅう、celestial sphere)とは、位置天文学において地球から見える天体の方向を表すために無限遠の距離に仮想した球面のこと。歴史的には、近代以前の自然学や天文学で、惑星恒星がその上に張り付き運動すると考えられた地球を中心として取り巻く球体のこと。

位置天文学における天球

の計算をする場合は、しばしば地球を中心として天体が動くという天動説的な説明をした方が都合が良い。よって、地球から無限大の距離にあるへの射影をおこない、天体はその上を動くものとした。この仮想的な球を天球とよぶ。黄道天の赤道・白道などは天球上の大円である。天球上の位置は赤道座標赤緯赤経)または黄道座標(黄緯・黄経)によって示される。

歴史的概念としての天球

プトレマイオスの体系に基づく天球。地球の回りに透明な物質でできた惑星と太陽の天球があり、恒星天の外側は神と神の選民の住まいとされた。天球は長い間実体をもつものとして扱われた。(ペトルス・アピアヌスCosmographia, 1539年)
トマス・ディッグズが16世紀にコペルニクスの新しい体系を説明するために用いた宇宙の図。ディッグズは恒星天を取り除いて無限の宇宙を想定したが、惑星は太陽を巡る入れ子状の天球に配置されている。

天球は、現代では位置天文学における仮想的な概念である。しかるに、歴史的にはまず、実体をもつ球面として構想された。天球は、座標系の導入や球面幾何の適用の土台となった。また、天体ごとに異なった天球を準備して、天体の運動を天球の運動で説明した。

天球の概念の発明は古代ギリシャであるとする説が、今のところ有力である。古代メソポタミアにおいても、獣帯は大地を取り巻いて円環状に展開しているとされたが、全天に拡張したかどうかは明確でない。天文学の外側では、天を半球として扱っていたようである。いずれにせよ、メソポタミアの天文学において、宇宙構造論は明確に語られなかった。

一方、古代ギリシャでは、大地を包み込む天を仮定する説は、大地の形状や動・不動にかかわらず、広範囲に見られた。その中で、紀元前4世紀のエウドクソスアリストテレスは、天球の存在を明確に語る。アリストテレスの『形而上学』Λ巻や『天について』では、地球を中心とする天球の多重構造と、水晶のように硬くて透明で、一様な速度での回転するといった基本的な性質が述べられている。

2世紀のプトレマイオスは著書『アルマゲスト』の第一巻において、地球説の議論に先立って、天が球形であることを証明する。彼の数理天文学は従円と周転円を基軸に据えているが、それらの実体は水晶のような天球だとした。彼の宇宙構造説は、のちの『惑星理論』で詳細に展開される。

『アルマゲスト』の周天円は地球を中に含まないため、古代からアリストテレス的な天球との矛盾が指摘された。それらの調停案として、一つの天体の運動に関わる複数の球を一纏めにし、その複合体を改めて天球とみなす議論が提案された。周天円に対応する球もその複合体の一部なのである。

中世に入って、『アルマゲスト』に基づく数理天文学が盛んになると、その中のエカント点などの、球の一様な回転を逸脱する機構に注意が向けられるようになった。これらはそもそも、『アルマゲスト』第一巻にも矛盾する。13世紀の東方イスラム世界では、マラーガ学派によってこれらの逸脱の除去が進み、天球の運動の自然学的な議論が進行した。

16世紀のコペルニクス地動説においても宇宙は惑星が運動する入れ子になった球体と恒星の天球(恒星天)とに取り囲まれていた。むしろコペルニクスの体系はプトレマイオスの体系の内の天球からの逸脱を少しでも減らし、太陽系に調和を取り戻そうとした試みでもあった。この点においては、彼の動機はマラーガ派に近く、完成した理論も太陽中心であることを除けば、ダマスカスのイブン・シャーティルとほぼ同じである。

一方で、太陽中心説は(当時認識されていた)恒星の運動を全て地球の運動で説明してしまった。恒星の貼り付く恒星天の利点の一つは、恒星全体の同期した運動の説明にあったから、恒星天の必然性は低下した。また、恒星の年周視差は観測にかからなかったため、恒星天が惑星の天球よりもはるかに大きなものと考える必要が生じた。コペルニクスの地動説の普及に努めたトマス・ディッグズは恒星天を取り除き恒星がちらばる無限の宇宙を導入し、ガリレオは恒星天があまりに巨大だとして自らの天球図に描き込まなかった。

「水晶のような天球」の概念に最初の打撃を与えたのは、ティコ・ブラーエ彗星の観測だった。彼の観測は、彗星の軌道が惑星の天球を突き抜けることを示した。ティコの学統のロンゴモンタヌスやイエズス会の天文学者、フランシス・ベーコンなどの天球の理論を保持するものは、これ以降、天球は液体だと仮定することになった。

それに対して、太陽の作用による惑星の運動の説明を構想したのがヨハネス・ケプラーであった。彼は、太陽の作用を磁石に喩え、ケプラーの三法則を提示し、従来の幾何学的な運動論に対峙した。一連の観測が彼の理論の優秀性を示したこともあって徐々に彼の議論は浸透し、やがてニュートンの重力理論が提示されると、もはや天球の仮説は役割を失ってしまった。

中国における天球

中国においても、前漢の太初暦制定の作業にあたって、アーミラリー球が用いられるようになる。これは、天が地を包む球だと想定して、初めて可能になる。これ以降、中国では古来の宇宙構造説に対して張衡らの渾天説、すなわち方形の大地を球形の天が囲むとの説が徐々に勢力を増していく。天球を模した渾象儀なども作られた。恒星の運動は天球の運動で説明され、日月の動きは石臼の上を動く蟻の動きに喩えられた。ただし、西方に見られるように球を多重に重ねる理論は生じなかった。

後に明末に欧州から天文学や自然学が流入すると、それと共に水晶のような天球の多層構造の理論も入る。ただし、西洋天文学を受容したものの中にも、気の運動を用いて天体の運動を説明する説もあり、一様にアリストテレス的な天球が受け入れられたわけではない。

「天球」という訳語の起源

明末、マテオ・リッチら宣教師を介して、西洋の天文学が伝来し、その時にラテン語からの訳語として成立した。現代確認できる初出は、『山海輿地全図』である。『書経』顧命の「天球河圖在東序。」から取られたという[1]。「地球」の語もこの語の拡張として作られた。

なお、『書経』に現れる「天球」は、古来、『朱子語類』樂古今で「但大樂亦有玉磬,所謂『天球』者是也。」とあるように、玉製の矩形の打楽器の、あるいは美しい玉製品とされ、特に丸い形状は想定されていない。また、「球」という文字には本来、「美しい玉」を表す字であって、球形などの特定の形状を指す意味は無かった[2]

脚注

  1. ^ 黄河清”地球”冶探源, 中国科技术语/2017 年、第19 卷 第 3 期
  2. ^ 邱韻如、觀天論地:明清士人對地「球」與地「動」之論辯。中華科技史學會學刊,(28),78-94、(2023)、p.79に、「「「球」 從玉,本義是美玉,而非指幾何上的球。」と述べられている。また、「球」『康煕字典』武英殿本版、1716に、形状を表す意味は記述されおらず、美玉または玉製の、あるいは琉球、といった意味が記述されている。

関連項目


天球

出典:『Wiktionary』 (2018/07/05 13:45 UTC 版)

名詞

てんきゅう

  1. 地球中心に、周囲にみたてたもの。

語源

マテオ・リッチ造語[1]

関連語

翻訳

参考文献


「天球」の例文・使い方・用例・文例

Weblio日本語例文用例辞書はプログラムで機械的に例文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「天球」の関連用語



3
全周カメラ デジタル大辞泉
100% |||||

4
全天カメラ デジタル大辞泉
100% |||||

5
全方位カメラ デジタル大辞泉
100% |||||

6
天体座標 デジタル大辞泉
100% |||||

7
天文座標 デジタル大辞泉
100% |||||


9
天の子午線 デジタル大辞泉
90% |||||

10
視位置 デジタル大辞泉
90% |||||

天球のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



天球のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
デジタル大辞泉デジタル大辞泉
(C)Shogakukan Inc.
株式会社 小学館
日本惑星協会日本惑星協会
All rights reserved. The Planetary Society of Japan 2025.
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの天球 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
Text is available under Creative Commons Attribution-ShareAlike (CC-BY-SA) and/or GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblioに掲載されている「Wiktionary日本語版(日本語カテゴリ)」の記事は、Wiktionaryの天球 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、Creative Commons Attribution-ShareAlike (CC-BY-SA)もしくはGNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。
Tanaka Corpusのコンテンツは、特に明示されている場合を除いて、次のライセンスに従います:
 Creative Commons Attribution (CC-BY) 2.0 France.
この対訳データはCreative Commons Attribution 3.0 Unportedでライセンスされています。
浜島書店 Catch a Wave
Copyright © 1995-2025 Hamajima Shoten, Publishers. All rights reserved.
株式会社ベネッセコーポレーション株式会社ベネッセコーポレーション
Copyright © Benesse Holdings, Inc. All rights reserved.
研究社研究社
Copyright (c) 1995-2025 Kenkyusha Co., Ltd. All rights reserved.
日本語WordNet日本語WordNet
日本語ワードネット1.1版 (C) 情報通信研究機構, 2009-2010 License All rights reserved.
WordNet 3.0 Copyright 2006 by Princeton University. All rights reserved. License
日外アソシエーツ株式会社日外アソシエーツ株式会社
Copyright (C) 1994- Nichigai Associates, Inc., All rights reserved.
「斎藤和英大辞典」斎藤秀三郎著、日外アソシエーツ辞書編集部編
EDRDGEDRDG
This page uses the JMdict dictionary files. These files are the property of the Electronic Dictionary Research and Development Group, and are used in conformance with the Group's licence.

©2025 GRAS Group, Inc.RSS